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第三章 呪われたクラス
呪われたクラス6
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「あと特に変わったことというと……」
美鈴ちゃんは天井を見上げて少し考え、思い出したようにあっと声を上げた。
「そういえば、うちのクラスに転校生が入ってきたんです」
「転校生?」
「春から転入してきたんですけど、とても綺麗な女の子なんですよ」
美鈴ちゃんはそう言って微笑んだ。同姓から綺麗と言われる女の子なら、きっと性格も良いのだろう。しかし中三の受験も控えた年に転校とは、また慌ただしいことだ。
「まあ彼女はなにも関係ないと思いますけどね」
「そう。すごく良い子なのね」
「はい。頭も良くて綺麗で優しくて、でもそれを鼻にかけたりなんて絶対しないんです。あたしが男だったら絶対好きになっちゃいます。あ、でもミナミさんもすっごく素敵ですよ!」
なぜか最後の台詞を強調する美鈴ちゃん。
「ありがとう。よく言われるわ」
平然と返すあたりはさすがだ。
「とりあえず、一度美鈴ちゃんたちのクラスを調べたほうが良さそうね。人形の件とも関係があるかもしれないわ」
「でも、どうやって調べるんですか。夏休み中だし、教室も閉まってるんじゃないですか?」
僕がそう言うと、ミナミはじろりと睨んできた。
「そんなのどうにでもなるでしょ。母校なわけだし。少しは自分で考えなさい」
心が吹雪で凍り付く。僕に対する扱いが悲しいくらいに冷たすぎる。まあいつものことだけど。と、なんの解決にもならないフォローでごまかすしかない僕。
「あたしが忘れ物したってことにして、先生に頼んで開けてもらいますよ」
と、適切な対処策をさわやかに言う美鈴ちゃん。僕の立つ瀬はもはやないに等しい。
そんなやりとりはともかく、明日は学校を調べるということに決定した。池沢くんのほうもそのあと寄って、会えたら話を聞くということになった。
しかし毎日こんなことばかりしててもいいのだろうか。美鈴ちゃんに至っては受験生でもあるわけだし。
前田家を出てから美鈴ちゃんに訊くと、
「ちゃんと家で勉強してますから平気です」と、笑顔で返された。
なんというすばらしい答え。
僕たちは昨日と同様、一旦熊田家に戻り、そこで熊田兄妹と別れた。美鈴ちゃんは元気にまた明日、と手を振ってくれた。熊田は名残惜しそうに僕ら(正確にはミナミ)を見送っていた。
「なかなかオカ研の活動も充実してるわね」
僕の自転車の後ろに乗りながら、ミナミがそう言う。
「部員も増えて、ホント部活動って感じになってきましたね」
「まだ準部員よ。でも美鈴ちゃんは部員に昇格させてあげてもいいかな」
「あれ? 熊田くんは駄目なんですか?」
そう言いながら、ちょっとほっとしている僕。
「そうねー。悪い子じゃないんだけど、誠二くんと五十歩百歩というか、あんまり使えなさそうな感じがするのよねー」
ねーって、僕まで微妙に虚仮にされてますけど。
はあっとやりきれない思いを吐き出して、ペダルを漕ぐ足に力を入れる。
緩やかな下り道に差し掛かった。ほんの少しだが、この風を切って走れる時間が嬉しい。薄紫色に染まりかけた空を眺めながら、僕たちは進む。
前方に見えてきた田んぼの稲が、さわさわと揺れ動いていた。
※ ※ ※
今日千夏と喧嘩をした。
きっかけはほんの些細なことだった。誤って、千夏のお気に入りのスカートにジュースを零してしまったのだ。無論わざとではない。手元が狂ってジュースの入ったコップを倒してしまい、運悪くその方向には千夏がいたというだけだ。
千夏は大騒ぎし、謝る私を責め続けた。私が悪かったのは認める。しかし、そこまで怒る必要はないだろうと思った。
騒ぎを聞きつけてやってきた叔母さんが、その現場を見て真っ先に私を叱った。叔母さんは千夏の味方をしたのだ。
私は零れたジュースの後片付けをすると、すぐさま二階の自分の部屋へと戻った。そしてそこにいた唯一の味方である由美に、そのことを話していた。
