上 下
22 / 195
別視点

それぞれの演習 side情報統括隊長②

しおりを挟む
カルファはいつも通り、不機嫌だった。

騎乗は諦めて、少しでもコミュニケーションを取りたいと話しかけるのだが返事は一言、二言のみ。

「昨日から疲れただろう?」
『黙れ』
「明日は休みなんだ。よかったら家に来てみないか?」
『煩い。黙れと言ったのが聞こえないのか』

我が家は一応、貴族の末端に席を置いている為比較的大きな家に住んでいるのだが、カルファは1度も来てくれた事がない。
カルファ専用に大きな厩舎も用意してあるのだが、未だに使われる事は疎か見てもらった事すらないので、家族もガッカリしているのだ。
俺は早くに結婚していた為、息子も今年17歳になった。
家族はみんな俺同様に馬が好きだ。
俺がカルファの相棒に選ばれた時、自分の事の様に喜んでくれ、いつかは我が家で暮らしてくれる事を望んでいるのだ。

もちろん、カルファには俺の家族を紹介してある。
息子に至っては産まれる前、妻の腹にいる時からカルファには何度も話をしていたし会ってももらっていた。
カルファは常に不機嫌で暴れている事の方が多いがたぶん元々の性格は優しいのだと思う。
その証拠に、妊婦を威嚇したり目の前で暴れたりする事は1度も無かった。
息子が小さい時、一度だけ乗りたいと我儘を言った事がある。
当然、乗せてくれる事はなかったが、鬣を触らせてくれたのだ。
妻も息子も、カルファがどれだけ暴馬と言われてもずっと好きなままなのはそんな気性を知っているからだと思う。

カルファはそれっきり何を話しかけても返事をしてくれなくなった。
これ以上しつこくしては暴れ出しそうで俺も怖い。
隊員達の訓練を確認しようとした時。
カルファは急に走り出した。
カルファの脚に追いつける者など居ない。
隊員達と必死に追いかけるがどんどん離されていった。

カルファの向かう先に、ルイが居た。
まさか、カルファは俺の気持ちを汲んでルイに仕返しでもしてくれるのだろうか。
やってやれ!
そう思ったのも束の間、一緒にいたシーザーの背に小さな子供を見つけてしまい血の気が引いた。
襲う事は無いと信じているが、あの勢いのまま突っ込んで行けば怪我では済まなくなってしまう。
シーザーやルアンが居るのだから、大丈夫だとは思うが俺も息子を持つ親だ。
子供が泣く姿など見たくない。

「カルファ!戻ってくれ!」

声をかけても聞こえていない様子だ。
ルイも鞘に入れたままの剣を構えて、子供を守る様に立ち塞がってくれている。
どうしたらいいんだ。

「とまっちぇぇぇ。カルちゃ!」

子供の叫び声が聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

日本で死んだ無自覚美少年が異世界に転生してまったり?生きる話

りお
BL
自分が平凡だと思ってる海野 咲(うみの   さき)は16歳に交通事故で死んだ………… と思ったら転生?!チート付きだし!しかも転生先は森からスタート?! これからどうなるの?! と思ったら拾われました サフィリス・ミリナスとして生きることになったけど、やっぱり異世界といったら魔法使いながらまったりすることでしょ! ※これは無自覚美少年が周りの人達に愛されつつまったり?するはなしです

【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。 お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ
BL
【女神の愛の呪い】  この世界の根源となる物語の悪役を割り当てられたエドワードに、女神が与えた独自スキル。  鍛錬を怠らなければ人類最強になれる剣術・魔法の才、運命を改変するにあたって優位になりそうな前世の記憶を思い出すことができる能力が、生まれながらに備わっている。(ただし前世の記憶をどこまで思い出せるかは、女神の判断による)  しかし、どれほど強くなっても、どれだけ前世の記憶を駆使しても、アストルディア・セネバを倒すことはできない。  性別・種族を問わず孕ませられるが故に、獣人が人間から忌み嫌われている世界。  獣人国セネーバとの国境に位置する辺境伯領嫡男エドワードは、八歳のある日、自分が生きる世界が近親相姦好き暗黒腐女子の前世妹が書いたBL小説の世界だと思い出す。  このままでは自分は戦争に敗れて[回避したい未来その①]性奴隷化後に闇堕ち[回避したい未来その②]、実子の主人公(受け)に性的虐待を加えて暗殺者として育てた末[回避したい未来その③]、かつての友でもある獣人王アストルディア(攻)に殺される[回避したい未来その④]虐待悪役親父と化してしまう……!  悲惨な未来を回避しようと、なぜか備わっている【女神の愛の呪い】スキルを駆使して戦争回避のために奔走した結果、受けが生まれる前に原作攻め様の番になる話。 ※悪役転生 男性妊娠 獣人 幼少期からの領政チートが書きたくて始めた話 ※近親相姦は原作のみで本編には回避要素としてしか出てきません(ブラコンはいる) 

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

処理中です...