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本編

あの日は無駄じゃなかった

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セイバースさんに読んでもらっていた絵本がある。
狸と狼が森で仲良く暮らしている、争い事も起きない平和な絵本だ。
この絵本はシリーズ化しており、ご飯を食べたり一緒に寝たりするのを可愛い絵柄とセリフの多い文章で描かれており、自分は大好きだった。
その中でも、お花畑へお出かけする絵本がお気に入りだ。
お花畑では狸と狼が一緒に楽しく踊るのだ。

「どんにゃ、だんちゅ?」
「そうですね、この絵ではお尻を振っている様に見えますね。…少し待っていてもらえますか?」

セイバースさんを待つ間も絵本を眺めていた。
まだ文字が読めないので絵を見ているだけだが、何度も読んでもらっているので内容は覚えている。
お花の妖精が水が足りなくて困っているのを、狸と狼の踊りで雨を降らして解決するのだ。
そう、雨乞いである。

「無理です!せめて時間を下さい!」
「ファル坊っちゃまの為です。出来るか出来ないかではありません。するのです」

セイバースさんが戻ってきたのだが、何故か従僕トリオを一緒に連れて帰ってきた。

「ファル坊っちゃま、ちょうど狸と狼が居ましたよ。そのダンスを再現してくれるそうです」

明らかにセイバースさんの無茶振りだろう。
狸兄弟が必死に首を振っている。
だが、狼-ロウ-は違った。

「お任せ下さい!」

何故か凄くやる気だ。
何処から来る自信なのだろう。
まさか、雨乞いの経験でもあるのだろうか。

「…いいか、2人はとりあえず腰に手を当てて後ろを向いて尻尾を振っていろ。俺はこの時の為に練習してある」
「ロウ、何で誘ってくれなかったんだよ」
「兄さん、僕らも練習しましょう。ですが今はロウさんにお任せするのが1番です」
「任せろ!別の本で呪文を叫びながら踊って岩を退かすのがある。次は一緒に練習しよう!」
「「はい!」」

話が纏まった様だ。
真ん中にロウが立ち、2人が左右に分かれて後ろを向いた。
このままでは音が無いのだがどうするのだろう。
無音ではキツすぎる。
その際は手拍子でも担当しようと思っていたのだが、まさかのロウによる鼻歌付きだった。
可愛らしい曲だ。
短いメロディーを繰り返しているだけなので覚えやすいのも高評価だ。

ロウは踊り出した。
振り付けも考えたのだろう。
それとなく雨乞いっぽい感じだが、簡単な動きで作られている。
間違いなく一緒に踊る事を前提とした振り付けだ。
尻尾を見せる様にお尻を振ったり、狸を思わせるお腹を叩く仕草、犬っぽく手招きをしたりと全体的に可愛らしい仕上がりだった。

「ちゅごい!じょーじゅ!」
「ありがとうございます!坊っちゃまにも踊って頂ける様に考えました」

そうだろうな。
わかっていた。
セイバースさんの期待に満ちた目もある。

教えてもらおうじゃないか。
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