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本編

誘拐犯

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大きく息を吸い込み、叫ぼうとした瞬間。

ピチチと可愛らしい鳴き声が聞こえた。
助けに来てくれたのか!
あの鳴き声は鳥だ。
リサイタルを聴いた自分が間違える筈がない。
鳥は自分と同じくらいの大きさだが、本気を出したら火も出せるのだ。
誘拐犯の1人くらい撃退出来るだろう。

バッと振り返ると、確かに鳥はいた。
目の前に。
誘拐犯がいると思っていた場所に鳥がいるのだ。
鳥以外は誰もいなかった。
鳥の乱入で逃げて行ったのだろうか。

恐怖から解放されてその場にヘナヘナと座り込んでしまう。
そんな自分の肩を鳥が労わる様に突いているのだが、まさか、この感触。
さっきまで背中に押し付けられていた突起物ではないだろうか。

大きな音がしたであろう場所を見ると、人が出入りするには小さ過ぎて不可能な窓が無残にも破壊されていた。
助けに来てくれたのは間違いない。
確かに自分は鳥にも助けを求めたのだから、応じてくれた鳥に感謝しなければいけないだろう。

だが何故、背中に嘴を押し当てたんだ。
小鳥ならまだしも、60cmは超えていると思われる大きな鳥の嘴を無言で押し付けられた自分の気持ちも考えてくれ。
ガラスのハートは震え上がったし、正直お漏らしするところだった。

「ルアちゃ、びっくりしたのよぉ。しゃしゃれる、おもった。でも、きちぇくれて、ありがとぉ」

鳥はご機嫌なまま飛び上がり、自分の頭上をクルクルと旋回していた。

しかも鳥は大きな体を使ってドアノブを器用に操作するという神技まで披露してくれた。
あんなに頑なだった扉が開いたのだ。

「ルアちゃ、にいしゃま、さがしゅ、てちゅだってぇ」

お願いすると鳥は自分の横に降り立ってくれた。
一緒に歩いてくれる様だ。
ヨチヨチ歩く幼児の横をチョンチョン跳び歩く鳥。

部屋から出てみたが、やはり現在地が全くわからない。
何処へ向かって歩くべきか迷っていると、鳥が躊躇うことなく歩き出した。

「ルアちゃ、ばちょ、ちってるのぉ」

短い足と少ない体力では無駄にウロウロ歩き回れない。
途中で疲れたからと言って自分と同じサイズの鳥に背負ってもらう訳にはいかないのだ。
鳥は任せておけとでも言うようにクアッと鳴いた。

鳥と超絶スローペースで歩いているのだが、なかなか人に会えない。
人に会えればギル兄様の居場所を聞けるのだが、今は鳥を信じるしか無い様だ。

鳥と一緒に長い廊下を進むと難所に着いてしまった。
階段だ。
しかも一段がとても高いように見える。
それを下らなければいけないのだが、足が竦んで一歩が踏み出せない。
普通には無理だと判断し座りながら尻で下りる作戦を思いついた。

だがしかし、此処でも問題が発生してしまう。
今度は足が着かないのだ。
ギリギリまで浅く座ってみても、足がぷらぷらと宙に浮いている。
その状態で果たして無事に一段ずつ下りれるだろうか。
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