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本編

転移陣

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「さあ、帰ろうね」

 団長に促されて向かったのは、隊舎にある大きな一室だった。
床にファンタジックな模様が描かれているのがオシャレである。

部屋には自分とギル兄様、団長にルイ、それから熊、虎、鳥が全員大集合だ。
何故だ。
帰るのではなかったのか?
外に行かずわざわざ部屋を移動して獣達まで集める意味がわからない。

「ルシーはもしかして転移陣を知らないかな?」

自分があまりにもボーっと床を眺めていた所為か、ギル兄様が教えてくれた。
どうやらこの辺境領では転移陣なる物が至る所に設置されているらしい。
誰でも使用できる物から、特定の人しか動かす事が出来ない物まで色々あるそうだ。
団長は領主なのでお屋敷にも転移陣が設置されているが、普通は公共の施設に設置してある物を使い、緊急用に家に数枚、使い捨てタイプの簡易転移陣を用意している者が多いとの事。
設置タイプには石が嵌め込まれていて、そこに魔力を流しながら行き先を口にすれば到着するらしい。
因みに使い捨てタイプは行き先を記入する必要があると丁寧に教えてもらったが、はたして自分には魔力があるのだろうか。

今はギル兄様に抱っこしてもらっているが、いつか1人で使う時に発動しなかったら恥ずかしい。
意気揚々と行き先を叫んだのに、ポツンと取り残されたら辛すぎる。

「ぼく、ちゅかえる?」
「魔力の測定は5歳からだから今はまだ無理だね。ファル君がもう少し大きくなったら調べてみようね」

魔力が少なくて長距離の転移が出来ない人もいるらしいが、全く無い人はいないというので一安心だ。
実は魔法を見た時から自分も使ってみたいと思っていたんだ。

団長のように治癒魔法が使えたら、ギル兄様が怪我をした時に助ける事が出来るし、氷や炎が出せるのならギル兄様のピンチに颯爽と現れて敵を攻撃する。
カッコいい自分を想像してニヤけてしまった。

「ルシーは表情がクルクルして可愛いね」

今はまだ小さいので可愛いと言われてしまうが、身体を鍛えてムキムキになれば、ギル兄様もきっとカッコいいと褒めてくれる筈だ。

「ぼく、ムキムキなりゅ。がんばる」
「あはは。ムキムキのルシーも可愛いだろうね」

何故だ。
ムキムキは可愛くは無いと思う。
ムキムキで可愛いのならムッキムキを目指すしかないが、どれだけ時間がかかるのだろうか。
今日からまずは腹筋を鍛える事にしよう。

有事の際は獣も一緒に転移陣を使用して移動するが、通常は獣は各々で目的地へ向かうらしい。
走っていくのだろうか。
熊や虎は毎日、お屋敷から騎士団の隊舎まで移動している筈だ。
あんな巨大な獣が街中を走っていたら問題にならないのだろうか。
自分が目撃したら間違いなく腰を抜かすと思う。

それだけ獣が街に浸透しているのか、それともまさか転移陣なしで瞬間移動でもするのか。
なんとなくだが、熊や虎なら出来そうな気がする。

今度、ギル兄様か団長に聞いてみよう。
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