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攻said
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「君に結婚を申し込む」
いつもの場所、向かい合った開口一番にプロポーズした。
目の前にいる彼は、いつも通り可愛いぷくぷくのほっぺで大きな目をまんまるにして俺を見つめてくる。
彼は月に2度だけ王都に商品を納品しにくるのだが、彼に似合う可愛らしい作品ばかりだ。
繊細に刺繍されたハンカチも、パッチワークで作られたベットカバーも、去年の冬には綺麗に編み込まれたマフラーも納品日に勿論購入した。
勿体無くて使えないが、大切な宝物だ。
彼、セイランとの出会いは3年前だ。
ある日、演習場の横に併設されている公園のベンチに座っている姿を見た。
あの公園はいつも演習を見学にくる者で溢れているのだが、他の者など目に入らなかった。
完全な一目惚れだ。
大きな身体をちょこんと丸めて座っている姿も可愛いし、演習を見るキラキラした大きな瞳が印象的だった。
もちろん、顔は文句なく可愛い。
あのぷくぷくした柔らかそうな身体は男の劣情を煽るだろう。
毎日見学にくる者が多い中、セイランはなかなか来てくれず距離が全く縮まらない1年が経ってしまった。
セイランが月に2回しか王都に来ない事には早い段階で気付いていたが、公園からの見学者が多く彼に話しかけに行けなかったのだ。
仮にも将軍の立場でセイランだけを優遇すると、彼が嫌な目に遭ってしまうかもしれない。
ただ、どうやら俺の気持ちは周りにバレバレだった様だ。
まぁ、月に2度、必ずぬいぐるみを抱えて歩く強面の男を見たら誰でもわかるだろう。
そのぬいぐるみの作者がいつも一緒なのも周知の事実だった。
セイランが来る日は公園の見学者がどんどん減って行った。
王都の住人は皆、俺の恋を応援してくれている様だ。
そんなある日、いつもならすぐにベンチに座る彼が不安そうにキョロキョロと視線を動かし、ウロウロと歩いているのを見つけた。
歩いているだけで可愛いのは何故なんだ。
「ベンチに行かないのか」
声をかけると、座っていいのかと迷っていたと可愛い笑顔で応えてくれた。
ぷくぷくのほっぺがピンク色に染まっているのを見て、無性に触りたくなったがグッと堪えた。
その日からセイランがベンチに座っているのを見つけると、急いで隣に行くようにした。
ただ、会話は続かず挨拶のみだ。
別に俺は無口な方ではない。
セイランはベンチに座ると刺繍や編み物を始めるのだが、その姿がとても可愛らしくいつも見惚れてしまうし、気付くと魅入ってしまっているのだ。
勿論、邪魔をしたくない気持ちもある。
俺はその静かな空間をとても気に入っていた。
それからまた、ぬいぐるみが12コくらい増えた頃だったと思う。
巨大な魔物が王都に向かって進行中と情報があったのだ。
軍を率いて討伐に向かわなければいけないが問題があった。
6日後にはセイランが王都に来る日だ。
たった月に2回しか会えない。
その貴重な1回を魔物如きの為に失うなんて耐えられる訳がないだろう。
「この程度の魔物ならお前らだけで討伐して来い」
俺はセイランに会う為に王都を離れる気はない。
「将軍、全軍討伐に参加するよう命を受けたのをお忘れですか?全軍にはもちろん将軍も含まれます」
「俺以外全員で行ってこい。俺が王都は守ってやる」
「カッコいい台詞ですが、行きたくないだけなのはわかってます。……それにもし、王都の前に何処か、そう隣街などが襲われたら……」
セイランに危険が迫っているではないか。
2日で移動し1日で討伐、残りの2日で戻って来れば問題ない。
俺の軍は討伐が仕事だ。
その後の処理は別の指揮官が担当するだろう。
「すぐに出立する。遅れる者は置いて行くので各自で勝手に着いてこい」
そうして俺は見事、2日で移動、1日で討伐をやり遂げた。
何人かの部下しか着いて来れなかったが、遅れても諦める事なく全力で追いかけてきたので良しとしよう。
此処で手を抜く様な部下は俺の軍にはいらない。
「明朝、帰路に着く。俺は急ぐが帰りはのんびり戻って来い」
討伐後も魔物の処理があり、その日の内に帰る事が出来ないのは仕方がないが今回ばかりは気が焦ってしまう。
セイランに会いたい。
今回の作品は何だろうか。
今月1ヶ目のぬいぐるみは黒いウサギが銀色の礼服を着ていた。
彼の作品には毎月テーマがあるのだ。
セイランの作品にはファンが多くいると思う。
セイランは毎回、決まった時間に納品するので必ずその時間の少し前には俺も店の近くに待機し、彼が店を出た瞬間に急いで購入しに行く様にしている。
毎月2回、俺の愛が試される瞬間だ。
此処で別の誰かにぬいぐるみの購入権を奪われてしまう様なら、俺のセイランへの愛がまだ足りない証拠になってしまう。
幸いにもまだ誰にも1度も奪われてはいない。
明日からまた馬を飛ばして急げば、前日の夜には王都に戻れる。
その予定だった。
馬を飛ばして2日目、もう少しで王都が見えるという矢先にソイツは現れた。
討伐した魔物より遥かに巨大なドラゴンだった。
「将軍、王都に向かいドラゴンが飛翔しているのを確認。既に戦闘体制に入っている模様。コチラの戦力は我々、5名しかいません」
討伐しなければいけないのはわかっている。
だが、討伐してしまったら俺は今日中に王都に帰れないのだ。
憎い。
「お前の所為でーー!巫山戯るなよ。2、3日前後にずらして来いよ!なんで今日なんだよ!」
魔法で地面に撃ち落とし、即座に首を刎ねた。
怒りが収まらず、そのままドラゴンを斬り刻み魔法で燃やし尽くす。
「副将軍、将軍がドラゴンを瞬殺し消滅させてます」
「たった1人で、あんなに簡単に…。相手はドラゴンですよ?しかもあんなに巨大な…」
「いや、もう将軍の方が人類の脅威っス」
「良いですか。今は将軍に近づいてはいけません。巻き込まれたら怪我では済みませんよ。私達に求められている事は如何に早く処理を終わらせられるかです。将軍を最速で王都におくり出す事だけを考えましょう」
部下が俺から距離を取りコソコソと話し合っていたが、気にしていられない。
処理が終わったのは明け方だった。
どんなに急いでも王都に到着するのは夕方だろう。
「俺は帰る」
「報告は私がしておきます。どうぞ、お急ぎください」
副将に後を任せ、一睡もしていないが馬で駆ける。
王都の門をくぐれたのはやはり夕方だった。
ぬいぐるみは諦めるしか無いが、遠くから見るだけでもいい。
セイランに会いたかった。
セイランはいつも決まって同じ宿を利用している。
宿屋の主人に話をつけ、差額分は俺が払うのでセイランには風呂とトイレがついた部屋を用意する様に言ってある。
当然だ。
セイランの可愛いセイランが他の男の目に映るのは許せない。
宿屋に着くと、ちょうど食堂で夕食を食べているセイランを見つけた。
もぐもぐと美味しそうに頬張っている。
荒んだ心が少しだけ浄化された。
血で汚れたまま、彼の前に出るわけにもいかず主人に迷惑をかけた事を詫び屋敷へ戻った。
次の日、朝から報告書を纏めているとセイランが商品を卸している店の店主が訪ねてきた。
「将軍様、差し出がましいとは思ったんですがね。コレ、前回のとセットみたいなんで取置きしといたんですが…」
なんと、昨日買えなかったと思っていたぬいぐるみだ。
「いつもなら取置きとかはしないんですがね。このぬいぐるみ見たら、やっぱり一緒に居させてやりたくなっちまって。将軍様が買って下さってよかった」
黒いウサギがウエディングドレスを着ていた。
そうか、1ヶ目のウサギは新郎だったのか。
「無事に新婦が嫁いで来てくれて嬉しく思う。勿論、取り置いてもらった分は上乗せして支払わせてもらおう。本当にありがとう」
ウエディングドレス。
セイランが着たら可愛いだろうな。
セイランの隣に並ぶ新郎は俺でなければいけない。
付き合ってすらいないのに、この時から急に結婚を意識し出した。
しかし、俺は見てしまった。
セイランが緊張なのか涙目で見つめている先。
娼館だ。
セイランも年頃の男だ。
興味があって当然だが、その娼館は男性専門である。
詳しく言えば、働いている娼夫は全員孕ませる側の男なのだ。
抱きたいという欲求なら俺には叶えてやれないだろう。
だが、抱かれたいと思っているなら俺ではダメだろうか。
俺を望んではくれないだろうか。
セイランは娼館に入る事なく足速に宿屋に戻っていった。
あれから色々考えたが、自分の気持ちを正直に伝えるしかないとわかっている。
「付き合ってほしい」
そう伝えるつもりだった。
だが、セイランの顔を見た瞬間、間違いだったと気付いたんだ。
付き合いたいんじゃない。
俺の伴侶になってほしいんだ。
自分の気持ちを理解した瞬間、プロポーズしていた。
それなのに、緊急招集だと?
副将が慌てて呼びに来たのだから、なにか起きているのだろうが、俺も今、人生で1番キメなければならない場面に立っていたのだ。
「また後日、詳しく話がしたい」
この日から、まさか1ヶ月も会えなくなるなんて思ってもみなかった。
緊急招集で話されたのは、ドラゴンが数匹、王都の上空を飛んでいるとの事だった。
またドラゴン。
俺の邪魔ばかりするのなら絶滅させてやろうか。
「俺が今その数匹を討伐するから、しばらく休暇をくれ。隣街に用事が出来た」
セイランにもっと伝えたい事がある。
まだ、好きも、愛してるも伝えて無いのだ。
ドラゴン如きに時間をかけている場合ではない。
「だが、此処は王都だぞ。どうやっても被害が出る」
「わかった、わかった。被害が無ければいいんだろう?」
簡単な事だ。
魔法で消滅させるだけ。
上空を飛んでいるドラゴンをそのまま結界魔法で閉じ込めて、その結界を空間魔法で小さくしていく。
「ほら、終わったぞ。もういいよな、俺は行くぞ」
セイランはまだ宿屋に居るだろうか。
急がなければ今日中には隣街に帰ってしまう。
「アレが味方で助かった」
「敵に回しちゃいかんな。アレは規格外だ」
走り出した俺の後ろで他の将軍共が顔を青くしていたらしい。
セイランは昨日、宿屋に泊まっていなかった。
俺がプロポーズしたから、慌てて家に逃げ帰ったのだろうか。
だが俺も諦める気は無い。
追いかける様に隣街まで急いだ俺は此処で絶望を味わう事になる。
セイランが家に居なかったのだ。
大きな荷物を持って出て行ったという。
行き先は誰も知らなかった。
1週間、ひたすらに待った。
だが、セイランは帰って来なかった。
もぎ取った休暇は1週間、もう王都へ戻らなければいけない。
更に1週間経ち、いつもならセイランが納品に来る日。
やはり、セイランは来なかった。
俺がプロポーズしたからだ。
こんな強面の男じゃセイランには似合わないのはわかっていた。
セイランなら王子様の様な男が似合うだろう。
あんなに全部が可愛いのだ。
もう王都には来ないのだろうか。
セイランに2度と会えないと思うだけで、俺の世界は簡単に色を失った。
それからは毎日、魔物を倒した。
セイランが安心して暮らせる様に。
俺に出来る事はそれしか無かった。
「将軍、このままでは魔物より先に私が死ぬと思います。将軍がこの世の全ての魔物を殲滅するのは勝手ですが、これ以上、私を巻き込まないで頂きたい」
セイランに会えなくなって1ヶ月がたっていた。
その間も部下や役人がセイランを探してくれていたが、手がかりすら見つからない。
そんな中、魔物を討伐中の俺に部下がわざわざ手紙を届けに来た。
演習場に隣接した公園の入り口で見知らぬ男に頼まれたという。
差出人は書かれていなかった。
だが、宛名に書かれた俺の名を見てすぐに誰からかわかる。
セイランからだった。
慌てて読むと、両親に会いに行っていたら遅くなってしまった。
自分はいつでもいいから話がしたいと書かれていた。
どういう事だ。
俺のプロポーズはまだ失敗していないのか?
両親に会いにとは、まさか結婚の報告か?
それなら何故、俺を一緒に連れて行ってくれなかったのだ。
わからない事が多すぎるが、セイランが今、王都に居る事は確かだ。
会いたい。
俺は急いで王都へ戻った。
いつもの宿屋にセイランは居た。
ただ、何故かプレートアーマーを着込んでいる。
俺を見つけると駆け寄ろうとしたが、慣れない鎧の所為で転んでしまった様だ。
「何をやっているんだ!怪我はないな?この1ヶ月、どうしてたんだ?避けられてるのかと思ったが、納品にも来ていなかっただろう?」
慌てて抱き起こし、ヘルムを取る。
「心配したが、無事でよかった。セイラン。……ところでこの格好はなんだ?」
この後、宿屋の主人と部下達が何故か叫んでいた。
いつもの場所、向かい合った開口一番にプロポーズした。
目の前にいる彼は、いつも通り可愛いぷくぷくのほっぺで大きな目をまんまるにして俺を見つめてくる。
彼は月に2度だけ王都に商品を納品しにくるのだが、彼に似合う可愛らしい作品ばかりだ。
繊細に刺繍されたハンカチも、パッチワークで作られたベットカバーも、去年の冬には綺麗に編み込まれたマフラーも納品日に勿論購入した。
勿体無くて使えないが、大切な宝物だ。
彼、セイランとの出会いは3年前だ。
ある日、演習場の横に併設されている公園のベンチに座っている姿を見た。
あの公園はいつも演習を見学にくる者で溢れているのだが、他の者など目に入らなかった。
完全な一目惚れだ。
大きな身体をちょこんと丸めて座っている姿も可愛いし、演習を見るキラキラした大きな瞳が印象的だった。
もちろん、顔は文句なく可愛い。
あのぷくぷくした柔らかそうな身体は男の劣情を煽るだろう。
毎日見学にくる者が多い中、セイランはなかなか来てくれず距離が全く縮まらない1年が経ってしまった。
セイランが月に2回しか王都に来ない事には早い段階で気付いていたが、公園からの見学者が多く彼に話しかけに行けなかったのだ。
仮にも将軍の立場でセイランだけを優遇すると、彼が嫌な目に遭ってしまうかもしれない。
ただ、どうやら俺の気持ちは周りにバレバレだった様だ。
まぁ、月に2度、必ずぬいぐるみを抱えて歩く強面の男を見たら誰でもわかるだろう。
そのぬいぐるみの作者がいつも一緒なのも周知の事実だった。
セイランが来る日は公園の見学者がどんどん減って行った。
王都の住人は皆、俺の恋を応援してくれている様だ。
そんなある日、いつもならすぐにベンチに座る彼が不安そうにキョロキョロと視線を動かし、ウロウロと歩いているのを見つけた。
歩いているだけで可愛いのは何故なんだ。
「ベンチに行かないのか」
声をかけると、座っていいのかと迷っていたと可愛い笑顔で応えてくれた。
ぷくぷくのほっぺがピンク色に染まっているのを見て、無性に触りたくなったがグッと堪えた。
その日からセイランがベンチに座っているのを見つけると、急いで隣に行くようにした。
ただ、会話は続かず挨拶のみだ。
別に俺は無口な方ではない。
セイランはベンチに座ると刺繍や編み物を始めるのだが、その姿がとても可愛らしくいつも見惚れてしまうし、気付くと魅入ってしまっているのだ。
勿論、邪魔をしたくない気持ちもある。
俺はその静かな空間をとても気に入っていた。
それからまた、ぬいぐるみが12コくらい増えた頃だったと思う。
巨大な魔物が王都に向かって進行中と情報があったのだ。
軍を率いて討伐に向かわなければいけないが問題があった。
6日後にはセイランが王都に来る日だ。
たった月に2回しか会えない。
その貴重な1回を魔物如きの為に失うなんて耐えられる訳がないだろう。
「この程度の魔物ならお前らだけで討伐して来い」
俺はセイランに会う為に王都を離れる気はない。
「将軍、全軍討伐に参加するよう命を受けたのをお忘れですか?全軍にはもちろん将軍も含まれます」
「俺以外全員で行ってこい。俺が王都は守ってやる」
「カッコいい台詞ですが、行きたくないだけなのはわかってます。……それにもし、王都の前に何処か、そう隣街などが襲われたら……」
セイランに危険が迫っているではないか。
2日で移動し1日で討伐、残りの2日で戻って来れば問題ない。
俺の軍は討伐が仕事だ。
その後の処理は別の指揮官が担当するだろう。
「すぐに出立する。遅れる者は置いて行くので各自で勝手に着いてこい」
そうして俺は見事、2日で移動、1日で討伐をやり遂げた。
何人かの部下しか着いて来れなかったが、遅れても諦める事なく全力で追いかけてきたので良しとしよう。
此処で手を抜く様な部下は俺の軍にはいらない。
「明朝、帰路に着く。俺は急ぐが帰りはのんびり戻って来い」
