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本編

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あの時のツノ(枝)は確かに粉々に砕け散ったはずだ。
でも、今目の前にあるのはあのツノ(枝)と何も変わらない様に見える。

「こりぇ…」
「うん。ソラに頼んで同じ場所で探してみたんだ。魔法も同じようにかけてあるよ」

このうっすら輝く状態は確かに同じ魔法が使われているのだろう。
多分、頭にもくっつくと思う。
だけど、良いのだろうか。
これをつけた自分を見て、ギル兄様は不快な気持ちにならないだろうか。
自分の為に我慢してくれているのかもしれないのだ。
とても嬉しいが、手に取る勇気が出ない。

「僕はルシーが大好きだよ。ルシーが僕のツノを気に入ってくれているのも知ってるし嬉しいって思ってるんだ。お揃いが欲しいって、嬉しいって思ってるのはルシーだけじゃないよ」

ギル兄様は俯く自分の頭に、そっとツノ(枝)をつけてくれた。

「ほら、可愛い顔を見せて?」

おずおずと顔を上げると、破顔したギル兄様と目があった。

「とっても可愛い!ルシーとお揃いなんて夢みたいだ!」
「いいの?にいしゃま、いやじゃない?」

今回のプチ家出騒動だって、このコスプレから始まっているのだ。

「もう、ルシーは僕の話、ちゃんと聴いてた?僕だってルシーとお揃いが欲しかったんだよ。こんなの嬉しいに決まってるじゃないか」

嬉しいと思ってくれるんだ。
自分がギル兄様の真似をしてコスプレをしても、嫌な気持ちにならないって言ってくれた。
自分とのお揃いが欲しいって思ってくれていたなんて、知らなかった。

「……うれちい。ぼく、じゅっと、おそろいのツノ、ほちかったの」

多分、自分は今、泣いている。
けれど、嬉しい気持ちが強くて笑顔だとも思う。
ギル兄様はいつだって自分を幸せな気持ちにさせてくれるのだ。
さすが、神様である。

ギル兄様は自分のツノや鱗にまだ少し苦手意識はあると正直に教えてくれた。
でも、前のように自分が化け物だとはもう思っていないから大丈夫だと笑っている。
いや、笑い事じゃない。
ギル兄様が化け物だとは何事だ。
どこにこんな麗しい化け物がいるというのだ。
そんな馬鹿な事を言う奴は、眼、いや脳がおかしいのだと思う。
早急に受診した方がいい。
化け物という括りではなく、吸血鬼とかなら似合うかもしれない。
本物の吸血鬼を知らないので勝手なイメージだが、黒いマントとか鋭い牙とか似合いすぎて心臓に悪いと思う。
月を背景にしたギル兄様なら肖像画として高値で売れるだろう。
もちろん、自分は即購入する。

あぁ、吸血鬼のギル兄様に血を吸われるなら、喜んで首を差し出します。

干からびるまで吸って欲しい。
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