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277 汚物の詰まった天使①(カッターナのトラウマ)

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 プルさん通信を受けて、カッターナの屋敷に移動。直接エッジさんの所に行きたかったのですが、何故か人だかりができていて<神出鬼没>で安全に出現できるスペースが無かったので、離れた場所から気配を消し、人混みを掻き分けて向う事に。

 ……街の雰囲気が、以前来た時と比べておかしいですね。右を見ても左を見ても、不安、恐怖、憎悪に嫌悪……これは、トラウマ、でしょうかね? 
 あぁ、面倒ごとの気配が~~~……エッジさんが居る場所が、イラ側に面した西側の防壁だってだけで、面倒そうだって言うのに……。

 防壁の回廊に続く階段を上がれば、そこには遠くを眺める人だかり。武装している人が大半ですし、イラの軍でも来ましたかね? 

「お~い、エッジさん呼びました~?」
「お、来たか旦那。ほれ、お前等どけどけ、道開けろ」
「旦那?」
「領主様?」
「領主様!?」
「ちょ、お前等下がれ下がれ! 場所空けろ!」

 道ができたので、遠慮なく移動させていただく。荒っぽいけど、統率が取れているご様子で。

「呼ばれたから来ましたけど、何があったので? それらしいモノは目に付きませんが」
「早速だけどよ、あれ見えるか?」
「ん~?」

 エッジさんが指さす方向に視線を向ける。
 眼下に広がる荒れ地から順に、河、森、森の向こうの壊れた街と視線を動かし、地平線の先に微かに見える、未だにイラの領域である街で、ようやっとそれらしいものを視界に捉える。

 まだ領域の外なのではっきりしたことは分かりませんが、イラ国側から大きな影が3つ、 こちらに向けて移動してしる。
 望遠の魔道具を出して目視で確認。う~ん、足元? の建物と比較すると、だいたい20m位ありますかね?

「この距離からでも見えるとか、相当なデカさだろ? それだけでも厄介そうでよぉ……しかも、イラ領に潜入している密偵からの知らせによると、特徴が例の奴と完全に一致してるんだよなぁ」
「例の奴?」

 ウンザリと言った様相のエッジさんの説明に、思わず首をかしげる。

 ふむ、例の奴……つまりは正体を明確に口にしたくない、且つ特徴がハッキリしている存在。そして、街に蔓延るトラウマ……。

「……イラの天使?」

 以前のカッターナの戦力を滅ぼした、イラ教の天使。戦力としては期待できないケルド共に、当時の住民が負けることとなった最大の原因であり、当時を知る者にとってのトラウマの象徴。そりゃ、そんなモノが登場したら、街の気分も沈みますわ。

「あれが、以前のカッターナの衰退を招いた天使、ねぇ……汚物の塊にしか見えん。うっぷ」
「旦那にはそう見えんだな。俺等からすれば、白い陶器でできた、巨大な女性の像に見えるんだがな」

 うわ~、この感じ、すっごい覚えが有ります。あれだ、ケルドの肉詰めに突っ込んだ時と同じ感じだ。

「ま、てぇな訳で、お陰で昨日からピリピリしっぱなしだぜ。このままの速度で進むなら、明日にはここに到着する予定だ。奇襲をかけるか、引き込んでから戦かうか、早く対策を立てねぇとって訳で、旦那の方で何か動くのか?」
「俺ですか? う~ん、今は忙しいですし、特にこれから何かする心算は無いですね。お任せしますよ」
「……そっか。そうだな。いや、ちょっと安心した」

 おん? 何か安心する要素ってありましたっけ?

「これまで、旦那に頼りっぱなしだろ? このまま何もできなくていいのかって不安が、チラホラと上がっててよ、信頼される位にはなったのかなってな」

 あ~え~う~ん。ソウデスネ。信頼シテマスヨ。ウン。

「よ~し、分かった。対処済みなんだな、ド畜生が!」
「うん、すまんの。ダメだった時の避難誘導位は、お願いしましょうか」
「へ~へ~。悲しんでいいのか、安心していいのか……街の住民にとっては、安心できて良いか。こっちはこっちで、できうる限りの準備はするけどな」
「では明日また来ますね。今、ガチで忙しいんですよ」
「え˝?」

 今すぐ危険と言う訳では無さそうなので、<神出鬼没>で大急ぎで迷宮に帰還する。エッジさんには悪いですが、本格的に忙しいんですよ。領域に入るまでは放置です放置。

「ふ~~~……」

 椅子に座って一呼吸……さて、フサフサさんの一件で溜まってしまった、報告の確認と行きましょうかねぇ。

 先ずは、なになに……獣王さんが帰って来る? ほいほい、面会の日程を調整しておいてください。
 アルベリオンの戦士? あぁ、ウォーさん達の真っ当な方ですね。検診が終わりましたか、後で確認しますので診断書纏めておいて下さい。
 アルベリオンが撒き散らした毒の解析と浄化作業の途中報告? 緊急性はなし? ハイハイ、これも後で確認しますね。
 え? ジャックさんが動き出した!? マジか、行動早えぇな。迷宮所属の者は不用意に近づかない様に、監視は迷宮の機能で行います。多少の不具合は許容しますので、安全第一でお願いします。
 お、重症の獣人さん方の処置が終わりましたか。何々? おぉ、全員一命は取り留めましたか、それは上々。後は完治に向けて養生と検査ですね……って!?

 フサフサさ~ん、そっち行っちゃだめ~!! コアさん、隔壁落として! 最優先で大至急!! 止めて止めて止めて~!!

