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305 闘争からの逃走④
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姫たち一行が安全な場所へと移動したその頃……避難場所の外周は、異常な事態となっていた。
本来であれば、殺到した避難民が避難場所へ雪崩れ込まない様に造られた石壁は、鋭利な刃物で切り裂かれたかのように無残に大口を開け、悲鳴と号叫が響き渡り、風に乗って鉄錆の匂いが漂っていた。
中央の大通りを進む様に点々と広がるのは、無残に切り裂かれた死体と血だまり。その痕跡を辿れば、この事態を引き起こした元凶へと辿り着く。
「▲▲▲▲!」
理解不能な言語で捲し立てているのは、黒髪黒目の人の形をした何か。見た目十代中ごろの青年と呼べる外見のそれは、見栄えの良い鎧に身を包み、立ちはだかる草人の衛兵たちに剣を突き付けている。
外見だけであれば、どこに存在しても不思議ではない。だが人では無く、人の外見をした何かと評する理由があった。
「▲▲、▲▲▲▲!」
「言葉の意味が解らねぇ、気持ちわりぃ」
「意思疎通は諦めろ。最早、人とも生き物とも思えん」
会話が成立せず、意思疎通ができない。それだけで、この世界の住人からすれば、異常の一言に尽きる。
言語が違ったとしても、言葉を発すればそこに魔力が籠り、意思や感情と言った形で受け取り、理解することができる。それこそ、動物や魔物が発する鳴き声ですら、そこに意思が籠っていたならば、程度はあるが意思疎通が可能だ。発した意思を相手に理解できる形で伝える<通訳>や、相手の意思を正確に捉える<翻訳>等のスキルを持っているのであれば、尚の事だ。
その為、全く意志を感じず、理解できない言葉を発する目の前の何かは、他のどんなモノよりも疎ましく悍ましく、不快で不気味で汚らわしい、人の形をした異物……目の前の何かは、まさにそれだった。
対峙する衛兵たちは、目の前の何かが行った蛮行も合わさり、早々に意思疎通を放棄。避難所の奥へと避難する者達、その中でも獣人との射線上に陣取る形で立ちはだかる。
その何かは、草人の一般市民には目もくれないにも関わらず、獣人は積極的に殺しにかかる。そこには女子供も関係なく、近くに居る者は皆殺しと言わんばかりに、無差別に、無残に、容赦もない。
斬殺されるか、骨肉が飛び散る威力で撲殺する。その獣人達の死体が、血溜まりが、道標の如く大通りを染め上げたのだ。
「この殺人鬼が。これだけ斬殺しておきながらケロッとしてやがる」
「獣人の皆は前に出るな、俺達が壁になる。その方が時間稼ぎになりそうだ」
突然の襲撃の為、対峙している衛兵も巡回を主に担う、戦闘よりも周囲への警戒、察知能力が高い者達。とてもではないが、彼等が抑えられる相手では無かった。だがしかし、そんな彼等が未だに生きているのは、目の前の何かが、草人を攻撃したがらない為だ。
彼等にもその理由は分からないが、草人である彼等を殴り殺しても切り殺したがらない。立ちはだかる衛兵は拳で腹部を殴られ内臓を潰されるか、うなじを殴られ脊椎をへし折られるかして、致命傷を負わされてはいるが、辛うじて生きている者も数名いる。見た目だけであれば、気絶しているだけのようにも見える。
まるで、手加減しているかのように見えなくもないが、致命傷に変わりはない為、どのみち結果は変わらない。だが、なで斬りにされるよりも確実に時間は稼げる。
相手が止まるのであればと、渋る獣人達を下げさせ草人が前に立ち、無理に挑むことを止め足止めに徹することで、怪我人の救助と、援軍の到着までの時間を稼ぐ事を選択したのだ。
そして、その選択はすぐに実を結ぶ。
「▲▲▲▲! ……▲▲▲▲!?」
