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第七話 テーラル目線 ~こんなことありえない~

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 ありえない。
 わからない。

 なぜソフィアはオレの命令を拒否したのか。
 なぜ、ノルデン王国に戻ることを拒否するのか。
 そして、なぜオレが『婚約破棄をなしにしてやってもいい』といったら、嫌そうな顔をして断ったのか。

 ソフィアは変わってるやつだ。
 もしかしたら、あの宿が気に入ってしまったのかもしれない。
 だってあんな安そうな宿に結界をはっていたのだぞ。

 そう考えると……、あの宿がなくなれば、ソフィアは戻ってくるのではないか?
 ああ、きっとそうに違いない。

「決まりだ!」
「何が決まったんですか? 失敗したというのに」

 呆れた顔でオレを見てきたヤツをにらみつけながらオレは答えた。

「ソフィアはあの宿が好きで離れることができないのだ。だからあの宿を消してしまえばいい」
「それは犯罪になりませんか?」
「王子とただの宿。偉いのは王子だ。それに賠償金なら払えるしな」

 オレがそういうと、ため息をつけれた。
 こいつ、不敬罪にしてやろうか。

「そう思うなら王子、やってみてください。私は賛成しませんが」
「ああ、完全に暗くなったら実行しよう。お前らは待っていてくれ」
「わかりました」

 オレは作戦を立て始めた。
 まず、完全に暗くなったら炎を召喚しよう。
 そしてそれを宿にぶつける。
 あとは逃げるだけだ。

 ああ、あの女が泣きながら『やっぱり帰ります』というのが楽しみだ。

 夕焼けが消え、空一面の星空になる。
 作戦決行だ。

 炎よ召喚されろ、そしてあの宿を燃やせ。
 心の中でそう念じる。
 手のひらが熱くなってきた。

 手のひらを建物の方に向ける。
 そのとたん、宿が炎で包まれた。

「よしっ、作戦成功だな」

 あとは逃げてきたソフィアを捕まえるだけだ。

 しばらく待っていると、ソフィアが出てきた。
 なぜか服が一切焦げていない。
 ソフィアはオレの前にきた。

「あなたはバカですか!!」

 バシンッ。
 勢いよく左頬を叩かれた。

「なぜだ! なぜ殴った!」
「当たり前でしょう! こんなの殺人ですよ! 私が結界をこの宿を覆うようにはっていなかったら今頃大勢の人が火傷を負っていたんです!」

 こんな宿、物好きしかいないだろう。
 それか金のない、生きてる価値のない人間しか……。

「なっ、こんな安っぽい宿にそんなに人がいるわけないだろう」
「本日満室です!」

 は?
 こんな宿が満室?

 ……こんなに怒っているソフィアは珍しいな。
 ここは一応謝った方がいいな。
 そうすれば、反省がしっかりできる良い奴と認識されて、ソフィアもついてきてくれるはずだ。

「ソフィア、すまなかった」
「謝っても無駄です。そろそろ私の知り合いが来て国に返してくれます。それまで頭を下げていてください」
「なっ……。なぜだ! オレは謝ったのだぞ! それで許さないなんてお前は心が狭いな!」

 そうだ、ソフィアは変わっているんじゃない。
 性格にかなり難があるんだ。
 昔それで教育をしていたというのに忘れていた。

「そこまでです。ノルデン王国第一王子のテーラルさん」
「はあ! オレを呼ぶときは様をつけろ!」

 振り返りつつそう叫んだ。
 が、そこにいた相手をみて、急に体から力が抜けた。
 思わずその場に座り込んでしまう。

「王妃様が来て下さるとは思っていませんでした。来てくださってありがとうございます」
「バカ王子を一目見てみたかったの。さぁ皆さん。テーラルさんを国まで送ってあげてください」
「かしこまりました」

 なぜこの国の王妃とソフィアが知り合いなのだ。

 考えていると急に体が浮いた。

「なっ、やめろ! やめろ!」

 叫んでも、命令しても誰も反応してくれない。
 そのままオレは馬車の中に無理やり押し込められた。

「頼む! 出してくれ! オレは自分の馬車で帰る!」
「王妃様からの伝言です。『あなたが乗ってきた馬車はもう国に返したわ』だそうです」
「なっ、なぜだ」
「王妃様に頼まれたからじゃないですか? 知りませんけど」

 なんだこいつ。
 口の利き方がまるでなっていない。
 この国は使用人の教育すらできないのか?

 そっからはオレがいくら話しても全て無視された。

 そして、ノルデン王国に着いたのは日が変わってからだった。

 王宮の前に馬車が止まる。
 馬車から降りるとお出迎えがいた。

 やはりうちの使用人はわかっている。
 オレはその使用人たちと一緒に王宮の中に入った。

「テーラル様、国王様がお呼びです」
「ああ、わかった」

 ああ、連れて帰ることができなかったから、お父さまは怒っているだろうな。
 まあ、全てはソフィアが悪いと説明しよう。
 そう決めた。




・*・*・*・*・*・*・

次回、ざまぁ回です。
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