 この糞忙しい時に行動を起すとは……おのれイラめ、許すまじ。


―――


 翌日、フサフサさんの発作が何とか収まった事でゆとりができたので、カッターナの方にお邪魔する。

「はぁ……疲れた。のっんびりしてぇ」

 防壁に設けられた椅子に腰を下ろし、姿勢制御などの必要最低限を残して、人形の制御の殆どを手放す。<平行思考>で意識の殆どを他の事に当てているので、真面に人形も動かせませんが、視界意識の端で流し見する程度なら、これでも十分でしょう。

「メルル、お疲れ様ですマイロード」
「いつもありがとうございます、ゴトーさん」

 ゴトーさんに入れて貰ったお茶を飲み、一息入れる。ふへ~、糞みたいな世界の中での、貴重な癒の時間だぜぇ。

 あぁ、そうそう、ゴトーさんにお願いがあったんだった。

「ゴトーさん、この一件が終わったら、色々な所で色々な動きが起きると思いますから、一旦ゴトーさんも帰ってきてください。近々お客さんがいらっしゃる事になると思うので、案内をお願いしたいんです」
「メルル、承知いたしました。事情は伺っておりますので、ご安心ください」

 お茶のお代わりを入れつつ、了承してくれるゴトーさん。流石、安心感が違います。お茶も旨い。 

 それにしても、イラ共にしては動きが速かったですね。今までの傾向から言って、こんなにすぐ行動に移せるとは思っていませんでした。
 挑発が効いたのでしょうかね? いや、使者がこちらに来る前から向っていたと考えた方が、しっくりきますね。

 イラ教の名のもとに~とか、救済の為に~とか、適当且つ身勝手な理由をつけて、侵攻でもしようとしていたのが、戦争の為に~に置き換わったってところでしょうか。元々、宣言なしに侵略行為に走る連中。侵略する理由の是非なんて、気にするような連中でも無いでしょうし……世間体とか大義名分とか、お気になさらないのでしょうかねぇ?

「旦那~、旦那! ってうぉい!? すっげぇくつろいでるな!?」
「お疲れ様で~す、エッジさん」
「…………旦那が疲れてる所なんて、初めて見たかも知んねぇな」

 そうですか~? ……そうかもしれないですね~。
 異世界こっちに来てからは体の構造も変わって、疲労とは疎遠でしたからねぇ。今までは何だかんだ適度に休憩は挟んでいたのも有りますが、疲れてもすぐ回復していましたし……そう考えると、エッジさん程ではないですけど、ちょっと疲れているのかもしれません。

「そちらの準備は終わっていますか?」
「おう、旦那が設置した魔道具は、遠慮なく使わせてもらってるぞ。それと、なんだっけか、防壁の裏からでも外の様子を観察できるようにって設置された、撮影の魔道具だっけか? 本当に起動させちまっていいのか?」
「そうそう、これを使えば、住民の皆さんも外の様子を見られて安心できるでしょうし、相手の行動も記録できますし、エスタール帝国から様子を見にやって来ている間者さんの、良い手土産になるでしょう」
「うっわぁ……旦那の手にかかれば、他国の間者も情報を伝える使者に早変わりかよ。俺、本当に旦那の陣営に入れて良かったわ。旦那の敵になるとか、考えただけでぞっとするぜ」

 さて、エッジさんの準備は終わっていると言う事なので、視線をエッジさんから外しイラ共の方へと向ける。
 昨日の段階では領域外だった事もあり、その存在に気付きませんでしたが、地上には法衣を纏った数人を中心に、武装した集団が列を成して行軍している。

 う~~~ん。戦闘素人の俺では判然としませんが……人型の方、弱くね? この前来た、ちょっと強いケルドと同じ位でしょうか。あの引きニートの性格を考えれば、感情に任せて戦力の温存とか考えないと思っていたのですが、あれクラスが、あちらさんの主戦力って事になるのでしょうかね?

 彼を知り己を知れば百戦殆うからず……本当に、相手の事を見られて良かった。お陰で必要以上に怯える必要も、勘繰る必要も無くなりましたからね。今後は例外を除いて、あのレベルの敵を想定することといたしましょうか。

「因みに、エッジさんから見て、あいつ等の実力の程は?」
「人型の方は、俺達だけでも十分対処できるレベルだと思うぜ? ダンナの魔器もあるしな。問題は天使像のほうだよなぁ」
「あれねぇ……能力が不明なのがねぇ」

 人型の方はエッジさんのお墨付きを貰いましたが、やはり像の方が問題になりますね。

 天使像と直接対峙した者が殆ど残っていなかった事もあり、像の能力が完全に判明して無いことが少々の不安材料ではありますが、それさえ確定させてしまえば、イラへの対策はそれ程力を入れなくてもよくなりそうです。

「てか、移動遅いな~、早く終わらせたいのに」
「いや、十分速いからな? 旦那達が速過ぎるだけだからな? そろそろ自覚持とうぜ?」
「……カッターナへ最初の無勧告侵攻を行った時に使わなかったのは、この移動速度の遅さからか、当時はそもそも無かったからなのか……もしくは、領域が無かったからとか? だとすると、カッターナに領域を確保出来たから使ったとか? ……となると、維持や稼働時間、山を越えられないとかの移動に制限が有るのでしょうか? そうであればちょっと対策するだけで、完封できそうですね……エッジさんはどう思います?」
「旦那、分かっててやってるだろ」
「はっはっは」

 流石に異世界ここも長くなってきましたからね~。一般常識も一般感覚も少しくらい身に付きますよね……自重する気はさらさらないですが。
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