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21. 梅の木

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 竹林から街までは、少し距離があったため、ニ日ほど時間を要した。
 白梅は、記憶を集めたい気持ちはあるが、先を急いでいると言う訳ではなかったので、休みながらゆっくり進んだ。

 道中、木の実を採ったり、襲いかかってきた野生の獣を返り討ちにして、焼いて食べたりした。

 白梅にとっては、慣れない野宿続きの旅だったが、自然と不安は無かった。


「綺麗……!」

 道中に、一本の梅の木が立っていた。
 咲き誇る白い花びらは、春の訪れを告げていた。
 その場所は陽当たりがよく、梅の木だけではなく、沢山の木や草花が生えている。

 白梅は花の香りを胸いっぱいに吸った。
 そして、軽快にくるくると周りながら、梅の木の幹を一周した。
 その様子を、朔夜はわずかに目を細めて、眩しそうに見つめている。

 ふたりは、その日は一日中、梅の花の近くに滞在した。
 梅の花が綺麗に見える場所を選んで、小川で見つけた骨を埋めることにした。

(どうか、安らかにお眠りください)

 骨を弔うと、白梅と朔夜は、その場に手を合わせた。


 次の日の朝、梅の花の木から少し進むと、街の入り口が見えてきた。
 朔夜が、懐から布を取り出し、白梅に手渡す。

「ありがとう。耳を隠さないとね」

 白梅はそれを受け取ると、街に入る前に、頭を布で覆い隠した。

 街の入り口の手前には、光の花びらが浮かんでいるのが見えた。

(またあった!)

 白梅は、小走りでその光に近づいた。


***

 作った小屋が壊れてしまった後、白梅は移動をして、少し大きな街に、辿り着いていた。

 その日は、猫耳を隠しながら街の宿に泊まり、性別が戻るのを待った。

(今日は元の姿だ……)

 姿が元に戻ると、街を出て、空き家を探すことにした。


 街の入り口付近の、人通りが無くなった場所で、白梅は、見覚えのある黒髪の後ろ姿を見つけた。
 そして、その後ろ姿を追いかけた。

 後ろ姿が、曲がり角を曲がったので、白梅は見失わないように、小走りで追いかけた。

 白梅が角を曲がると、ふいに背後に気配を感じ、何かが視界の端で煌めいた。
 首元に小刀を突きつけられている。

「あ、あの……」

 白梅が前を向いたまま声をかけると、相手は小刀を突きつけた手とは反対の手で、自身の顔から何かを外すように身じろぎをする。

 白梅が、恐る恐る背後を見上げると、左手で小刀を突きつけた朔が、冷たい瞳で自分を見下ろしていた。
 首元にゆるく薄手の布を巻いていること以外は、白梅が最後に会った時の姿と、全く変わっていなかった。

 元の姿に戻った白梅から見ると、朔の方が背が高かったことに気付いた。

(下から見上げた朔も、相変わらず綺麗だなぁ)

 白梅は、少し場違いなことを考えていた。

「やっぱり朔だった! 私だよ」

 白梅は、長い睫毛で彩られた瞳で、くるりと朔を見渡すと、嬉しそうに声をあげた。
 朔は、屈託のないその笑顔を確認し、頭の白銀色の髪と猫耳に視線をやると、すぐに小刀を下ろして距離を取った。

「白梅?」
「会えてよかった。あの後、あなたのことをとても心配していたの」

 白梅が嬉しそうに伝えると、朔は目線を逸らし、なんとも言えない微妙な表情で問うた。

「なぜ私の心配を?」
「だって、私達はもう友達でしょ!」

 しかも、白梅にとっては、初めての妖獣の友達なのだ。
 白梅は、朔の右手をとり、しっかりと両手で握った。

 朔は、わずかに目を見開き、固まった。
 しかし、すぐに白梅の手からするりと抜け出て、視線を白梅の足元から顔まで移動させた。
 そして、目を細めながら、一歩後ずさった。

「その姿は……?」
「あ、そうか。私、やっと元の姿に戻れたの!」

 白梅は、今まで朔に会っていた時は、本来の姿ではなかったことに気づく。
 白梅は笑みを浮かべて話しながら、一歩前に出て朔に近づいたが、なぜか朔はさらに一歩後ろに遠かった。

「ねぇ、今はこの辺りに住んでるの? 私も泊めてくれないかな?」
「それは駄目」

 朔は即答して、硬い表情で、白梅の目の前を通り過ぎた。

「待って!」

 白梅は、朔の後を追いかけた。
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