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本編

午前の部は終了しました。

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残りはテホンだったのだが、いつのまにかテホンが居なくなっていた。
何処へ行ってしまったのだろうか。

「兄さん、ロウさん、持ってきました」

テホンが走って帰ってきた。
勢いよく走ってきたのか愛くるしい尻尾がボサボサになってしまっている。

「テホンしゃん、ちっぽ、ぼしゃぼしゃよぉ」

ブラシを持っていないのでなんとか手櫛でいつものホワホワ尻尾に復活しないか何度も梳かしてみる。
やっと納得のいく出来になりホッとしていると、今日の書庫の整理は終わりとの事だった。
3人は揃って自分の前で膝をつき目線を合わせてくれる。

「ファル坊っちゃま、今日はお手伝いありがとうございました。これは御礼の気持ちです」

手渡されたのは蝶々とてんとう虫の飾りだった。
布で出来ており色合いも優しく可愛い。
折角なのでお花のカバンにつけてみたのだが、誂えた様にピッタリでびっくりしてしまった。

「ありがと。ちょちょも、てんとむしも、かわいい」

3人に御礼を言ってお別れしセイバースさんと一緒にまた長い廊下を歩く。
そういえば1番忙しいであろうセイバースさんのお手伝いをしていない事に今更ながら気がついた。
こんなに良くしてもらっているのだから本来なら1番にお手伝いしなければいけなかったのに大失敗だ。

「ちぇいばーちゅしゃん、おてちゅだい、ある?」
「そうですね。お仕事ではないのですが、私は今日はお昼を1人で食べる事になっていたのです。ご一緒していただけると寂しくないので助かります」

セイバースさんの仕事内容はよくわかっていないのだが、自分に出来る事は無さそうだと思っていた。
だが、セイバースさんは1人での食事が寂しいらしい。
一緒に食べるだけでお手伝いになるかはわからないが喜んでくれるのなら自分も嬉しいので、もちろん了承した。

時間的にもお昼ご飯らしく食堂に移動する。
食堂には既に美味しそうなご飯が準備されていた。
いつも通り専用の椅子に座らせてもらい、よだれかけ、いやエプロンもつけられた。
セイバースさんが横に座って給仕もしてくれるのだが、自分の事は気にせずしっかり昼食を食べて欲しい。

今日のお昼はハンバーグだ。
もちろん自分のハンバーグはクマの形をしたシェフこだわりの一品である。
セイバースさんのが普通の楕円形なのを見ても羨ましいなんて思ってはいけない。
わざわざシェフが手間をかけてくれているのだ。
ありがたく頂戴する。

「坊っちゃま、私のトマトと坊っちゃまの人参を交換してくれませんか?私はトマトが苦手なのです」

いいんですか!?

自分はトマトは好きだが人参が嫌いだ。
特に付け合わせとして焼かれただけの人参が苦手で、ハンバーグの横にある人参をいつ食べようか迷っていたのだ。
嫌いだからと言ってお残しはしません。
そんな人参とトマトの交換なんて願ってもない。

「ぼく、とまと、すき。こうかん、しゅる」

フォークで人参をぶっ刺し、セイバースさんの口元へ急いで運んだ。
一瞬驚いた様子を見せたセイバースさんだが、すぐにパクリと人参を食べてくれた。
続いてセイバースさんがナイフでトマトを小さく切って自分と同じようにフォークを使って口元へ近づけてくれたので慌てて口を大きく開いて食べる。
とても瑞々しくて甘いトマトだった。

「パパと、にいしゃま、ないちょねぇ」
「はい。2人の秘密ですね」

嫌いな物を交換して食べなかったと知られてしまったら叱られてしまうだろう。
自分だけならいいのだが、セイバースさんも一緒に叱られる様な事になったら申し訳ない。
いつもはちゃんと食べているが、たぶんギル兄様には人参が嫌いな事はバレている。
何故バレたのかはわからないが、自分の皿に人参がのっていると1つを残して全部食べてくれるのだ。
自分は皿に残った1つを水で流し込む様に食べているのだが、食べ終わると決まって褒めてくれるので間違いないと思う。

「昼食後はお昼寝の時間ですね」

お腹がいっぱいになるとすぐにウトウトしてしまう。
抱っこでギル兄様の部屋まで運ばれてしまった。
この機会に自分の部屋で寝てみてもよかったのだが、何も聞かれず気付いた時にはギル兄様のベットに寝かされていた。

「ゆっくりお休みくださいね。起きたらシェフがオヤツを作るのを手伝って欲しいと言っておりましたよ」

昼寝から目覚めた時の楽しみまで用意してくれているとは、本当にここの人達は自分に異常に優しくとても甘い。
お留守番はパパとギル兄様が帰ってくるまで続くのだ。

お昼寝後もお手伝いを頑張ろうと思う。
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