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270 アルベリオン①(寒村)
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時間は少し遡り、ダンマスがまだ永い眠りについていた頃……魔物車に物資を積んだ旅商人が、アルベリオン国内の寂れた村々を巡っていた。
「あ! おっちゃんだ!」
「こんにちわーっす!」
食料や物資を売り、時には仕入れと称し不要なモノを買い取る。特産品も無ければ土地が豊かな訳でもない、いつ終わるか分からない寒村からすれば、彼等の存在はどれ程有り難いことだろう
そして、そんな事が何度も行われれば、顔見知りにもなる。娯楽の少ないこの世界、商人が持ちこむ品は、生活を豊かにするものであると同時に娯楽でもあるのだ。
「おっちゃ~ん! おっちゃんが来たぞーーー!」
商人が何度目かになる村を訪れれば、外で遊んでいた子供たちが手を振り迎え入れ、その声に反応した大人たちも各々の仕事の手を止め集まりだす。迷いなく迎え入れるその様子は、商人の訪問を明らかに歓迎したもの……短期間で信頼を勝ち取り懐に入り込むその手腕は、正に一級品。一流のプロの仕事である。
「おや、また来たのかい? アンタも物好きだねぇ」
「村長、お邪魔してるっす! この前言ってた腰痛に効く薬、仕入れてあるっすよ!」
いつもと同じように手持ちの品を広げ、今日の商いを開始する商人の元に、一人の老婆が声を掛ける。この寂れた村の村長である。
「悪いねぇ、旅費だって馬鹿にならないだろうに」
「こっちも商売っす! ちゃんと儲けは出しているっすから、心配無用っす!」
「ふふ、そうかい、商売上手なんだねぇ……私が子供の頃は、ここも元気な森があって、色々と採れたんだけどねぇ……若い者もどんどん都会に出て、土地も枯れて……こんな何もない所に来ても、仕方が無いだろうに」
品を見ている村人の姿を見れば、居るのは初老か、幼子ばかり。働き盛りの年代が殆ど居らず、遠くに目を向ければ、有るのは荒野と岩山……今は無い森を思ってか、村長の声には寂しさが滲んでいる。
「そうっすね……それなら、ちょっと耳寄りなお願い事があるっす」
「耳寄りな……お願い?」
普段であれば、村人が商品を見ている間、こんな世間話だけで終わるのだが、今日は様子が違った。
商人が思わせぶりな態度で、村長に提案を持ちかける。その可笑しな言い回しに小首を傾げる村長であるが、詳しく話を聞くことで更にかしげる事となる。
「土地を買いたい? こんな何もない場所をかい?」
「私の上司がね、ここにも販路を伸ばしたいらしいんっすよ、その為の拠点を探しているらしくてねぇ。何も無いって事は、建物を建てるのに邪魔なものも無いって事でしょ? それにここで商売するだけって訳でも無いし、倉庫に休憩地点に、使い道は色々あるらしいっす」
資源も人手もない。あるのは何もない枯れた土地だけ。そんな場所を買いたいなど理解の外であったが、商人が話す用途に一応の納得を示す……が、その反応は芳しくない。
「そう言う話は、領主様に言ってもらわないとねぇ」
「それは、別の者が話を通すっす。現地人の了承や協力も無しに活動しても、不幸な事にしかならないってぇのが、上の考えっす。こっちに問題がなければ、話を通す心算の様っす」
「変わった考えをする人なんだねぇ」
「まぁ、うちの上司達は変わりもんっすからね~」
「なんの話してんだ? あ、おっちゃん、これ頂戴」
「毎度っす!」
商品を見終わった村人が、支払いの為に商人の元へ集まりだす。テキパキと支払い処理を捌いて行く脇で、村長が商人の提案を口にする。
思い詰める者、渋い顔を浮かべる者、期待を滲ませる者、反応は様々だが、頭ごなしに否定する雰囲気はない。
商人側からすれば、それなりの反発があって然るべきだと、意と機を決して提案したのだが、思いの他反応が悪くなかった事に少々困惑しながらも、顔に出さずに村人達の会話に聞き耳を立てる。
「村長は……良いんですか? それって、余所者が大量にくるって事じゃ」
「私はかまわないよ、どうせもう長くない村だ。私が死ねば、残った若い者達もここを離れるさ」
「村長、そんな寂しい事を言わないでください」
「お前達もお前達だ。私ら老人と違って、こんな寂れた村に思い入れ何て無いだろう? 若い者は都会に出るのも選択の一つだよ」
「都会は嫌! あんな奴らが居る場所なんてごめんよ!」
「何かあったんで?」
声を荒げる村人に合わせて、商人は小首をかしげながら、さも何事かと困った雰囲気を纏いつつ声を掛ける。
「あぁ、うん。俺達も聞いた話でしか無いけど、この村から出て都会を目指した奴らは、軒並み奴隷落ちしているらしいんだ」
「逃げ出した人から聞いた話だけどね。田舎者ってだけで爪弾き、それだけならまだ良いけど、根も葉もない言い掛かりで、犯罪者に仕立てられて、奴隷にされる奴が後を絶たないらしいわ」
「それは……なんとも」
その話を聞いた商人は、露骨に不快な顔を浮かべる。人としてもそうだが、商人としての矜持から来る、嘘偽りのない感情だった。
「領主様との話次第ですが……何なら、現地の働き手も探していますし、働く気が有るんなら、上と話してみるっすよ?」
―――
「……と、まぁ、アルベリオンの辺境の村々はそんな訳っす」
手が空いたので、貰い受けたアルベリオンの土地を見に来てみれば……随分と酷い有様ですね。バラン商会の従業員さんが居たので内情を聞いてみれば、その理由も納得です。
正に、カッターナでの出来事を再現しようとしているのでしょう。今はその初期段階と言ったところでしょうね。
