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第八章 世界の狭間で
世界の狭間で3
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「――ここは過去、現在、未来から切り離された、いわば世界の狭間。わけあって今俺たちはここにいる。
俺はこの時代からずっと後のとある未来からやってきた。
そこではタイムマシンが発明されていて、時間旅行というものが一般にも普及し始めているくらいに発展を遂げている。しかし、やはり多くの学者や研究者たちが警鐘を鳴らしていたように、時間旅行というビジネスが拡大するにつれて、いろんなところでトラブルが発生するようになっていった。
時の概念というのは、学者によっていろんな考えがあるようだが、やはり過去を変化させてしまうと、なにかしらその未来に影響を及ぼすのは確かなようだった。
そのため、時間旅行の旅行者には過去を旅しても、その場所で大きく未来を変えるようなことを起こしてはならないという法律が作られた。その法律に抵触したものは、時空犯罪者として捕らえられることになる。
俺は、そういう犯罪者を取り締まるタイムパトロールとして働く職員だった。同僚の鈴は、過去の歴史で変えられてしまった人々の記憶を改ざんして元の状態に戻す仕事を主としてやっている、まあ俺の相棒だ。
日本という国のこの時代にやってきたのは、そんなタイムパトロールの仕事の一環からだったわけだが、そこでとある犯罪者を追っていた際に、俺の身に重大なトラブルが起きた。
その犯人が俺に対し、攻撃を仕掛けてきたんだ。しかも、それはとても巧妙で手の込んだものだった。
俺はまんまとその罠に陥り、すべての記憶を封じられることになってしまったんだ。
過去の日本という国のとある街で、朔という名の高校生として暮らしている。
それが朔夜であった俺の記憶に上書きされた。ご丁寧に周囲の人間の記憶まで改ざんしていった奴の手口は、犯罪者としては天才的だった。
その証拠に、鈴が俺の居所を掴むのにここまで時間がかかってしまったわけだ。
朔というのは、犯人によって作られた偽者の人格。だから俺のなかに朔がいると言ったのは、そういう意味だ。
つまり、朔はこの世に存在しない。
なぜなら、もともと朔という人間はこの世にいなかったのだから。犯人の作り出した偽者の記憶に過ぎないのだから」
僕は、あまりの衝撃に言葉を失い、ただただ呆然と朔夜を見上げていた。心に大きな空洞が開いてしまったように、寒々しい気持ちが胸を通り抜けていく。
「鈴がお前たちに先に接触をはかったのは、朔という存在が、あまりにもこの世界に溶け込み、違和感なく存在していたために、朔が俺だという確証がすぐに掴めなかったかららしい。けど、やはり朔が俺だということがはっきりわかった時点で身柄を確保しに来たというわけだ。だが、まだ問題は山積していた」
頭は混乱から抜け出せてはいなかったが、朔夜の話を聞き漏らしてはならないという意思だけは働いていた。続く言葉に注意を向ける。
「犯人がやらかしたのは、俺の記憶をいじることだけに留まらなかった。奴はなにか重大な、世界を根幹から変えてしまうようなことをしてしまったんだ。そしてついにそれは起こってしまった」
朔夜は一度言葉を切ってから、こう続けた。
「世界の終わりが」
俺はこの時代からずっと後のとある未来からやってきた。
そこではタイムマシンが発明されていて、時間旅行というものが一般にも普及し始めているくらいに発展を遂げている。しかし、やはり多くの学者や研究者たちが警鐘を鳴らしていたように、時間旅行というビジネスが拡大するにつれて、いろんなところでトラブルが発生するようになっていった。
時の概念というのは、学者によっていろんな考えがあるようだが、やはり過去を変化させてしまうと、なにかしらその未来に影響を及ぼすのは確かなようだった。
そのため、時間旅行の旅行者には過去を旅しても、その場所で大きく未来を変えるようなことを起こしてはならないという法律が作られた。その法律に抵触したものは、時空犯罪者として捕らえられることになる。
俺は、そういう犯罪者を取り締まるタイムパトロールとして働く職員だった。同僚の鈴は、過去の歴史で変えられてしまった人々の記憶を改ざんして元の状態に戻す仕事を主としてやっている、まあ俺の相棒だ。
日本という国のこの時代にやってきたのは、そんなタイムパトロールの仕事の一環からだったわけだが、そこでとある犯罪者を追っていた際に、俺の身に重大なトラブルが起きた。
その犯人が俺に対し、攻撃を仕掛けてきたんだ。しかも、それはとても巧妙で手の込んだものだった。
俺はまんまとその罠に陥り、すべての記憶を封じられることになってしまったんだ。
過去の日本という国のとある街で、朔という名の高校生として暮らしている。
それが朔夜であった俺の記憶に上書きされた。ご丁寧に周囲の人間の記憶まで改ざんしていった奴の手口は、犯罪者としては天才的だった。
その証拠に、鈴が俺の居所を掴むのにここまで時間がかかってしまったわけだ。
朔というのは、犯人によって作られた偽者の人格。だから俺のなかに朔がいると言ったのは、そういう意味だ。
つまり、朔はこの世に存在しない。
なぜなら、もともと朔という人間はこの世にいなかったのだから。犯人の作り出した偽者の記憶に過ぎないのだから」
僕は、あまりの衝撃に言葉を失い、ただただ呆然と朔夜を見上げていた。心に大きな空洞が開いてしまったように、寒々しい気持ちが胸を通り抜けていく。
「鈴がお前たちに先に接触をはかったのは、朔という存在が、あまりにもこの世界に溶け込み、違和感なく存在していたために、朔が俺だという確証がすぐに掴めなかったかららしい。けど、やはり朔が俺だということがはっきりわかった時点で身柄を確保しに来たというわけだ。だが、まだ問題は山積していた」
頭は混乱から抜け出せてはいなかったが、朔夜の話を聞き漏らしてはならないという意思だけは働いていた。続く言葉に注意を向ける。
「犯人がやらかしたのは、俺の記憶をいじることだけに留まらなかった。奴はなにか重大な、世界を根幹から変えてしまうようなことをしてしまったんだ。そしてついにそれは起こってしまった」
朔夜は一度言葉を切ってから、こう続けた。
「世界の終わりが」
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