夜風の紳士と恥じらう純白乙女 〜春告げ唄〜

黒鳥 静漣

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20. 小川と骨

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(朔夜が出てこなかった……)

 白梅は、記憶を少し取り戻した。
 しかし、朔夜に関する記憶ではなかったので、さらに落ち込んだ。

 白梅はその場でしゃがむと、土をいじりながら、しばしの間いじけていた。
 そして、近くに生えていた笹の葉を摘むと、手元で弄りはじめる。
 朔夜は、その様子を静かに眺めていた。

 しばらく経つと、一つの小さな舟が、白梅の手元に現れた。

 「それは?」
 「笹舟だよ」

 白梅は、朔夜に笹舟を渡した。
 朔夜は、笹舟を受け取り、目を細めてその舟を眺めていた。

 「笹舟は初めて見た?」

 白梅が尋ねると、朔夜が頷いた。

 「近くに川があったら浮かべられるんだけどな」
 「小さな川はある」
 「本当に詳しいんだね。それじゃあ、連れていってほしいな」

 白梅は、朔夜の案内で、川に向かうことにした。


***

 ふたりは、先ほどの位置から少し離れた、小川へ移動していた。

 透き通った水が穏やかに流れるその小川は、木漏れ日を受けて、キラキラと輝いていた。
 耳を澄ますと、せせらぎの音に混ざり、風が笹の葉を揺らす音や、鳥のさえずりが聞こえてきた。

「すごく綺麗な川だね」

 白梅は川に近づいて、座り込み、水の流れを眺めた。
 少量の水がゆったりと流れるその小川は、笹舟を浮かべて遊ぶのに、ぴったりだと思った。
 朔夜も、隣に片膝をついた。

 白梅は、小川にそっと笹舟を浮かべた。

 白梅の白い指から、笹舟がゆっくりと離れた。
 そして、水の流れに乗って進み始めた。

 笹舟が自分たちから少し離れると、白梅は立ち上がって、後を追いかけた。
 白梅の後を追いかけて、朔夜も移動した。

 笹舟は少しの間、水の流れをそのまま進んでいたが、突然動きを止めてしまった。
 何かにひっかかったようだ。

 白梅が近付いてよく見ると、笹舟は、細長い小石のようなものにひっかかっていた。
 その小石は、乳白色にごくわずかな、桃色が混ざったような、不思議な色をしていた。

(これは何? 綺麗な……石?)

 朔夜が白梅に追いつき、笹舟を拾いあげた。

「触れない方がいい」
「どうして?」
「トカゲ族の骨には毒がある」
「これ……トカゲ族の骨なの?」

 白梅の質問に、朔夜が頷いた。

「水と笹舟にも触れない方がいい」

 朔夜はそう言って、笹舟を懐に仕舞った。

「わかった……でも、どうしてこんなところに骨が?」

 朔夜は答えなかった。
 白梅が振り返ると、朔夜は小川の骨を、強い眼差しで見つめていた。

 白梅は、その様子を見て、右手に巻かれた布を解き、骨に触れないように布で包みながら、拾い上げた。

「この骨、どこかに埋めてあげよう」
「私が持つ」

 朔夜がそう言ったので、白梅は骨を渡した。

 ふたりは、骨を弔う場所を探しながら、街へ向かうことにした。
 
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