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本編

シャボン玉

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到着した湖畔は、本当にとても綺麗な場所だった。

「ファルシュター、疲れてないか?」

お爺さまが湖がよく見える大きな木の下にシートを引いてくれ、クッションまで準備してくれている。
だが、自分は全く疲れていない。
だって、いつも通り歩いていないのだ。
森の入り口まではギル兄様の抱っこで運ばれ、そこからは熊の籠に揺られていただけだ。
疲れる要素が何処にも無いだろう。

「あい!ぼく、げんき!」
「そうか!今日はじいじとたくさん遊ぼう」
「うん。なにしゅる?」

何をして遊ぼうか迷ってしまう。
多分だが、ギル兄様は色々遊び道具も持ってきてくれているだろうが折角自然の中にいるのだから満喫したい。

「じいじとシャボン玉で遊ぼうか」

それはとても楽しそうだ。

「ルシー、遊ぶ前に少しお水飲んでね。僕とのお約束は覚えてる?」

そうだ。
遊びに行くと決まってからギル兄様と交わした約束事がある。

「だいじょぶ!ひちょり、うろろ、しにゃい!ちゃんと、にいしゃまのおてて、もってる」

森では1人で勝手に動かないと約束したのだ。
この森はとても大きいので迷子になると大変だから、何処かに行きたい時は必ずギル兄様と一緒に行動する事。
その際は、ちゃんと手を繋ぐ。
たったそれだけの約束なのだが、自分の足りない頭ではいつ反故にしてしまうかちょっと心配しているところだ。
いっそ物理的にリードを装着させてもらって、ギル兄様に手綱の様に持っていてもらいたいくらいである。

「僕と離れる時はソラかシーザーと一緒にいてね。カゲは今、何処にいるの?」

トカゲなら自分のフードの中だと思う。
ポケットか肩にいない時は、だいたいそこにいるのだ。
トカゲは呼ばれたのがわかったのか、フードから肩へ移動してきた。

「カゲはちゃんとルシーを見てるんだよ」
「ギルバートは心配性だな。わしもケルベロスもいる。絶対に迷子にもさせないし怪我も負わせんよ」

それを掻い潜ってでも迷子になると思われてしまうのが、恥ずかしながら自分なのである。
しかも、昨日のプチ家出騒動で現在、自分の信用度はゼロ、いや、マイナスだろう。
どうにか少しでも回復させたいところなので、今日は絶対に約束を守り通してみせると心に決めている。

「ほれ。シャボン玉だ。ファルシュターもやってみるか?」

あれ?
おかしいな。
思っていたシャボン玉と違う。
自分は息を吹いてシャボン玉を作るイメージだったのだが、何故か渡されたのは大きな注射器だった。
きっと先端の部分からシャボン玉が出てくる仕組みなのだろう。
ただ悲しいかな、自分の力では少しも空気を押し出す事が出来なかった。
お爺さまもギル兄様も楽々とシャボン玉を作り出しているのに、何故だ。

せめて1個くらい出てこい!
シャボン玉!
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