討伐後も魔物の処理があり、その日の内に帰る事が出来ないのは仕方がないが今回ばかりは気が焦ってしまう。
セイランに会いたい。
今回の作品は何だろうか。
今月1ヶ目のぬいぐるみは黒いウサギが銀色の礼服を着ていた。
彼の作品には毎月テーマがあるのだ。
セイランの作品にはファンが多くいると思う。
セイランは毎回、決まった時間に納品するので必ずその時間の少し前には俺も店の近くに待機し、彼が店を出た瞬間に急いで購入しに行く様にしている。
毎月2回、俺の愛が試される瞬間だ。
此処で別の誰かにぬいぐるみの購入権を奪われてしまう様なら、俺のセイランへの愛がまだ足りない証拠になってしまう。
幸いにもまだ誰にも1度も奪われてはいない。
明日からまた馬を飛ばして急げば、前日の夜には王都に戻れる。
その予定だった。
馬を飛ばして2日目、もう少しで王都が見えるという矢先にソイツは現れた。
討伐した魔物より遥かに巨大なドラゴンだった。
「将軍、王都に向かいドラゴンが飛翔しているのを確認。既に戦闘体制に入っている模様。コチラの戦力は我々、5名しかいません」
討伐しなければいけないのはわかっている。
だが、討伐してしまったら俺は今日中に王都に帰れないのだ。
憎い。
「お前の所為でーー!巫山戯るなよ。2、3日前後にずらして来いよ!なんで今日なんだよ!」
魔法で地面に撃ち落とし、即座に首を刎ねた。
怒りが収まらず、そのままドラゴンを斬り刻み魔法で燃やし尽くす。
「副将軍、将軍がドラゴンを瞬殺し消滅させてます」
「たった1人で、あんなに簡単に…。相手はドラゴンですよ?しかもあんなに巨大な…」
「いや、もう将軍の方が人類の脅威っス」
「良いですか。今は将軍に近づいてはいけません。巻き込まれたら怪我では済みませんよ。私達に求められている事は如何に早く処理を終わらせられるかです。将軍を最速で王都におくり出す事だけを考えましょう」
部下が俺から距離を取りコソコソと話し合っていたが、気にしていられない。
処理が終わったのは明け方だった。
どんなに急いでも王都に到着するのは夕方だろう。
「俺は帰る」
「報告は私がしておきます。どうぞ、お急ぎください」
副将に後を任せ、一睡もしていないが馬で駆ける。
王都の門をくぐれたのはやはり夕方だった。
ぬいぐるみは諦めるしか無いが、遠くから見るだけでもいい。
セイランに会いたかった。
セイランはいつも決まって同じ宿を利用している。
宿屋の主人に話をつけ、差額分は俺が払うのでセイランには風呂とトイレがついた部屋を用意する様に言ってある。
当然だ。
セイランの可愛いセイランが他の男の目に映るのは許せない。
宿屋に着くと、ちょうど食堂で夕食を食べているセイランを見つけた。
もぐもぐと美味しそうに頬張っている。
荒んだ心が少しだけ浄化された。
血で汚れたまま、彼の前に出るわけにもいかず主人に迷惑をかけた事を詫び屋敷へ戻った。
次の日、朝から報告書を纏めているとセイランが商品を卸している店の店主が訪ねてきた。
「将軍様、差し出がましいとは思ったんですがね。コレ、前回のとセットみたいなんで取置きしといたんですが…」
なんと、昨日買えなかったと思っていたぬいぐるみだ。
「いつもなら取置きとかはしないんですがね。このぬいぐるみ見たら、やっぱり一緒に居させてやりたくなっちまって。将軍様が買って下さってよかった」
黒いウサギがウエディングドレスを着ていた。
そうか、1ヶ目のウサギは新郎だったのか。
「無事に新婦が嫁いで来てくれて嬉しく思う。勿論、取り置いてもらった分は上乗せして支払わせてもらおう。本当にありがとう」
ウエディングドレス。
セイランが着たら可愛いだろうな。
セイランの隣に並ぶ新郎は俺でなければいけない。
付き合ってすらいないのに、この時から急に結婚を意識し出した。
しかし、俺は見てしまった。
セイランが緊張なのか涙目で見つめている先。
娼館だ。
セイランも年頃の男だ。
興味があって当然だが、その娼館は男性専門である。
詳しく言えば、働いている娼夫は全員孕ませる側の男なのだ。
抱きたいという欲求なら俺には叶えてやれないだろう。
だが、抱かれたいと思っているなら俺ではダメだろうか。
俺を望んではくれないだろうか。
セイランは娼館に入る事なく足速に宿屋に戻っていった。
あれから色々考えたが、自分の気持ちを正直に伝えるしかないとわかっている。
「付き合ってほしい」
そう伝えるつもりだった。
だが、セイランの顔を見た瞬間、間違いだったと気付いたんだ。
付き合いたいんじゃない。
俺の伴侶になってほしいんだ。
自分の気持ちを理解した瞬間、プロポーズしていた。
それなのに、緊急招集だと?
