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別視点

side 獣(カルファ)

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side カルファ

昨日ははっきり言って最低の1日だった。
人間はいつも煩いのだが、昨日はひっきりなしにギャーギャーと騒いでいた。
演習中も魔法が飛び交い、何故か気づけばテントも燃えていた。
何度か空を駆け、飽きてきたところで勝手に帰ってきた。
面倒臭いので、愛しい子が来ない演習には今後二度と参加しない。

早く身体を小さくする魔法を会得して、いつでも愛しい子に会える様にしたいのだが、今はまだ子馬サイズなので今日も訓練をしなければならないだろう。
出来れば、子供用の木馬くらいの大きさになりたいと思っている。
まだ小さい愛しい子が乗りやすいサイズにならなければ意味がないからだ。

あの男は懲りもせず今日もまた来たようだ。
昨日、あれだけ遊んでやったのにまだ足りなかったのだろうか。
案外、我の相棒はタフな様だ。

「カルファ、昨日はすまなかった。今日は団長も休みだからファルシュター君も来れないと思うけど、明日は必ず会える様にするから!」

愛しい子はいつも自由だ。
隊舎に来た時は我にも会いに来てくれる。
他の獣の様にまだ一緒に遊べはしないのに、いつも野菜を持って笑顔で現れるのだ。
可愛くて、ただ、愛おしい。
野菜など今まで食べた事もなかったが、何故か愛しい子は我の好物だと思っている様だ。
あの子が我に食べさせたいと思ってくれるのなら、なんでもいい。
それが我の好物になるだけだ。

『貴様は帰れ』

これ以上、この男と一緒にいても意味がない。
仕事なら仕方ないが、わざわざこの男と休日を過ごすのは御免だ。

「わかった。また明日」

帰って行ったのを確認し魔法の訓練を始める。
なかなか上手くいかず気分転換に少し空を駆けようと脚に力を入れた。

「カルちゃ!しゅごいのぉ!おしょら!おぉぉ!」

まさか!
今日は会えないと思っていたのに、わざわざ会いに来てくれたのか。
愛しい子が我を見上げている姿を確認して急いで地上に戻った。

「カルちゃ!ぼく、れんちゅう、しゅる!いちゅか、しぇにゃか、のしぇてぇ!」

大丈夫だ。
我が小さくなる訓練中だ。
いつかと言わずすぐにでも乗ってもらいたい。

この子より身体の大きな獣は全員騎乗してもらう事を望んでいる。
ただあまりに小さい身体なので、もし怪我でもしてしまったら大変だ。
この子が痛みに泣くなど我らが堪えられない。

可愛い愛しい子の願いならば、なんとしても叶えよう。
密かに訓練メニューを増やそうと考えていると、愛しい子が何やら甘い匂いの食べ物を我に差し出していた。
いつもの野菜では無いが、この子からの物を拒否するはずがない。
いつも通り口を開けば、嬉しそうに中に入れてくれる。
正直に言えば味の違いは全くわからないが、この嬉しそうな顔を見れるのなら、何でもいい。

鬣を触りたそうにジッと見ているので、さりげなく首を下げると何度も撫でてくれる。
この小さい手からこんなに大きな幸せを生み出すのだから、この子はやはり特別なのだろう。
楽しそうに今日は街に遊びに行くのだと教えてくれた。
今はまだ一緒には行けないが、いつか我も一緒に遊びに行きたい。
可愛らしく手を振ってくれるのに応えて、我も嘶いた。



「ファルシュター君が来てたのを見たから、急いだよ。会えてよかったな」
『貴様の仕業だったのか…よくやった』
「ありがとうございます!次も頑張ります!」
『次に良い仕事をしたら、一度だけ貴様の家に行ってやる』
「必ず!何か良い仕事をしてみせます!」



この男はいつからこんな手下の様になったのだろうか。
まあ、いい。
使える手下ならば褒美くらい与えてやろう。
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