「それで何っすけど……どう、っす? ここの、その、使い道とか、人とか?」
「良いんじゃないですか? 現地人が居た方が風土とか風習とか文化とか……面倒事が少なくなりそうですし、現地の知識がタダで手に入るとか、お得じゃ無いですか。管理も任せられて、一石二鳥ですしね」
「本当に、旦那様は話が早いっすね!?」
そもそも、俺が土地の所有権を求めるのは、エマさんの敵が潜める場所を徹底的に潰す為であって、支配することではないですからね。国家運営とか、一般人の俺にできる訳もない。てか面倒。そんな些事に構っている暇も無いです。
「しかし、国家の土地をよくも取れたモノです」
通常の国はカッターナと違い、個人で土地の所有権を持ってはいない。武力などで無理やり取られでもしない限り、所有権を奪えない筈なのですが……どうやったんでしょうね? 逆に取られたりしないのか心配なので、知って置きたいのですが。
「あぁ、それっすか? 領主に大金をチラつかせて、土地を譲る様に交渉したら、思いの外簡単に応じたらしいっすよ? 利用価値を見出せない、クズ土地って事らしいっすからねぇ。その後は、国の土地を私的に売買した事に気付いたところで、身元を誤魔化す隠蔽の魔道具を買わせつつ、破産させて逃げさせたっす。契約は領主なので、変更、更新など、領主が行わないとできないので、取り返される心配もなしっす」
「詐欺やん」
「それ位しないと、穏便に他国の土地なんて取れないっす。土地の使用権と所有権の確認をしなかった、当時の領主の責任っすよ。契約書はちゃんと読まないとっす」
防御結界やら探知などの魔術や魔道具に魔法、はたまたスキルなど、領域の支配者でなければ使えないモノも多い。緊急事態や日常に際し、いちいち国から許可を得なければ使えないのでは、無いのと変わらない。
国から責任者を置くなりする必要があって……って、その権限を持つのが領主か。国に任免された責任者がそれじゃダメやん。
兎に角、契約者である領主が居なければ契約の更新は出来ず、そして土地の権利を既に俺に売却しているので、バラン商会側に所有権は無く、アルベリオン領主と行った契約の内容を弄れない。更に俺は、アルベリオンの責任者と直接対峙する気は無いので、土地の所有権の変更はほぼ不可能となる。
「それに、土地が枯れて使い道が無いからとは言え、その地にあるモノを全部……それこそ現地人の皆さん迄対象になっているのを分かっていて、【契約書】にサインしたんっすよ? 実質、国民を人身売買に掛けたんっす、金が無いからって自業自得っす」
「…………擁護の言葉が消えました」
ダメやん、領主として以前に、人としてダメやん……いや、カッターナと同じことをしょうと考えていたのであれば、あえて息のかかった無能をスケープゴートとして設置していた可能性も? ……まぁ、いいや。どうせ関わることも無いでしょうし、それよりもこれからの事ですね。
「それで、旦那様はここをどう使うんで? 必要なもんとか有ります?」
あぁ、そうでした。改めて村の周囲を見ますが……本当に何も無いですね。ちょっと前までの家の近所みたいです。まぁ、使い道は既に決まっているんですがね。
「避難所っすか?」
「ですです」
カッターナは大体終わったのも有りますが……そろそろアルベリオンを如何にかしないと不味い。その為の事前準備をしなければ、エマさんが決めた目標を達成できないですからね。
とりあえずは、人が住める環境の基盤を安定させなければなりませんね。必要なのは、衣食住に産業、流通、防衛力、管理。管理と防衛は、この前アルサーンでとっ捕まえた、真面なアルベリオン兵さんが回復すれば丸投げできるし、流通は現に今回しているバラン商会で問題なし。産業は、土地はエマさんに頼んで、塞き止めていた地中の龍脈を開放してもらって土地を回復して貰えれば、植林もすぐに終わって伐採もすぐに出来るでしょう。既に拓かれているので開拓の必要も無いから、事前に魔物対策をさせつつ発展させれば、畑の類も行けるかな? 龍脈が再開通すれば、貴重な薬草当たりの安定供給とかができるかも……実験と称して行えば、給料も出せますし、失敗しても問題ない。成功すれば、薬草類の一大産地にもなる。バラン商会が流通させれば、事業拡大にもつながりますし……うん、物は試しですし提案してみましょう。ダメでも、ちょっと高価な野菜類とかでも良いですしね。後は衣食住の安定ですが、これは森が復活するまではバラン商会に頼って、避難民が増えるに合わせて随時発展させるとして……持っている土地の範囲で間に合うかな? 最悪、現禿山の土地も森林に戻すんじゃなくて、居住区として利用することも視野に入れて……いや、アルベリオン側の土地手に入れられないかな? う~ん、殲滅する為の準備をするのに殲滅するって、本末転倒ですね~って、あ、土地と言えばアルサーンの土地が余っていますね。獣人の治療よりも、土地の浄化作業の方が速く終わりそうですし、溢れたら一時的に借りましょうかね? 有りだな。そっち方面で調整してみましょうか。カッターナに頼ると、後々飛び火しかねないので、そっちはなしですね。予定外とは言え、折角現地付近の土地が手に入ったんですから、利用しない手は無いでしょう。カッターナは安定した状態を維持しておきたいですしね。後は偽装工作だな~、避難所が完成する前にちょっかいを掛けられるのは面倒だ。見た目魔物な子はなるべく使わない方向で、誤魔化しが効く子を中心に派遣して、迅速に場を整え……
「ストップ、ストップ、ストップっす!? 付いて行けないっす!? てかそれ、私が聞いても良い話っすか!?」
「おん?」
おっと、思考に没頭していて周りが見えていなかった。ま、まぁいいや。別に聞かれて困る事は、言っていない、はず? ……うん、大丈夫!
