夜風の紳士と恥じらう純白乙女 〜春告げ唄〜

黒鳥 静漣

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23. 処置と考察

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 その後白梅は、男の子の看病に専念した。

 女性には、湯を沸かしてもらったり、布を用意してもらった。
 そして、薬に混ぜるためのいくつかの食材をもらえるように頼んだ。

 汗を拭って、暖かい布団で男の子を寝かせていると、朔夜が戻ってきた。

「もう行ってきたの?」

 白梅は驚いて、朔夜を見る。

(街から梅の木までは、そんなに近くなかったと思うんだけど……)

 朔夜は、懐から袋を取り出して、その中身を白梅に見せた。
 中には、白梅が頼んだ薬草が入っている。

「量は足りるだろうか」
「ありがとう、十分だよ!」

 白梅は、朔夜から薬草を受け取ると、薬作りに取り掛かった。
 朔夜が薬作りも手伝ってくれたので、薬はすぐに用意することができた。

 出来上がった薬を男の子に飲ませると、しばらく経ってから、呼吸が落ち着いてきた。

(どうして、早少女村の人達と同じ症状が起きているんだろう……)

 白梅は今のうちに、過去に原因が解明できなかった症状について、調べたいと思った。

「急に熱を出したって聞いたけれど、昨日と早朝は普通の状態だった?」
「昨日の夜までは間違いなく元気だったの。あたしは、昨夜から泊まりの仕事だったから、家にはさっき戻ったんだけど、だんだん様子がおかしくなっていって……」

(昨日の夜から早朝まではこの人は不在で、一緒にはいなかったんだ……)

 女性は困ったように、男の子を見つめながらそう言うと、はっとして、白梅の方を向いた。

「ごめんなさい、まだ名乗っていなくて。あたしの名前は寧々って言います。少し先にある宿屋で働いてるの。弟は涼太です」

「私は白梅っていうの。こちらは朔夜」
「二人とも、助けてくれてありがとう」
「そんな、気にしないで! 朔夜のおかげで処置が早く済んだのだし」

 寧々は改めて、二人に頭を下げようとしたので、白梅は慌ててそれを止めて、気になっていた質問を続ける。

「昨日は涼太君と一緒にいたの?」
「うん、一日中一緒にいました」

 白梅は考えた。
 寧々には、涼太のような症状が出ていないということは、次のうちのどちらかだと思われる。

 寧々に症状がまだ出ていないだけか、涼太だけがおこなった何らかの行動に原因があるか。

 「寧々さんは、体に異常はない?」
 「いつも通りで、特に異常は無いと思うけど……」

 白梅は涼太にも、昨日の夜から朝にかけて、何をおこなったのかを問いかけたかった。
 いつもとは違う何かに触れたか、何かを口にしたか、病気の誰かに会って、空気感染をしたか。

 しかし、涼太は今は安静に眠っているので、目を覚ました後で話を聞くことにした。
 白梅は、念のため、寧々に問いかけることにした。

「昨日の夜から朝の間で、涼太君が何かに触ったか、食べたか、もしくは人に会ったかって分からないかな?」
「何に触ったかは分からないです……朝は調理場に置いてある野菜とお米を料理して食べたと思う。あとは、知らない人が家を訪ねても出ないように伝えているから、多分誰にも会っていないと思う」
「野菜とお米は残っている?」
「あるはずです」

 白梅と朔夜は、寧々に案内されて、調理場へ移動した。

 白梅は、調理場に残っていた野菜と米を確認した。
 そして、洗い場に置かれていた椀も確認してみたが、特に気になることは、見つけられなかった。

 ふと、一緒に調理場を見ていた朔夜の視線が、止まった。
 白梅も気になって、その視線の先を見る。

 朔夜が見ていたのは、水の溜まっている桶だった。
 水は、桶の淵近くまでいっぱいに溜まっている。

 白梅は、桶に近寄って中を見てみた。
 一見、何の変哲もない水のように見えるが、なんだか妙に気になったので、寧々に尋ねた。

「この桶の中身は何かな?」
「それは、近くの川水です。昨日の夜は確か無くなりかけていたから、今朝涼太が新しく汲んだのだと思う」
「この水桶は、飲み水用?」
「そう、この桶の水を飲んだり料理に使います。涼太も飲んだと思う」
「寧々さんは、今日はこの水を口にした?」
「あたしはまだ飲んでません」

 この桶の水は、寧々はまだ口にしておらず、涼太は口にした可能性が高い。
 ますます、この水が怪しく感じてきた。

「街の皆は、同じ水を飲むの?」
「他の人はほとんどが、街にある井戸の水を使ってると思います。あたし達の家は、街の外が近いから、色々な用事がてら川まで汲みに行くことが多くて」
「なるほど……」

 寧々や街の人達は、症状が出ていないようだが、涼太だけに症状があるということは、その川に何かがある可能性が高い。
 白梅は、川に向かうことにした。

「ちょっとその川を見てくるね。寧々さんは涼太君の側にいてあげて」
「あ、でも川の場所は分かりますか? この街から一番近い川なんだけど」
「私が案内する」

 それまで黙っていた朔夜が、口を開いた。
 朔夜が場所を知っているようだったので、白梅は彼に案内してもらうことにした。
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