裏路地から重装備の一団が現れ、人の形をした何かを取り囲む。現れたのは、大盾を持った重装歩兵を筆頭に、軽装の魔兵や弓兵に槍兵など、元アルベリオンの正規兵、その中でもエミリー直下の隊であった二番隊、詰りはエリート集団である。
取り囲む重装歩兵の一団に驚き、困惑気に視線を彷徨させる何か。その間に包囲は完了し、即座に魔兵による<結界>魔術が展開。上空も抑え完全に閉じ込める。また、既に現場に到着し物陰で息を潜めて成り行きを見守っていた獣人兵は、何かを取り囲むのを確認次第、被害者の救助へと飛び出した。
「待たせた、状況は?」
「見ての通り、あのキチガイが襲撃してきた。会話、意思疎通不能。倒れている獣人は全員死亡。草人も死亡もしくは致命傷。無理に動かすと止めになりかねない。理由は不明だが、獣人は積極的に殺しに来るが、草人は何故か攻撃を躊躇う。攻撃は長剣による大振り且つ直線的なものだが、逸らす事も受ける事もできない。一切の抵抗なく鎧ごと切り裂かれた」
「了解、防御不可か。俺達が前に出る。悪いが獣人の皆は後方支援を頼む」
「……分かった、後方支援よりも、正面からやる方が得意なんだがな」
「そりゃお互い様だ。優秀な前衛のお陰で楽ができると思っていたのによ」
対峙していた衛兵から手短かに情報を得ると、相手に合わせ即座に布陣を変更。本来は草人が後衛、獣人が前衛で対処する陣形を採用していたが、前後を入れ替え草人が前に出る。
「▲▲! ▲▲▲▲! ▲▲▲▲▲▲▲▲、▲▲▲▲!」
後方へ下がる獣人へ向け、目の前の何かが喚き散らしているが、意思疎通が成立しない為無視。包囲する重装歩兵の間を抜け、数人の槍持ちが何者かを挟む様に対峙し、返答とばかりに槍を構える。
「奴の剣は確かに危険だが、その攻撃範囲は刀身のみだ。重装歩兵は近づかず、奴を囲え! 重装、<城壁>用意。強度は二の次、維持と距離、とにかく厚く張れ!」
「押し込め! 圧を掛けろ! 弓兵は目足を狙って動きを止めろ、魔兵は撃ちまくって押し留めろ!」
「行動開始!」
「「「オォ!!!」」」
号令と共に、重装歩兵が一斉に大盾を地面に突き立て、結界の上から分厚い魔力の壁を展開する。何者かが持つ長剣よりも厚く展開された壁は、絶対に逃がさないという、彼等の意思を如実に表す。
しかし、そんな彼等の意気に気が付いているのかいないのか……人の形をした何かは、目の前で槍を構えるモノを無視し、展開された壁に向かって突撃する。
視界が捕らえられるギリギリの速度で移動すると、障壁へ剣を突き立てる。展開された<結界>と<城壁>を容易に貫くが、鍔が引っ掛かりその奥の術者までは届かない。代わりに結界に放射線状に亀裂が走るも、その衝撃は、分厚い障壁の前に、全て抑え込まれる。
「本当に攻撃してこないんだ、な!」
無視された槍兵が、背後から無防備な後頭部へ目掛け、槍の穂先をねじ込んだ。
「おいくっそ、硬すぎるだろ」
全力の一撃を後頭部に受けた何かは多々良を踏むが、それだけ。然したるダメージも無く、槍兵を無視して尚も<城壁>へ向かう。
だがその選択は、余りにも彼等を舐め過ぎた行動だった。全く影響がないのならともかく、打てば怯む。それさえ分かれば、彼等はやってのける。
結界を切り崩す心積もりか、今度は突くのではなく剣を振り上げる何か。その瞬間を狙い澄ましたかの様に、<城壁>の奥、重装歩兵の合間を縫って矢が放たれる。
寸分狂わずその矢は眉間に突き刺さり、炸裂音と共に何かの顔面を跳ね上げる。更に後ろから膝裏を槍で突かれ両膝を着かされると、追撃とばかりに爆発の魔法をどてっぱらに叩き込まれ、囲いの中心程まで吹き飛ばす。
「▲、▲▲!?」
「甘い!」
そこからは、四方八方からの飽和攻撃だ。八方から矢による牽制。四方から魔法による制圧。前後から槍による滅多刺し。目を狙い、口内を狙い、関節を狙い、視界を潰し、聴覚を潰し、体勢を崩す。考えさせない事、歩かせない事、立たせない事、そして何よりも剣を振るわせない事に全力を尽す。
