25 / 52
24. 原因
しおりを挟む白梅は川へ向かう途中、念のために、精神安定作用のある薬草を、摘んでおいた。
しかしその薬草は、保険で摘んだもので、薬に使うかどうかは、後ほど、涼太の容態次第で決めようと思った。
「朔夜は、この辺りの場所にすごく詳しいんだね」
「何度か訪れたことがある」
「そうだったんだ」
ふたりは話しながら、しばらく歩くと、川が見えてきた。
しかし、川の中がよく見える場所まで移動すると、白梅と朔夜は立ち止まり、表情を固くした。
「これって……」
川の中には、まばらに白い小石が沈んでいる。
よく目を凝らすと、白い小石は川底に、数多く転がっているようだった。
その石は、ところどころが細長く鋭利に欠けており、乳白に少量の桃色が混ざったような色をしている。
「トカゲ族の骨……?」
朔夜は頷くと、無言で川の中に入って、骨を拾い始めた。
そして、落ちていた全ての骨を拾い集めると、布に包み、懐に仕舞った。
(どうしてこんなところに……?)
この辺りでトカゲ族の妖獣が亡くなったのか、もしくは、誰かが故意で置いたのか。
しかし、昨日までは涼太が元気だったことを考えると、この骨が現れたのは、昨日の夜から早朝にかけての時間帯だと思われる。
その間に妖獣が亡くなって、一瞬で白骨化したとは、考えにくい。
白梅は、嫌な考えを振り払うように、首を左右に振った。
「トカゲ族の骨には、毒があるんだよね……」
「触れると体の炎症を起こす」
「炎症……骨が浸った水に、触れた場合は?」
「恐らく、同様に炎症が起きる」
もし、骨が浸った水に触れることで、体に炎症が起きると仮定すれば、それを服用した場合は、内臓に炎症が起きる可能性が高い。
そして、内側から炎症が起きるとしたら、症状は、発熱や腹痛などが現れるのだろう。
「毒性は強いの? 体に入った場合は、どうしたら治る?」
「即効性があり、症状の強さは個人差がある。毒を体外に出せば治まるはず」
「……その、死に至る可能性は?」
「低い。大量に接種し続けなければ、死ぬほどではない」
それを聞いて、白梅はわずかに安心した。
かつて、早少女村で起こった病の症状も、同じ原因なのだろうか?
白梅はあの日、朝から忙しかったため、いつもの川水を口にしていなかった気がする。
村の皆が使う川水に、トカゲ族の骨があったとしたら……
涼太と同じ条件ができあがる。
何にせよ、早少女村の病状の原因は、今となっては分からないが、涼太の原因の方は、分かったかもしれないのだ。
「すぐに戻って、寧々さんに伝えないと」
ふたりは急いで、街へ引き返した。
***
「川の水に毒が……?」
「そう。毒性のある石が混ざっていたの。もう取り除いたから多分大丈夫だけど、しばらくは井戸水を使うと良いかも」
「分かった、そうする。井戸も皆で見張るようにする。本当にありがとう」
寧々は、白梅の白い両手を握って、お礼を言った。
白梅は、急に体に触れられたことに驚いて、頬を赤らめた。
朔夜は、その様子に冷えた視線を向ける。
その視線には気が付かない寧々は、「あっ」と何かを思いついたように、声をあげた。
「毒のある石ってどんな見た目ですか? 皆にも教えてあげなきゃ」
「白い小石なんだけど、鋭く尖っていたり、桃色が混ざっていたりするの。 もし見かけたら、直接触らずに、土に埋めれば問題ないはず……?」
そう言いながら白梅は、本当に骨を土に埋めて問題が無いのか、自信がなくなってきた。
先ほど、梅の木の近くに、骨を埋めて来てしまったが、大丈夫だったのだろうか?
白梅が朔夜を見上げると、朔夜が答えた。
「土に埋めて問題ない。人体のみが毒の影響を受ける」
それを聞いて、白梅は安心した。
「二人とも、ありがとうございます! あたしはこの後も涼太が目を覚ますまで、看病を続けます」
「うん、私たちはまだこの街に滞在する予定だから、困ったらいつでも言ってね」
「あ、ちょっと待って。この街は、今夜がちょうど梅祭りの日なの。二人は夜まで滞在する?」
「梅祭り?」
「春の訪れを祝うお祭りで、毎年色々な珍しい出店が出て、とても賑わうの。よければ見て行ったら?」
「お祭り……」
白梅は、その響きにとても惹かれた。
かつて早少女村でも、小さな祭りが開かれたことがあった。
いつもは静かな夜が、いつもと違って、明るく賑やかに色づくその特別な日が、白梅は好きだった。
「朔夜、今夜のお祭りを見て行きたいのだけど、良いかな?」
「良いと思う」
ふたりは、夜の祭りに参加することに決めた。
その様子を聞いていた寧々が、口を開いた。
「だったら、是非うちの宿を使って。今日は沢山の人で混んじゃうから、後から宿を探すのは大変だと思います」
「本当? それならば、お願いしようかな」
「お題は結構です。涼太を助けてくれたお礼をさせてちょうだい」
それを聞くと、白梅は慌てて、寧々の提案を断る。
「そんな、悪いよ! 本当に大したことはしていないし……ね、朔夜」
朔夜は、白梅の言葉に頷く。
しかし、寧々が続けた。
「そこまで高いものじゃないから。それに、今夜は宿については気にしないで、沢山お祭りを楽しんでいってほしいな」
「寧々さん……!」
白梅は、寧々の配慮が嬉しかったので、有り難くお言葉に甘えることにした。
「お気遣いありがとう……!」
「こちらこそ、ありがとう。私としてはまだまだお礼をし足りないくらい……」
白梅と寧々は、笑いあった。
そして、寧々は、宿屋の場所を白梅に教えた。
「それじゃあ、また後でね」
「涼太が目覚めたら、すぐに色々準備するね」
白梅と朔夜は、寧々たちの家を後にした。
***
「朔夜、この後は街の中に行く? それとも、街の外かな?」
「どちらにも心当たりがある」
それであれば、この場所は入り口の近くなので、先に外に行ってしまった方が早いはずだ。
この街は広いようなので、街の中については、後で祭りを見ながら探そうと、白梅は考えた。
「先に外を探しに行きたいな」
白梅がそう言うと、朔夜は頷いて、ふたりは街の入り口へ向かうことにした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる