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別視点
それぞれの演習 sideルイ
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辺境騎士団、通称ケモノ騎士団ではごく稀にだが大規模な演習が開かれる。
王都の偉いさんに報告する必要があるからだ。
だが、俺の相棒のルアンはそんなめんどくさい演習をとても嫌っていた。
毎回参加させるのにどれだけの労力を費やした事か。
そんなルアンが今回は違った。
『おい、失敗とか絶対するなよ。もし無様な姿を晒しやがったら、ボクが直々にお前を燃えカスにするからな』
原因はわかりきっている。
間違いなく少し前に団長の息子になったファルシュターだろう。
あの子は異常に獣に好かれている。
ルアンも例外ではなく、出会ったその日からメロメロだ。
ファルシュターが隊舎に来ている時は必ず様子を見に行っているのを俺は知っている。
そしてルアンだけでなく、他の獣達も今回の演習に並々ならぬ意気込みを見せているのだ。
団長もとても張り切っているのだが、張り切りすぎては連携が取れなくなってしまう。
やはりココは俺が止めるしかないだろう。
「ファルは演習日はセイバースさんと留守番とか無理なんですか?」
あからさまに嫌そうな顔をしてくる団長をなんとか言い含め、無事にファルシュターを留守番させる事に成功した。
とりあえず、獣達にはファルシュターが演習を見学しない事は黙っておく事になったが、当日は大丈夫だろうか。
あれだけ意気込んでいるルアンがどうなってしまうのか今から怖いのだが…。
俺は演習当日、生きて帰れるだろうか…。
そして秘密にしたまま迎えた当日。
『あり得ない。ボクを騙してたって事だろ。下僕の分際で…そんなに死にたかったんだ?』
ヤバイ。
ルアンが激おこだ。
周りの空気まで熱せられて既に熱風だ。
「いや…違うんだよ…こんなに人が多いとファルだって危ないかも知れないだろ?」
なんとか怒りを収めてくれないだろうか。
そんな願いは虚しく、ルアンはどんどんヒートアップしていく。
『今日の演習、覚悟してろよ』
何が起きるんだよ。
だんだん腹が痛くなってきた。
もう帰りたい。
団長とギルバートが到着し演習が開始された。
そこからはまるで地獄の様だった。
自分の事で精一杯で他の獣達がどう動いていたのかは知らないし、団員達がどうなったのかもわからない。
ただ、ルアンは苛烈を極めていた。
苛烈を極め過ぎていた。
今、俺が生きている事が奇跡だと本気で思っている。
ルアンは終始、俺だけを狙っていた。
俺たちは戦闘部隊ではないのに、ずっと俺を狙って攻撃し続けていた。
あの鳥は補助系のスペシャリストのはずだが、性格が攻撃的すぎて毎回出動時は特攻をかけるのだが、さすが獣と言うべきか攻撃力も普通の人間が太刀打ち出来るものではないのだ。
そんな鳥が俺の急所だけを狙って攻撃し続けてくるのだ。
鳩尾、喉仏、こめかみ、もちろん目や心臓など、全力で狙ってきた。
しかも何が辛いって炎でフェイントを入れつつ物理攻撃で確実に痛みを与えてくる事だ。
『土下座でボクに赦しを乞え!この下僕が!』
たぶん見学に来ていた者達は逃げ惑う無様な俺を目に焼き付けただろう。
報告書にも詳細を書かれて、偉いさんにも読まれると思うと情けなくて泣けてくるぜ。
いっそ、ルアンの攻撃に当たって大怪我で入院とか出来ないだろうか。
その間に皆さまの記憶から消えてなくなりたい。
阿鼻叫喚の地獄絵図と化した演習は無事とは程遠い状態で終わりを迎えたらしい。
俺は半分意識がなかったのであまり覚えていないが一通り暴れまくった獣達が各々獣舎や家に帰って行ったとの事。
もちろん相棒は置き去りにしてだ。
そして屍と化した俺たちを比較的、精神的にも肉体的にも傷の浅い団員が医療隊の詰所や寮に運んでくれた様だが、気づけば翌日の朝を迎えていた俺にはあの後何が起きたのかはわからない。
ただ、今まで朝日を見てこんなにも感動した事はなかっただろう。
俺は生きている喜びを噛み締めた。
だが、そんな時間は長くは続かなかった。
悪魔が窓を突き破って登場し、前日と変わらず急所への攻撃を開始したからだ。
悪魔の攻撃はファルシュターがニコニコしながらクッキーを悪魔に食べさすまで続いた。
お前、クッキーとか食べれたんだな。
ファルシュターはこの日、数人の命の危機を救ったヒーローになった。
可愛らしいヒーローが常に笑顔でいられる様に、俺たちは頑張らなければいけないと心に刻んだ。
王都の偉いさんに報告する必要があるからだ。
だが、俺の相棒のルアンはそんなめんどくさい演習をとても嫌っていた。
毎回参加させるのにどれだけの労力を費やした事か。
そんなルアンが今回は違った。
『おい、失敗とか絶対するなよ。もし無様な姿を晒しやがったら、ボクが直々にお前を燃えカスにするからな』
原因はわかりきっている。
間違いなく少し前に団長の息子になったファルシュターだろう。
あの子は異常に獣に好かれている。
ルアンも例外ではなく、出会ったその日からメロメロだ。
ファルシュターが隊舎に来ている時は必ず様子を見に行っているのを俺は知っている。
そしてルアンだけでなく、他の獣達も今回の演習に並々ならぬ意気込みを見せているのだ。
団長もとても張り切っているのだが、張り切りすぎては連携が取れなくなってしまう。
やはりココは俺が止めるしかないだろう。
「ファルは演習日はセイバースさんと留守番とか無理なんですか?」
あからさまに嫌そうな顔をしてくる団長をなんとか言い含め、無事にファルシュターを留守番させる事に成功した。
とりあえず、獣達にはファルシュターが演習を見学しない事は黙っておく事になったが、当日は大丈夫だろうか。
あれだけ意気込んでいるルアンがどうなってしまうのか今から怖いのだが…。
俺は演習当日、生きて帰れるだろうか…。
そして秘密にしたまま迎えた当日。
『あり得ない。ボクを騙してたって事だろ。下僕の分際で…そんなに死にたかったんだ?』
ヤバイ。
ルアンが激おこだ。
周りの空気まで熱せられて既に熱風だ。
「いや…違うんだよ…こんなに人が多いとファルだって危ないかも知れないだろ?」
なんとか怒りを収めてくれないだろうか。
そんな願いは虚しく、ルアンはどんどんヒートアップしていく。
『今日の演習、覚悟してろよ』
何が起きるんだよ。
だんだん腹が痛くなってきた。
もう帰りたい。
団長とギルバートが到着し演習が開始された。
そこからはまるで地獄の様だった。
自分の事で精一杯で他の獣達がどう動いていたのかは知らないし、団員達がどうなったのかもわからない。
ただ、ルアンは苛烈を極めていた。
苛烈を極め過ぎていた。
今、俺が生きている事が奇跡だと本気で思っている。
ルアンは終始、俺だけを狙っていた。
俺たちは戦闘部隊ではないのに、ずっと俺を狙って攻撃し続けていた。
あの鳥は補助系のスペシャリストのはずだが、性格が攻撃的すぎて毎回出動時は特攻をかけるのだが、さすが獣と言うべきか攻撃力も普通の人間が太刀打ち出来るものではないのだ。
そんな鳥が俺の急所だけを狙って攻撃し続けてくるのだ。
鳩尾、喉仏、こめかみ、もちろん目や心臓など、全力で狙ってきた。
しかも何が辛いって炎でフェイントを入れつつ物理攻撃で確実に痛みを与えてくる事だ。
『土下座でボクに赦しを乞え!この下僕が!』
たぶん見学に来ていた者達は逃げ惑う無様な俺を目に焼き付けただろう。
報告書にも詳細を書かれて、偉いさんにも読まれると思うと情けなくて泣けてくるぜ。
いっそ、ルアンの攻撃に当たって大怪我で入院とか出来ないだろうか。
その間に皆さまの記憶から消えてなくなりたい。
阿鼻叫喚の地獄絵図と化した演習は無事とは程遠い状態で終わりを迎えたらしい。
俺は半分意識がなかったのであまり覚えていないが一通り暴れまくった獣達が各々獣舎や家に帰って行ったとの事。
もちろん相棒は置き去りにしてだ。
そして屍と化した俺たちを比較的、精神的にも肉体的にも傷の浅い団員が医療隊の詰所や寮に運んでくれた様だが、気づけば翌日の朝を迎えていた俺にはあの後何が起きたのかはわからない。
ただ、今まで朝日を見てこんなにも感動した事はなかっただろう。
俺は生きている喜びを噛み締めた。
だが、そんな時間は長くは続かなかった。
悪魔が窓を突き破って登場し、前日と変わらず急所への攻撃を開始したからだ。
悪魔の攻撃はファルシュターがニコニコしながらクッキーを悪魔に食べさすまで続いた。
お前、クッキーとか食べれたんだな。
ファルシュターはこの日、数人の命の危機を救ったヒーローになった。
可愛らしいヒーローが常に笑顔でいられる様に、俺たちは頑張らなければいけないと心に刻んだ。
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