上 下
100 / 195
本編

お仕事見学です

しおりを挟む
「アルバート様、迷子ですか?ひゃー、小さい子ですね。…誰と一緒に来たのかな?」

もうやめてくれ。
これ以上は団長が泣いてしまう。

「パパ」
「え!?」
「パパときちゃの。パパの、おちごと、みてりゅのよぉ」

なんとか息子認定してもらいこれ以上のダメージを団長に与えない様に、しっかりと抱きつきながらパパと呼んでみた。
ずっと団長と呼んでいたが、これも迷子だと思われる原因だったのだろう。
お父さんでは呂律の周りにくい今の自分では発音し辛く仕方なくパパ呼びにしてしまったのだが、後から考えたらギル兄様と一緒で父上と呼べばよかったと後悔した。

「ねー。パパ」

笑顔で団長を見上げるが、口と目を大きく開き固まっている。
隣のルイも同様である。
なんだ。
やっぱりパパ呼びはダメだったのだろうか。
だがもう呼んでしまった以上、せめてこの目の前の人にはパパで継続するしかない。
今更、団長と呼び替えたら不審だろう。

「パパ?…パーパ?」

ツンツンと突いてみるが反応がない。
先にルイが復活し領民に挨拶すると、団長を促し騎士団へ帰ってきてしまった。
その間、団長は一言も喋らなかった。
パパと呼んだ事を怒っているのだろうか。
そこまで拒否されてると思うとちょっと泣きそうである。

「団長、そろそろ戻ってきてください。団長の可愛い愛息子ちゃんが泣きそうですよ」

ハッとした表情で団長が見つめてくる。

「ごめんちゃい。パパ、いわにゃい」

とりあえずまずは謝罪だろう。
この後、機会を頂けるなら言い訳も聞いてもらいたい。

「違うんだ!そんな…」
「だんちょ?」
「あぁ…私の馬鹿。阿呆、間抜け」

どうしよう。
すごく取り乱しているのか頭を壁に打ち付け始めた。
戻って来て早々にソファーに下ろされていてよかった。
ゴンゴンとすごい音が響いているが団長の頭は大丈夫だろうか。
ルイは声を出さずに爆笑している。
器用なヤツだ。

「けが、しゅるよぉ」

団長の頭と壁を守るべく、お行儀は悪いがソファーに立ち上がりなんとか存在をアピールしてみる。
団長、貴方のコロポックルはココにいますよ。
落ち着いて下さい。
手を振ったり、飛び跳ねていたら、団長がやっとこちらを見てくれた。

眉間に皺がより、ギリギリと音がしそうな程に歯を噛み締めている。
殴られる事はないだろうが、とても怖いです。
悲鳴をあげなかった自分を褒めてあげたい。

「ファル君…もう呼んでくれないのかい…」

ボソッと呟かれるので自分の名前しか聞き取れなかった。

「ファル、ちょっと耳貸して」

いつの間にか爆笑が治まっていたルイが隣に座り内緒話をする様に顔を近づけて来た。

「もう1回、団長の事パパって呼んでみろよ」

ルイは自分に死ねと言っているのだろうか。
あれほど拒否されたのにもう一度挑戦しろとは鬼の所業だと思う。

「おこりゅから、やだ」
「大丈夫だって。見てみろ、あんな顔で仕事してたら怖がられちゃうだろう?なんとか出来るのはファルだけなんだぞ」

自分にも荷が重いです。
だが確かにあの顔はいただけない。
イケメンだからか怖さが倍増しているのだ。
自分が死地に向かえば誰かが助かるという事なのだろう。

頼むぞ、ルイ。
骨は拾ってくれよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

俺の伴侶はどこにいる〜ゼロから始める領地改革 家臣なしとか意味分からん〜

琴音
BL
俺はなんでも適当にこなせる器用貧乏なために、逆に何にも打ち込めず二十歳になった。成人後五年、その間に番も見つけられずとうとう父上静かにぶちギレ。ならばと城にいても楽しくないし?番はほっとくと適当にの未来しかない。そんな時に勝手に見合いをぶち込まれ、逃げた。が、間抜けな俺は騎獣から落ちたようで自分から城に帰還状態。 ならば兄弟は優秀、俺次男!未開の地と化した領地を復活させてみようじゃないか!やる気になったはいいが……… ゆるゆる〜の未来の大陸南の猫族の小国のお話です。全く別の話でエリオスが領地開発に奮闘します。世界も先に進み状況の変化も。番も探しつつ…… 世界はドナシアン王国建国より百年以上過ぎ、大陸はイアサント王国がまったりと支配する世界になっている。どの国もこの大陸の気質に合った獣人らしい生き方が出来る優しい世界で北から南の行き来も楽に出来る。農民すら才覚さえあれば商人にもなれるのだ。 気候は温暖で最南以外は砂漠もなく、過ごしやすく農家には適している。そして、この百年で獣人でも魅力を持つようになる。エリオス世代は魔力があるのが当たり前に過ごしている。 そんな世界に住むエリオスはどうやって領地を自分好みに開拓出来るのか。 ※この物語だけで楽しめるようになっています。よろしくお願いします。

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

帝国の皇太子に目を付けられた貧国おバカ王子の末路

珈琲きの子
BL
天使と謳われる貧国の王子ラベライト。中身はただのおっぱい好きなおバカな転生者だった。 しかし皆を虜にするような愛らしい外見から帝国の皇太子に目を付けられ、政略結婚により帝国の皇太子妃に迎え入れられる。 おバカなラベライトはそんなことも露知らず、世界最先端の技術を持つ帝国に住めることを喜ぶのだが…… マッチョ皇太子×外見天使なおバカ王子のアホエロ物語。 ※半分無理矢理の快楽堕ちです。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...