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25. 赤い衣の人間
しおりを挟む白梅たちは、祭りの準備を行う人々を眺めながら、邪魔にならないように、ゆっくりと街の入り口に向かった。
人々が慌ただしく行き交う中で、様々な声が飛び交っている。
「病人が目を覚ましたらしい!」
「もう熱は引いたみたいだ」
白梅はその言葉を聞いて、安心した。
白梅たちの歩く速さよりも、噂が広まる速さの方が、早そうだ。
白梅たちが、街の入り口に辿り着くと、小さな人だかりが見え、さらに鋭い声が聞こえて来た。
「この街は閉鎖しないでくれ!」
「今日は祭りの日なんだ」
「早く帰ってくれ!」
どうやら、街の人たちと、赤い衣を来た人たちが、言い争っているようだった。
赤い衣の人間が、大きな声で言い放つ。
「周辺の街はどこも病人だらけなんだ。この街にも影響が及んでいるはず」
「だから、この街に病人なんて居ないって、何度も言っている!」
「そんなはずはないだろう。邪魔をするな」
街へ入ろうとする赤い衣の人間たちを、街の人たちが阻止しようとしているようだ。
「嘘だと思うなら、医者に聞いてくれよ!」
街の住人がそう言うと、一人の白い衣を来た男性が、前に進み出た。
赤い衣の男が声を上げる。
「本当に、この街には病人が一人もいないのか」
「はい、この街に症状が出ている者は、見受けられません。祭りは予定通りに行えます」
医者と思われる男が、赤い衣の人間たちを見据えて、そう言い切った。
その答えを聞くと、赤い衣の人間たちは、悔しげに、街の入り口へと引き返していった。
「これだから、お国の役人は嫌いなんだ!」
街の住人たちは、口々に声を荒げながら、その場から散って行った。
白梅は、赤い衣の人間たちが向かう先を見て、不自然に思った。
(あの人たち、さっきの川がある方に向かって行った……?)
そういえば、過去の記憶で、朔を追いかけていた人物たちも、赤い衣をまとっていた気がする。
先日、火事が起きた村でも、赤い衣を着た人たちが襲いかかってきたはずだ。
街の住人は、赤い衣の人のことを、国の役人だと言っていたが……
「あの、君たちが涼太君を処置してくれたのですか?」
白梅は、突然、横から知らない声が聞こえたので、驚いて心臓が飛び出そうになった。
恐る恐る振り返ると、先ほど医者と呼ばれていた男が、近くに立っていた。
白い衣を着た柔和そうな男性は、首を傾げながら、白梅と朔夜を交互に見ている。
白梅は、少し緊張しながら、逃げ出しそうになるのを我慢して答えた。
「うん、私達がみていたよ。でも、たいした処置はしてないの……」
「やはりそうでしたか。私はこの街で医者をしている者です。私がいない間に、涼太君を助けていただいてありがとうございました」
医者が、深々と頭を下げた。
白梅は、どうしたらよいか分からず、慌てて首を左右にふり、頭を下げ返した。
「最近、近隣の街では、原因不明の体調不良を訴える者が多くて、医者が不足しているのです」
「そうだったんだ……」
「私は先ほどまで隣街を見ており、今し方戻りました。この街でも、寧々さんのお宅で病人が出たと噂で聞きましたが、すでに回復に向かっているようで安心しました」
(噂が広まるのが早い……)
白梅は、少し驚いていた。
「今日は梅祭りの日ですので、本当に助かりました。何かお礼をしたいのですが……」
「そんな、気にしなくて大丈夫だよ!」
「寧々さんが言っていたようなのですが、君は薬にお詳しいのではないですか? もし何か欲しい薬や、薬草や植物などがありましたら、私が調達しますので仰ってください」
「薬……植物……」
白梅は考え込んだ。
一つだけ、長年どうしても気になっている植物があったのだ。
白梅は、自分が答える前に、朔夜に確認してみた。
「朔夜は、何か欲しいものはある?」
「ない。あなたが欲しいものを答えるといい」
朔夜がそう答えたので、白梅はおずおずと医者を見あげて言った。
「マタタビという植物が気になっているの。珍しいから、見たことが無くて」
「マタタビならうちにありますよ。実もご用意しましょう」
「え、実があるの?」
「食べることもできますよ」
「そうなんだ、食べてみたいかも……」
医者は少しの間、考え込んだ後、何かを思いついたようだった。
「ちなみに、今日はどこに滞在されるのですか?」
「寧々さんの働いている宿屋に泊まるから、あとで行く予定なの」
「分かりました、では昼あたりに届けに行きます」
「ありがとう……!」
白梅は嬉しくなって、医者に向かって顔を赤らめながら、微笑みを浮かべた。
一方で朔夜は、医者に向かって冷たい視線を送っている。
医者は、少し居心地悪そうに笑みを浮かべて、
「では私は、街の巡回をしますので、後ほど」
そう言って頭を下げると、街の中へ去っていった。
医者の後ろ姿を見送ると、白梅と朔夜は、街の外に向かって歩きはじめた。
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