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42. 罪悪感

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 白梅は、その返答を聞いて安心し、わずかに喜びが湧き上がった。
 朔夜からは、本当に悪くは思われていないのかもしれない。
 
(好きな獣は、猫……)

 そして同時に、少し意外に思った。

 白梅は、思わず朔夜に近づいて、その横顔を覗き込んだ。
 白い陶器のような、きめの細かい肌が目に入る。
 いつしか白梅は、吸い込まれるように、その横顔に魅入っていた。


 しばらくすると突然、朔夜が目を開いた。

「わぁ!」

 突然のことに白梅は驚いて、その上半身を後ろによろけさせ、ひっくり返りそうになった。
 朔夜がその様子に気がつくと、咄嗟に白梅の体を支えた。

「あ、ありがとう……」

 朔夜は白梅の体を離すと、こめかみの辺りを両手で抑えた。
 そして、白梅に質問をした。

「私はどのくらいの間、眠っていた?」
「ほ、ほんの少しの間だけだよ」

 白梅がそう返すと、朔夜は左手で眉間を抑えて、それ以上は何も追求してこなかった。

(そういえば私……意識のない朔夜に、色々質問しちゃってた……)

 先ほどの会話を思い出すと、白梅が驚くような、朔夜の個人的な内容が多く含まれていた。
 意識のない相手から、そういった話を聞いてしまったことに、白梅はなんともいえない罪悪感を感じていた。
 
 白梅は朔夜に謝ろうとした。

(え、えっと……)

 しかし、なんと切り出したらよいか分からず、その場で悩んでいた。
 白梅がきちんとお礼を果たす前に、朔夜に嫌われて、側から離れられてしまうことを恐れていたためだ。

 白梅は俯いて、無意識に小さな声で呻いた。

 深く悩みはじめた白梅の様子を見かねて、朔夜が声をかけた。 

「早少女村には?」

 白梅は、突然のその質問に驚きつつも、記憶を辿りつつ答えた。

「えっと……早少女村は、目が覚めて最初に行ったよ。でも、村の中には入っていなかったかも」

(一番最初に、村の入り口で記憶を取り戻して……その後、すぐに体を探しに行ったんだった)

 村の入り口付近から様子を見て、記憶と変わらず廃村であることは確認したが、村の中には足を踏み入れていなかった。
 そういえば、皆はまだあの場所で、静かに眠っているのだろうか。

(皆……紗代……村長……)

 白梅は、記憶を辿るうちに、無性に早少女村へ帰りたくなってきた。

 村に帰って、様子を見て、皆に新しい花をお供えしたいと思った。
 そして、皆に祈りを捧げ、村が滅んだ後に、白梅の身に起きたことを伝えたかった。

「村に……帰りたい……」

 白梅は、思わず声に出していた。
 その声は、わずかに泣きそうに震えている。

「早少女村までの道を案内する」

 その言葉を聞いて、白梅は弾かれたように顔をあげた。

「良いの?」
「もし迷惑でなければ、私も村まで同行したい」
「迷惑じゃないよ! でも、本当に良いの?」

 朔夜は頷いたので、白梅は少し嬉しく感じた。

 白梅は、朔夜にこれから沢山お礼がしたかった。
 その機会を伺えるのは、願ったり叶ったりであった。

 それに、今まで朔夜と一緒にいた日々は、楽しくて、とても安心できたので、白梅としては有り難いかぎりだった。

「嬉しい……」

 白梅は、少し元気を取り戻した。
 朔夜は、まだ顔色のよくない白梅を見て、続けた。

「明日、村に向けて出発をしようと思う。今夜はもう休むといい」

「うん……今日はありがとう。引き留めちゃって、ごめんね。おやすみなさい」
「……良い夢を」

 そう言うと、朔夜は部屋を去っていった。

 しばらくの後、白梅は、朔夜に謝るタイミングを完全に逃していたことに気がついた。
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