……その過程で、人の形をした何かの異常性が浮き彫りになる。
「おいおい、瞼に当たってるのに、刺さらねぇのかよ。こちとら<貫通>が付与された高級品使ってんだぞ?」
「鎧だってもう砕けているのに、傷どころか火傷の跡すら見られない」
「こりゃ、俺達で討伐は無理だぞ」
「関節と急所を狙って、動きを止めるのが限界か。相手の基礎能力が異常に高い、動きは稚拙だが油断するな!」
言うなれば、そう、強いのに弱いのだ。恐ろしいが怖くはない。危険だが対処できる。
余りに歪な存在に一抹の不安を覚えながらも、彼等は己が役目を全うし続ける。
思うように動けない何かは、もがき剣を振り回すが、当然の如く空を切り、たまたま当たりそうであれば、横から叩かれ逸らされる。しっかり握っているからか剣を取りこぼす様な真似は流石にしないが、最終的には身を丸め、地面に蹲る始末だ。
時間にして数分。このままいけば彼等の目的である時間稼ぎは、余裕を持って達成できる……そう思った矢先であった。
「▲―――!」
突如奇声を上げ、人の形をした何かから暴力的なまでの魔力が噴き出す。矢を弾き、魔法を掻き消し、人を押しのける。
「▲▲▲―――!」
怒号と共に何かが長剣を力任せに振り抜くと、光の線が駆け抜ける。
それは、魔力によって作られた刀身。前に居た槍兵、さらに周囲を取り囲む重装歩兵の胴体を盾ごと薙ぎ払い……上半身と下半身を切断され、地面へと崩れ伏した。
「▲▲▲▲▲、▲▲、▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲」
肩で息をしながら、譫言の様に言葉を発する何か。疲弊しているのは見るからに明らかだが、今の一撃で半数以上が戦闘不能に追い込まれ壊滅状態。到底、この何かを抑えることができる状態では無かった。
このままでは、この何かは自由に動き、この街を蹂躙するだろう……そう、横槍さえ入らなければ。
「!?」
上空から白い布の束が降り注ぎ、負傷者を全て掻っ攫う。それと同時に白い影が、突然の出来事に驚愕する何かに向かって飛び込んだ。
本来であれば、殺到した避難民が避難場所へ雪崩れ込まない様に造られた石壁は、鋭利な刃物で切り裂かれたかのように無残に大口を開け、悲鳴と号叫が響き渡り、風に乗って鉄錆の匂いが漂っていた。
中央の大通りを進む様に点々と広がるのは、無残に切り裂かれた死体と血だまり。その痕跡を辿れば、この事態を引き起こした元凶へと辿り着く。
「▲▲▲▲!」
理解不能な言語で捲し立てているのは、黒髪黒目の人の形をした何か。見た目十代中ごろの青年と呼べる外見のそれは、見栄えの良い鎧に身を包み、立ちはだかる草人の衛兵たちに剣を突き付けている。
外見だけであれば、どこに存在しても不思議ではない。だが人では無く、人の外見をした何かと評する理由があった。
「▲▲、▲▲▲▲!」
「言葉の意味が解らねぇ、気持ちわりぃ」
「意思疎通は諦めろ。最早、人とも生き物とも思えん」
会話が成立せず、意思疎通ができない。それだけで、この世界の住人からすれば、異常の一言に尽きる。
言語が違ったとしても、言葉を発すればそこに魔力が籠り、意思や感情と言った形で受け取り、理解することができる。それこそ、動物や魔物が発する鳴き声ですら、そこに意思が籠っていたならば、程度はあるが意思疎通が可能だ。発した意思を相手に理解できる形で伝える<通訳>や、相手の意思を正確に捉える<翻訳>等のスキルを持っているのであれば、尚の事だ。
その為、全く意志を感じず、理解できない言葉を発する目の前の何かは、他のどんなモノよりも疎ましく悍ましく、不快で不気味で汚らわしい、人の形をした異物……目の前の何かは、まさにそれだった。
対峙する衛兵たちは、目の前の何かが行った蛮行も合わさり、早々に意思疎通を放棄。避難所の奥へと避難する者達、その中でも獣人との射線上に陣取る形で立ちはだかる。