(少女の日記9ページ目より)
美鈴ちゃんは天井を見上げて少し考え、思い出したようにあっと声を上げた。
「そういえば、うちのクラスに転校生が入ってきたんです」
「転校生?」
「春から転入してきたんですけど、とても綺麗な女の子なんですよ」
美鈴ちゃんはそう言って微笑んだ。同姓から綺麗と言われる女の子なら、きっと性格も良いのだろう。しかし中三の受験も控えた年に転校とは、また慌ただしいことだ。
「まあ彼女はなにも関係ないと思いますけどね」
「そう。すごく良い子なのね」
「はい。頭も良くて綺麗で優しくて、でもそれを鼻にかけたりなんて絶対しないんです。あたしが男だったら絶対好きになっちゃいます。あ、でもミナミさんもすっごく素敵ですよ!」
なぜか最後の台詞を強調する美鈴ちゃん。
「ありがとう。よく言われるわ」
平然と返すあたりはさすがだ。
「とりあえず、一度美鈴ちゃんたちのクラスを調べたほうが良さそうね。人形の件とも関係があるかもしれないわ」
「でも、どうやって調べるんですか。夏休み中だし、教室も閉まってるんじゃないですか?」
僕がそう言うと、ミナミはじろりと睨んできた。
「そんなのどうにでもなるでしょ。母校なわけだし。少しは自分で考えなさい」
心が吹雪で凍り付く。僕に対する扱いが悲しいくらいに冷たすぎる。まあいつものことだけど。と、なんの解決にもならないフォローでごまかすしかない僕。
「あたしが忘れ物したってことにして、先生に頼んで開けてもらいますよ」
と、適切な対処策をさわやかに言う美鈴ちゃん。僕の立つ瀬はもはやないに等しい。
そんなやりとりはともかく、明日は学校を調べるということに決定した。池沢くんのほうもそのあと寄って、会えたら話を聞くということになった。
しかし毎日こんなことばかりしててもいいのだろうか。美鈴ちゃんに至っては受験生でもあるわけだし。
前田家を出てから美鈴ちゃんに訊くと、
「ちゃんと家で勉強してますから平気です」と、笑顔で返された。
なんというすばらしい答え。
僕たちは昨日と同様、一旦熊田家に戻り、そこで熊田兄妹と別れた。美鈴ちゃんは元気にまた明日、と手を振ってくれた。熊田は名残惜しそうに僕ら(正確にはミナミ)を見送っていた。
「なかなかオカ研の活動も充実してるわね」
僕の自転車の後ろに乗りながら、ミナミがそう言う。
「部員も増えて、ホント部活動って感じになってきましたね」
「まだ準部員よ。でも美鈴ちゃんは部員に昇格させてあげてもいいかな」
「あれ? 熊田くんは駄目なんですか?」
そう言いながら、ちょっとほっとしている僕。
「そうねー。悪い子じゃないんだけど、誠二くんと五十歩百歩というか、あんまり使えなさそうな感じがするのよねー」
ねーって、僕まで微妙に虚仮にされてますけど。
はあっとやりきれない思いを吐き出して、ペダルを漕ぐ足に力を入れる。
緩やかな下り道に差し掛かった。ほんの少しだが、この風を切って走れる時間が嬉しい。薄紫色に染まりかけた空を眺めながら、僕たちは進む。
前方に見えてきた田んぼの稲が、さわさわと揺れ動いていた。
※ ※ ※
今日千夏と喧嘩をした。
きっかけはほんの些細なことだった。誤って、千夏のお気に入りのスカートにジュースを零してしまったのだ。無論わざとではない。手元が狂ってジュースの入ったコップを倒してしまい、運悪くその方向には千夏がいたというだけだ。
千夏は大騒ぎし、謝る私を責め続けた。私が悪かったのは認める。しかし、そこまで怒る必要はないだろうと思った。
騒ぎを聞きつけてやってきた叔母さんが、その現場を見て真っ先に私を叱った。叔母さんは千夏の味方をしたのだ。
私は零れたジュースの後片付けをすると、すぐさま二階の自分の部屋へと戻った。そしてそこにいた唯一の味方である由美に、そのことを話していた。
(少女の日記9ページ目より)
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