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45. 白梅の見解

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 次の日、白梅が目覚めると、すでに朝になっていた。
 朔夜は起きており、焚き火で湯を沸かしている。

 白梅は目をこすりながら、疑問だらけの頭の中を、そのまま口に出した。

「え、もう朝? 私のこと、起こさなかったの……?」
「よく眠っていた」

 白梅が眠ったあとに、朔夜が眠るはずだった。
 朔夜は、白梅のことを起こさずに、一晩中、火の番をしていたのだろうか?

「朔夜は寝てないの?」
「先ほど少し眠ったから、気にしなくて良い」
「そうなの……私だけごめんね。今から私が、食材を取ってくるから、その間に寝たらどうかな?」
「食材はそこに用意してある」

 朔夜が目を向けた先には、小魚と捌かれた鳥、野草と木の実などの沢山の食材が置いてあった。
 この量であれば、昼食の分も用意ができそうだ。

「ええ……! もう取ってきてくれたの、ありがとう!」

 朔夜の手際の良さに、白梅は感激してしまった。

「調理してくれるだろうか」
「うん、すぐに作るから!」

 朔夜の期待を受けて、白梅は気合を入れて調理に取りかかった。


 ***


 ふたりは、食べ物に感謝しながら、白梅の料理を食べ終わった。
 そして、各自その他の準備が済むと、すぐに早少女村に向かって出発した。

 白梅は歩きながら、頭の中で、これまでに起きたことを、また整理しようとした。
 しかし、白梅が吹き矢に当たった後に見たものについては、実際に起きたことなのかが不明確だった。

「うーん……」

 朔夜は、ひとりで悩み続ける白梅を見かねて、声をかけた。

「何か気になることが?」

「私ね、なぜか分からないけど、吹き矢に当たったあとのことが、少し分かるかもしれないの」

 白梅がそう伝えると、朔夜は何かを考え込むように、口元に左手を添える。

「なぜ? 意識を失っていたのでは?」
「そうなんだけど……どうしてなのかは、分からなくて。そもそも、私が知ってることが、本当に現実で起きてたことなのかも自信がないの」

 白梅は、朔夜に事実を確認することにした。

「あの時人間の前王は、私が目的だと……そう言っていたと思うのだけど、あってる?」
「あっている」

 朔夜は、少し間を空けてから答えた。
 そうであれば、なぜ白梅を狙ったのか。

「確か理由も、言ってたよね」
「あなたの魂は、母親である九尾の狐の魂と混ざり合っており、その狐の魂を蘇らせるためだと」

 そう答えた朔夜の瞳には、仄暗いものが宿っていたが、白梅は気がつかなかった。

『娘の魂を消滅させ、狐の魂を蘇らせる』

 やはり白梅の知っていることは、白梅が意識を失ったあとに、現実で起こっていたことのようだ。
 しかし、九尾の母親の魂と混ざり合っている、というのは、一体どういうことなのだろうか?

(私とお母さんがくっついているってこと?)

 白梅は混乱した。

『私は九尾の狐だから、あなたの願いを、あと八つ、手伝ってあげられる』

 白梅だけに女性の声が聞こえるのは、魂が混ざっているからなのだろうか? 

(お母さんは……私と一緒にいるの?)

 白梅はふと、自分が他の妖獣と、少し違うと思われる点を思い出した。

(そうだ、イヌ族の紋章……)

 白梅はネコ族の見た目をしているのに、なぜかイヌ族の紋章が体に付いているのだ。
 白梅は、朔夜に尋ねた。

「ねぇ、狐の妖獣は、どこの種族になるのかな?」
「イヌ族に分類される」
「やっぱり……」

(もしかして……この紋章は、お母さんのもの?)

 白梅を助けてくれる、他の人には聞こえない声……そしてイヌ族の紋章。
 確かに白梅の中に、母親の存在があるのかもしれない。

 そこまで考えて、白梅は少しおかしな点に気がついた。

「ねえ、前王は、私のお母さんが愛した相手は……誰だと言っていたっけ?」
「……青龍」

 朔夜は少し間を空けて、答えづらそうに返した。

 そうなのだ、九尾の狐の女性が愛したのは、青龍だと言っていたのだ。
 母親が狐だとして、その母が青龍を愛していたのであれば、普通に考えた場合、白梅の体も狐か龍のどちらかになって生まれるのではないだろうか。

 白梅は顔色を青ざめさせた。

「何を考えている?」

 朔夜が足を止め、白梅の腕を掴んで、自身に引き寄せた。
 白梅は泣きそうな顔で、鋭い眼差しを向けている朔夜を見上げると、小さくつぶやいた。

「私は白猫で、お母さんは狐で、お母さんが愛したひとが青龍だったなら……私のお父さんは、一体だれ……?」
「……」

 朔夜は答えなかったが、白梅は、自身の考えがついに、核心に迫ってきたことを感じた。
 白梅は、朔夜の腕をゆっくりと解いて、思考を続けるように歩きはじめた。

(私の、お父さん……)

 白梅の父親は、通常で考えれば、白猫であるはずだ。
 しかしなぜか、ここまでの話には、母親ばかりが出てきており、父親の正体がいっさい出てきていない。

 母親が本当に愛するひとがわかった以上、父親がこの件と無関係であるとは、白梅はとても思えなかった。

『お嬢さんは一度、ご自分の起源についてちゃんと知った方がよい』

 ふと、以前に街の占い師が、白梅に言った言葉を思い出す。
 起源というのは、今回の場合は、両親のことを指していたのだろうか?

(そういえば……)

 あの占い師は、占いの結果だとは言っていたが、なぜか白梅の左腕の紋章について、確実に言い当てた。
 確か、あの占い師が使っていた紙には、珍しい幾何学模様のような図が描かれていたが……

「占い師が、持っていた紙の模様って……」

 あの占い師が持っていた紙によく似た、幾何学模様のような図を、白猫は、前王が現れた時の記憶で見た気がする。
 朔夜を拘束していた、あの不思議な術だ。

 そしてもう一つ、白梅は直接、幾何学模様のような図をどこかで目にしている。
 あれは、一体どこだっただろうか……

「最初に目が覚めた場所……」

 そうだ。
 白梅が倒れたあとに目覚めて、一番最初に見た薄暗い小屋の中に、不思議な図が描かれた紙が散らばっていたはずだ。
 あの場所で確か、白梅の両親と思われる記憶を思い出したはずだが、小屋の中には他にも何か、両親に関する手掛かりなどがあったのだろうか?

「ねぇ、朔夜……」

 白梅が話しかけようとしたところを、朔夜が遮った。

「もうすぐ竹林に入る。そこで一度、休憩を挟もうと思う」
「うん……」

 朔夜は、先ほどからこの件に関して、白梅にあまり触れてほしくない様子だった。
 白梅が知らない何かを、彼は知っているのだろうか?

 白梅は、機会を見て、朔夜の考えについても教えてもらおうと思った。
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