その何かは、草人の一般市民には目もくれないにも関わらず、獣人は積極的に殺しにかかる。そこには女子供も関係なく、近くに居る者は皆殺しと言わんばかりに、無差別に、無残に、容赦もない。
斬殺されるか、骨肉が飛び散る威力で撲殺する。その獣人達の死体が、血溜まりが、道標の如く大通りを染め上げたのだ。
「この殺人鬼が。これだけ斬殺しておきながらケロッとしてやがる」
「獣人の皆は前に出るな、俺達が壁になる。その方が時間稼ぎになりそうだ」
突然の襲撃の為、対峙している衛兵も巡回を主に担う、戦闘よりも周囲への警戒、察知能力が高い者達。とてもではないが、彼等が抑えられる相手では無かった。だがしかし、そんな彼等が未だに生きているのは、目の前の何かが、草人を攻撃したがらない為だ。
彼等にもその理由は分からないが、草人である彼等を殴り殺しても切り殺したがらない。立ちはだかる衛兵は拳で腹部を殴られ内臓を潰されるか、うなじを殴られ脊椎をへし折られるかして、致命傷を負わされてはいるが、辛うじて生きている者も数名いる。見た目だけであれば、気絶しているだけのようにも見える。
まるで、手加減しているかのように見えなくもないが、致命傷に変わりはない為、どのみち結果は変わらない。だが、なで斬りにされるよりも確実に時間は稼げる。
相手が止まるのであればと、渋る獣人達を下げさせ草人が前に立ち、無理に挑むことを止め足止めに徹することで、怪我人の救助と、援軍の到着までの時間を稼ぐ事を選択したのだ。
そして、その選択はすぐに実を結ぶ。
「▲▲▲▲! ……▲▲▲▲!?」
裏路地から重装備の一団が現れ、人の形をした何かを取り囲む。現れたのは、大盾を持った重装歩兵を筆頭に、軽装の魔兵や弓兵に槍兵など、元アルベリオンの正規兵、その中でもエミリー直下の隊であった二番隊、詰りはエリート集団である。
取り囲む重装歩兵の一団に驚き、困惑気に視線を彷徨させる何か。その間に包囲は完了し、即座に魔兵による<結界>魔術が展開。上空も抑え完全に閉じ込める。また、既に現場に到着し物陰で息を潜めて成り行きを見守っていた獣人兵は、何かを取り囲むのを確認次第、被害者の救助へと飛び出した。
「待たせた、状況は?」
「見ての通り、あのキチガイが襲撃してきた。会話、意思疎通不能。倒れている獣人は全員死亡。草人も死亡もしくは致命傷。無理に動かすと止めになりかねない。理由は不明だが、獣人は積極的に殺しに来るが、草人は何故か攻撃を躊躇う。攻撃は長剣による大振り且つ直線的なものだが、逸らす事も受ける事もできない。一切の抵抗なく鎧ごと切り裂かれた」
「了解、防御不可か。俺達が前に出る。悪いが獣人の皆は後方支援を頼む」
「……分かった、後方支援よりも、正面からやる方が得意なんだがな」
「そりゃお互い様だ。優秀な前衛のお陰で楽ができると思っていたのによ」
対峙していた衛兵から手短かに情報を得ると、相手に合わせ即座に布陣を変更。本来は草人が後衛、獣人が前衛で対処する陣形を採用していたが、前後を入れ替え草人が前に出る。
「▲▲! ▲▲▲▲! ▲▲▲▲▲▲▲▲、▲▲▲▲!」
後方へ下がる獣人へ向け、目の前の何かが喚き散らしているが、意思疎通が成立しない為無視。包囲する重装歩兵の間を抜け、数人の槍持ちが何者かを挟む様に対峙し、返答とばかりに槍を構える。
「奴の剣は確かに危険だが、その攻撃範囲は刀身のみだ。重装歩兵は近づかず、奴を囲え! 重装、<城壁>用意。強度は二の次、維持と距離、とにかく厚く張れ!」
「押し込め! 圧を掛けろ! 弓兵は目足を狙って動きを止めろ、魔兵は撃ちまくって押し留めろ!」
「行動開始!」
「「「オォ!!!」」」
号令と共に、重装歩兵が一斉に大盾を地面に突き立て、結界の上から分厚い魔力の壁を展開する。何者かが持つ長剣よりも厚く展開された壁は、絶対に逃がさないという、彼等の意思を如実に表す。
