夜風の紳士と恥じらう純白乙女 〜春告げ唄〜

黒鳥 静漣

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24. 原因

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 白梅は川へ向かう途中、念のために、精神安定作用のある薬草を、摘んでおいた。
 しかしその薬草は、保険で摘んだもので、薬に使うかどうかは、後ほど、涼太の容態次第で決めようと思った。

「朔夜は、この辺りの場所にすごく詳しいんだね」
「何度か訪れたことがある」
「そうだったんだ」

 ふたりは話しながら、しばらく歩くと、川が見えてきた。

 しかし、川の中がよく見える場所まで移動すると、白梅と朔夜は立ち止まり、表情を固くした。

「これって……」

 川の中には、まばらに白い小石が沈んでいる。

 よく目を凝らすと、白い小石は川底に、数多く転がっているようだった。
 その石は、ところどころが細長く鋭利に欠けており、乳白に少量の桃色が混ざったような色をしている。

「トカゲ族の骨……?」

 朔夜は頷くと、無言で川の中に入って、骨を拾い始めた。
 そして、落ちていた全ての骨を拾い集めると、布に包み、懐に仕舞った。

(どうしてこんなところに……?)

 この辺りでトカゲ族の妖獣が亡くなったのか、もしくは、誰かが故意で置いたのか。

 しかし、昨日までは涼太が元気だったことを考えると、この骨が現れたのは、昨日の夜から早朝にかけての時間帯だと思われる。
 その間に妖獣が亡くなって、一瞬で白骨化したとは、考えにくい。

 白梅は、嫌な考えを振り払うように、首を左右に振った。

「トカゲ族の骨には、毒があるんだよね……」
「触れると体の炎症を起こす」
「炎症……骨が浸った水に、触れた場合は?」
「恐らく、同様に炎症が起きる」

 もし、骨が浸った水に触れることで、体に炎症が起きると仮定すれば、それを服用した場合は、内臓に炎症が起きる可能性が高い。
 そして、内側から炎症が起きるとしたら、症状は、発熱や腹痛などが現れるのだろう。

「毒性は強いの? 体に入った場合は、どうしたら治る?」
「即効性があり、症状の強さは個人差がある。毒を体外に出せば治まるはず」
「……その、死に至る可能性は?」
「低い。大量に接種し続けなければ、死ぬほどではない」

 それを聞いて、白梅はわずかに安心した。

 かつて、早少女村で起こった病の症状も、同じ原因なのだろうか?
 白梅はあの日、朝から忙しかったため、いつもの川水を口にしていなかった気がする。
 村の皆が使う川水に、トカゲ族の骨があったとしたら……
 涼太と同じ条件ができあがる。

 何にせよ、早少女村の病状の原因は、今となっては分からないが、涼太の原因の方は、分かったかもしれないのだ。

「すぐに戻って、寧々さんに伝えないと」

 ふたりは急いで、街へ引き返した。


***

「川の水に毒が……?」
「そう。毒性のある石が混ざっていたの。もう取り除いたから多分大丈夫だけど、しばらくは井戸水を使うと良いかも」
「分かった、そうする。井戸も皆で見張るようにする。本当にありがとう」

 寧々は、白梅の白い両手を握って、お礼を言った。
 白梅は、急に体に触れられたことに驚いて、頬を赤らめた。
 朔夜は、その様子に冷えた視線を向ける。
 その視線には気が付かない寧々は、「あっ」と何かを思いついたように、声をあげた。

「毒のある石ってどんな見た目ですか? 皆にも教えてあげなきゃ」
「白い小石なんだけど、鋭く尖っていたり、桃色が混ざっていたりするの。 もし見かけたら、直接触らずに、土に埋めれば問題ないはず……?」

 そう言いながら白梅は、本当に骨を土に埋めて問題が無いのか、自信がなくなってきた。
 先ほど、梅の木の近くに、骨を埋めて来てしまったが、大丈夫だったのだろうか?

 白梅が朔夜を見上げると、朔夜が答えた。

「土に埋めて問題ない。人体のみが毒の影響を受ける」

 それを聞いて、白梅は安心した。

「二人とも、ありがとうございます! あたしはこの後も涼太が目を覚ますまで、看病を続けます」
「うん、私たちはまだこの街に滞在する予定だから、困ったらいつでも言ってね」

「あ、ちょっと待って。この街は、今夜がちょうど梅祭りの日なの。二人は夜まで滞在する?」
「梅祭り?」
「春の訪れを祝うお祭りで、毎年色々な珍しい出店が出て、とても賑わうの。よければ見て行ったら?」
「お祭り……」

 白梅は、その響きにとても惹かれた。

 かつて早少女村でも、小さな祭りが開かれたことがあった。
 いつもは静かな夜が、いつもと違って、明るく賑やかに色づくその特別な日が、白梅は好きだった。 

「朔夜、今夜のお祭りを見て行きたいのだけど、良いかな?」
「良いと思う」

 ふたりは、夜の祭りに参加することに決めた。
 その様子を聞いていた寧々が、口を開いた。

「だったら、是非うちの宿を使って。今日は沢山の人で混んじゃうから、後から宿を探すのは大変だと思います」
「本当? それならば、お願いしようかな」
「お題は結構です。涼太を助けてくれたお礼をさせてちょうだい」

 それを聞くと、白梅は慌てて、寧々の提案を断る。

「そんな、悪いよ! 本当に大したことはしていないし……ね、朔夜」

 朔夜は、白梅の言葉に頷く。
 しかし、寧々が続けた。

「そこまで高いものじゃないから。それに、今夜は宿については気にしないで、沢山お祭りを楽しんでいってほしいな」
「寧々さん……!」

 白梅は、寧々の配慮が嬉しかったので、有り難くお言葉に甘えることにした。

「お気遣いありがとう……!」
「こちらこそ、ありがとう。私としてはまだまだお礼をし足りないくらい……」

 白梅と寧々は、笑いあった。
 そして、寧々は、宿屋の場所を白梅に教えた。
 
「それじゃあ、また後でね」
「涼太が目覚めたら、すぐに色々準備するね」

 白梅と朔夜は、寧々たちの家を後にした。


***

「朔夜、この後は街の中に行く? それとも、街の外かな?」
「どちらにも心当たりがある」

 それであれば、この場所は入り口の近くなので、先に外に行ってしまった方が早いはずだ。
 この街は広いようなので、街の中については、後で祭りを見ながら探そうと、白梅は考えた。

「先に外を探しに行きたいな」

 白梅がそう言うと、朔夜は頷いて、ふたりは街の入り口へ向かうことにした。
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