コレは流行りの転生ですか？〜どうやら輪廻転生の方でした〜

本編

自分の存在価値が見当たらない

「さあ、着いたよ。本邸まで少し歩くからね」

団長が優しく頭を撫でてくれる。
だが、今はそれどころではない。

「…にいしゃま、おりりゅ」
「どうしたの？歩かなくても抱っこで大丈夫だよ？」
「おりりゅの。おろちてぇ」

早くしてくれ。
このままでは取り返しのつかない惨劇を巻き起こしてしまう。
渋々といった感じだが、床に下ろしてもらえた。
とりあえず急いでギル兄様から離れる。

「ルシー！？」

ギル兄様の慌てた声が聞こえたが気にしていられなかった。
誰の迷惑にもならない様に、全員から距離を取る。
間一髪だった。

「おえぇ…」

案の定、吐いてしまった。
さっき食べた少量のクッキーだけしか出なかったが最悪だ。
ギル兄様に抱っこされたまま吐くという暴挙は免れたが、床を汚してしまった。
しかも、吐き気が治らない。
床に膝をついて気合いで治らないか試しているのだが効果がない様だ。
気合いが足りないのかも知れない。

「ルシー！」
「ファル君！」
「ファル！」

三者三様、自分を呼びながら心配してくれているのだが今は近くには来ないで欲しい。
いつ、口から滝の様に出てくるかわからないのだ。
これ以上の失態は避けたい。

だが、そんな願いは虚しくギル兄様は吐いて汚れている自分など全く気にせず隣に膝をつき背中を撫でてくれる。

「ルシー、気持ち悪いね。全部吐いちゃって大丈夫だよ。背中、トントンしようか？」


優しさが沁みるが、こんな近距離で吐くなんて絶対にしたくない。
両手で口を押さえて耐える。
すると、鳥が炎を翼に纏いながら目の前に来た。
鳥よ、その場所はデンジャーゾーンだ。

せめて横に移動して欲しいと思っていたら、鳥が淡く光り可愛らしく鳴いた。
その瞬間、吐き気が治まった。
なんだろう。
酔い止めの魔法か何かだろうか。
それならば、転移する前にお願いしたかったが治してもらった立場で言って良い事ではない。

「ルアちゃ、ありがとぉ。なおったよぉ」

吐き気を治してくれた鳥に感謝だ。
先程の突起物の件は忘れる事にする。

「ファル君、やっぱり転移酔いしちゃったね。ごめんね、もっと気をつけてあげなきゃいけなかったのに…」

団長が魔法で口の中のイガイガを取り除いてくれた。
自分が勝手に酔って吐いただけなので気にしなくてもいいのだが、やはり団長は気に病んでしまったようだ。
確かにマニアならコロポックルの嘔吐シーンなど見たくなかっただろう。
「もう、げんき！げろげろ、ごめんちゃい」
吐瀉物も虎とギル兄様が魔法で片付けてくれた。
熊が小さい氷を口に入れてくれたので、気分までもスッキリだ。
ルイは本邸に自分の不調を伝える為、走ってくれているそうだ。
みんなに申し訳ない。
次に転移陣を使う時は直前の飲食は控えようと思う。

転移陣のある建物はお屋敷の門の近くにあった。
ここから本邸までは少し歩くと言っていたのだが、その本邸とは奥の方に見える豪邸の事だろうか。
個人宅に豪華な噴水がある事にも驚きだ。

だがやはり、ここでも自分は歩いていない。
熊が心配しすぎて、背に乗せる事を望んだのだ。
ギル兄様も歩かせる気は元々なかった様で、またお隣で手を繋いでくれている。
鳥はルイを追って先に飛んでいってしまった。
自分が回復した事を伝えてくれるらしい。
虎はギル兄様の反対隣を自分をチラチラ見ながら歩いている。

「すごい光景だよね。朝まではこんな素晴らしい日になるなんて思いもしなかったけど、ギルが笑って、シーザーもソラも楽しそうで…。全部、ファル君のおかげだね」

自分は何もしていないと思う。
コロポックルの仮装で登場し、ギル兄様に出会って大興奮。
その後、獣と盛大に遊び爆睡後に器物破損、トドメに嘔吐だ。

迷惑しかかけてないじゃないか。

今後はなるべく迷惑をかけず、嫌われない様に良い子になろうと心に誓った。