しかし、そんな彼等の意気に気が付いているのかいないのか……人の形をした何かは、目の前で槍を構えるモノを無視し、展開された壁に向かって突撃する。
視界が捕らえられるギリギリの速度で移動すると、障壁へ剣を突き立てる。展開された<結界>と<城壁>を容易に貫くが、鍔が引っ掛かりその奥の術者までは届かない。代わりに結界に放射線状に亀裂が走るも、その衝撃は、分厚い障壁の前に、全て抑え込まれる。
「本当に攻撃してこないんだ、な!」
無視された槍兵が、背後から無防備な後頭部へ目掛け、槍の穂先をねじ込んだ。
「おいくっそ、硬すぎるだろ」
全力の一撃を後頭部に受けた何かは多々良を踏むが、それだけ。然したるダメージも無く、槍兵を無視して尚も<城壁>へ向かう。
だがその選択は、余りにも彼等を舐め過ぎた行動だった。全く影響がないのならともかく、打てば怯む。それさえ分かれば、彼等はやってのける。
結界を切り崩す心積もりか、今度は突くのではなく剣を振り上げる何か。その瞬間を狙い澄ましたかの様に、<城壁>の奥、重装歩兵の合間を縫って矢が放たれる。
寸分狂わずその矢は眉間に突き刺さり、炸裂音と共に何かの顔面を跳ね上げる。更に後ろから膝裏を槍で突かれ両膝を着かされると、追撃とばかりに爆発の魔法をどてっぱらに叩き込まれ、囲いの中心程まで吹き飛ばす。
「▲、▲▲!?」
「甘い!」
そこからは、四方八方からの飽和攻撃だ。八方から矢による牽制。四方から魔法による制圧。前後から槍による滅多刺し。目を狙い、口内を狙い、関節を狙い、視界を潰し、聴覚を潰し、体勢を崩す。考えさせない事、歩かせない事、立たせない事、そして何よりも剣を振るわせない事に全力を尽す。
……その過程で、人の形をした何かの異常性が浮き彫りになる。
「おいおい、瞼に当たってるのに、刺さらねぇのかよ。こちとら<貫通>が付与された高級品使ってんだぞ?」
「鎧だってもう砕けているのに、傷どころか火傷の跡すら見られない」
「こりゃ、俺達で討伐は無理だぞ」
「関節と急所を狙って、動きを止めるのが限界か。相手の基礎能力が異常に高い、動きは稚拙だが油断するな!」
言うなれば、そう、強いのに弱いのだ。恐ろしいが怖くはない。危険だが対処できる。
余りに歪な存在に一抹の不安を覚えながらも、彼等は己が役目を全うし続ける。
思うように動けない何かは、もがき剣を振り回すが、当然の如く空を切り、たまたま当たりそうであれば、横から叩かれ逸らされる。しっかり握っているからか剣を取りこぼす様な真似は流石にしないが、最終的には身を丸め、地面に蹲る始末だ。
時間にして数分。このままいけば彼等の目的である時間稼ぎは、余裕を持って達成できる……そう思った矢先であった。
「▲―――!」
突如奇声を上げ、人の形をした何かから暴力的なまでの魔力が噴き出す。矢を弾き、魔法を掻き消し、人を押しのける。
「▲▲▲―――!」
怒号と共に何かが長剣を力任せに振り抜くと、光の線が駆け抜ける。
それは、魔力によって作られた刀身。前に居た槍兵、さらに周囲を取り囲む重装歩兵の胴体を盾ごと薙ぎ払い……上半身と下半身を切断され、地面へと崩れ伏した。
「▲▲▲▲▲、▲▲、▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲」
肩で息をしながら、譫言の様に言葉を発する何か。疲弊しているのは見るからに明らかだが、今の一撃で半数以上が戦闘不能に追い込まれ壊滅状態。到底、この何かを抑えることができる状態では無かった。
このままでは、この何かは自由に動き、この街を蹂躙するだろう……そう、横槍さえ入らなければ。
「!?」
上空から白い布の束が降り注ぎ、負傷者を全て掻っ攫う。それと同時に白い影が、突然の出来事に驚愕する何かに向かって飛び込んだ。
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