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本編

エプロンですよ?

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「パパ」

恐怖からなのか緊張してモジモジしながら呼びかけてみるが、出た声は思ったより小さかった。
聞こえただろうか。
団長は瞬間移動ですかと聞きたくなる様な速さで自分の前までくるとガバッと抱き上げてくる。
圧迫死を狙われているのかな。

「そうだよ!パパだよ!ファル君のパパだよーー!!」

力加減を忘れているのか、このままでは本当に潰れそうだ。

「団長、ストップ、ストップ!嬉しいのはわかりますがファルが潰れて死にそうです」
「あぁっ!?ごめんよ、パパ、力入れすぎちゃった」

今度はそのまま高い高いをされてクルクル回っている。
さすが熊の相棒だ。
熊にも同じ事をされた経験がある。
熊科に属する者は嬉しいと高い高いと回転をセットにする習性でもあるのだろうか。

「パパ、めぇ、まわるのぉ」
「パパ、嬉しくってね。今日を記念日として制定したいよ」

パパ呼びは嫌がられていないどころか、大変喜ばれている様だ。
団長は自分と話す時の一人称を私からパパに変えてしまうほどの大喜びで、終始満面の笑顔である。
よかった。
ルイは今度はゲラゲラと大声で笑っていた。

そんな事件があり、その後はずっと団長の事をパパと呼んでいる。

「おはよう、ギル、ファル君」

パパの前にギル兄様が座り、ぴったり横に自分も座らせてもらうのも定番だ。
自分用に作られた幼児用の座面が高い椅子がいつの間にか用意されていた。
パーティーの日同様に背もたれには小鳥やらリスやらのオブジェ付きだ。
とてもメルヘンチックな出来である。
もちろん庭師の手作りであるのは言うまでもない。

席に着くと従僕さん達がご飯を運んでくれるのだが、その前にサッとセイバースさんによってエプロンという名のよだれかけを装着されてしまう。
確かにまだ上手に食べられず、口の周りは汚すし、たまにフォークやスプーンから食材に逃げられてしまう事もあるのだが、よだれかけを装着するとパパとセイバースさんはとても喜ぶし、ギル兄様は可愛い可愛いと褒めちぎるのでちょっと恥ずかしいのだ。

今日の朝ご飯はサラダとスープ、お肉もあるが自分は朝からお肉は食べられない。
来て早々に調子に乗って食べて腹痛で寝込むという失態をおかしてしまっている。
あの日はみんなに心配をかけてしまい申し訳なかった。

そしてなんと今日は朝からパンケーキだ。
パパとギル兄様は普通のパンが山の様に盛られているが、自分の前にはふわふわのパンケーキ。
ジャムとクリームも付いているのだが、今日は何かのお祝いだろうか。
しかも自分だけなのだが、本当に食べていいのか迷ってしまう。

「にいしゃま、ぼくだけ、ケーキ、いいのぉ」
「ルシーは量が多く食べられないけど、もっと太らなきゃダメだからね。シェフが考えてくれたんだよ。よかったね、いっぱい食べようね」

パパもギル兄様も使用人のみんなも、自分にとても甘いと思う。
ゼウスローゼン家はダメ人間製造一家だ。
このままでは我儘坊ちゃんが誕生してしまう恐れがある。
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