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ハンバーガーと珈琲(前編)
しおりを挟む私は、この世界で最も恐ろしい場所にいる。死刑囚として、私は最後の晩餐を迎えるために、冷たい独房に閉じ込められている。
私の罪は、この国の法律によれば、死刑に値するものだ。しかし、私は自分の罪を認めることはできない。
そして、今夜、私はその理由を看守に語るのだ。
たった一人でも、私のことを覚えていて貰えるように。
看守は、私を見下ろし、哀れみの目を向けている。彼は私を助けることはできない。この国では、死刑囚を救うことは許されないのだ。そして、そもそも、私はそれを望んでいない。
私はただ、最後の晩餐を迎えることができればそれでいい。
「私は、死刑に値する罪を犯したらしい。しかし、私は自分の行いを後悔していない。どうせ、この国の外で生きる事など出来ないのだ。ならば、自分の望む物の為に命を懸けても惜しくはない」
私は、芝居がかった口調で看守に向かってそう語りかける。彼は、私の言葉に驚き、そして興味を持って聞いているようだ。私は、自分の生い立ち、この国の現実、そして私がなぜ罪を犯したのかをベラベラと語った。
「私は、この国で生を受けた。私の両親は、この国の法律に従順な一等市民だったそうだ。しかし、私は彼らとは違う。私は、この国の法律が不公平であることを聞いた。この国では、ゴミのポイ捨てなどという軽微な罪で、人々が処刑されている。私は、そんな社会に反発し、抗うために抗議活動という罪を犯したという。……心底馬鹿げている」
私の言葉に、看守は驚き、そして同情の目を向けてくる。彼も、この国の現実に苦しんでいるのだろう。
私は、死刑囚に与えられる唯一の特権、最後の晩餐として、ハンバーガーと珈琲を選んだ。
それは、この世界で最も身近でありながら、最も贅沢なものだった。看守がそれを持ってきたとき、私は微笑んだ。そして、ハンバーガーにかぶりつき、熱い珈琲を飲んだ。
「ああ、美味かった」と、万感の思いを込めて私は言った。それが最後の言葉だった。そして、私は処刑されていった。
しかし、最後の瞬間まで、私は自分の選択に満足していた。
*
そして元死刑囚になった彼女の首元には、黒子《ほくろ》はなかった。
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