副将が慌てて呼びに来たのだから、なにか起きているのだろうが、俺も今、人生で1番キメなければならない場面に立っていたのだ。
「また後日、詳しく話がしたい」
この日から、まさか1ヶ月も会えなくなるなんて思ってもみなかった。
緊急招集で話されたのは、ドラゴンが数匹、王都の上空を飛んでいるとの事だった。
またドラゴン。
俺の邪魔ばかりするのなら絶滅させてやろうか。
「俺が今その数匹を討伐するから、しばらく休暇をくれ。隣街に用事が出来た」
セイランにもっと伝えたい事がある。
まだ、好きも、愛してるも伝えて無いのだ。
ドラゴン如きに時間をかけている場合ではない。
「だが、此処は王都だぞ。どうやっても被害が出る」
「わかった、わかった。被害が無ければいいんだろう?」
簡単な事だ。
魔法で消滅させるだけ。
上空を飛んでいるドラゴンをそのまま結界魔法で閉じ込めて、その結界を空間魔法で小さくしていく。
「ほら、終わったぞ。もういいよな、俺は行くぞ」
セイランはまだ宿屋に居るだろうか。
急がなければ今日中には隣街に帰ってしまう。
「アレが味方で助かった」
「敵に回しちゃいかんな。アレは規格外だ」
走り出した俺の後ろで他の将軍共が顔を青くしていたらしい。
セイランは昨日、宿屋に泊まっていなかった。
俺がプロポーズしたから、慌てて家に逃げ帰ったのだろうか。
だが俺も諦める気は無い。
追いかける様に隣街まで急いだ俺は此処で絶望を味わう事になる。
セイランが家に居なかったのだ。
大きな荷物を持って出て行ったという。
行き先は誰も知らなかった。
1週間、ひたすらに待った。
だが、セイランは帰って来なかった。
もぎ取った休暇は1週間、もう王都へ戻らなければいけない。
更に1週間経ち、いつもならセイランが納品に来る日。
やはり、セイランは来なかった。
俺がプロポーズしたからだ。
こんな強面の男じゃセイランには似合わないのはわかっていた。
セイランなら王子様の様な男が似合うだろう。
あんなに全部が可愛いのだ。
もう王都には来ないのだろうか。
セイランに2度と会えないと思うだけで、俺の世界は簡単に色を失った。
それからは毎日、魔物を倒した。
セイランが安心して暮らせる様に。
俺に出来る事はそれしか無かった。
「将軍、このままでは魔物より先に私が死ぬと思います。将軍がこの世の全ての魔物を殲滅するのは勝手ですが、これ以上、私を巻き込まないで頂きたい」
セイランに会えなくなって1ヶ月がたっていた。
その間も部下や役人がセイランを探してくれていたが、手がかりすら見つからない。
そんな中、魔物を討伐中の俺に部下がわざわざ手紙を届けに来た。
演習場に隣接した公園の入り口で見知らぬ男に頼まれたという。
差出人は書かれていなかった。
だが、宛名に書かれた俺の名を見てすぐに誰からかわかる。
セイランからだった。
慌てて読むと、両親に会いに行っていたら遅くなってしまった。
自分はいつでもいいから話がしたいと書かれていた。
どういう事だ。
俺のプロポーズはまだ失敗していないのか?
両親に会いにとは、まさか結婚の報告か?
それなら何故、俺を一緒に連れて行ってくれなかったのだ。
わからない事が多すぎるが、セイランが今、王都に居る事は確かだ。
会いたい。
俺は急いで王都へ戻った。
いつもの宿屋にセイランは居た。
ただ、何故かプレートアーマーを着込んでいる。
俺を見つけると駆け寄ろうとしたが、慣れない鎧の所為で転んでしまった様だ。
「何をやっているんだ!怪我はないな?この1ヶ月、どうしてたんだ?避けられてるのかと思ったが、納品にも来ていなかっただろう?」
慌てて抱き起こし、ヘルムを取る。
「心配したが、無事でよかった。セイラン。……ところでこの格好はなんだ?」
この後、宿屋の主人と部下達が何故か叫んでいた。
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