「旦那さまって、いっつもそんなこと考えてるんっすか?」
「まぁ……これが俺の仕事ですし? それ以外やれることも無いですし」
実行するのは別ですからね~。これ位しかできる事が無いので、そこに残る力を注いでいるのですよ。
とりあえず、さっきの方針で進めましょうか。
既にクロスさんが動いて皆さんと精査に入っているので、すぐに動けるでしょう。新しい案やら粗探しやら必要物資の洗い出し、実行員の選定にかかる時間などを考えれば……明日には動けますかね。
「あ! おっちゃんだ!」
「こんにちわーっす!」
食料や物資を売り、時には仕入れと称し不要なモノを買い取る。特産品も無ければ土地が豊かな訳でもない、いつ終わるか分からない寒村からすれば、彼等の存在はどれ程有り難いことだろう
そして、そんな事が何度も行われれば、顔見知りにもなる。娯楽の少ないこの世界、商人が持ちこむ品は、生活を豊かにするものであると同時に娯楽でもあるのだ。
「おっちゃ~ん! おっちゃんが来たぞーーー!」
商人が何度目かになる村を訪れれば、外で遊んでいた子供たちが手を振り迎え入れ、その声に反応した大人たちも各々の仕事の手を止め集まりだす。迷いなく迎え入れるその様子は、商人の訪問を明らかに歓迎したもの……短期間で信頼を勝ち取り懐に入り込むその手腕は、正に一級品。一流のプロの仕事である。
「おや、また来たのかい? アンタも物好きだねぇ」
「村長、お邪魔してるっす! この前言ってた腰痛に効く薬、仕入れてあるっすよ!」
いつもと同じように手持ちの品を広げ、今日の商いを開始する商人の元に、一人の老婆が声を掛ける。この寂れた村の村長である。
「悪いねぇ、旅費だって馬鹿にならないだろうに」
「こっちも商売っす! ちゃんと儲けは出しているっすから、心配無用っす!」
「ふふ、そうかい、商売上手なんだねぇ……私が子供の頃は、ここも元気な森があって、色々と採れたんだけどねぇ……若い者もどんどん都会に出て、土地も枯れて……こんな何もない所に来ても、仕方が無いだろうに」
品を見ている村人の姿を見れば、居るのは初老か、幼子ばかり。働き盛りの年代が殆ど居らず、遠くに目を向ければ、有るのは荒野と岩山……今は無い森を思ってか、村長の声には寂しさが滲んでいる。
「そうっすね……それなら、ちょっと耳寄りなお願い事があるっす」
「耳寄りな……お願い?」
普段であれば、村人が商品を見ている間、こんな世間話だけで終わるのだが、今日は様子が違った。
商人が思わせぶりな態度で、村長に提案を持ちかける。その可笑しな言い回しに小首を傾げる村長であるが、詳しく話を聞くことで更にかしげる事となる。
「土地を買いたい? こんな何もない場所をかい?」
「私の上司がね、ここにも販路を伸ばしたいらしいんっすよ、その為の拠点を探しているらしくてねぇ。何も無いって事は、建物を建てるのに邪魔なものも無いって事でしょ? それにここで商売するだけって訳でも無いし、倉庫に休憩地点に、使い道は色々あるらしいっす」
資源も人手もない。あるのは何もない枯れた土地だけ。そんな場所を買いたいなど理解の外であったが、商人が話す用途に一応の納得を示す……が、その反応は芳しくない。
「そう言う話は、領主様に言ってもらわないとねぇ」
「それは、別の者が話を通すっす。現地人の了承や協力も無しに活動しても、不幸な事にしかならないってぇのが、上の考えっす。こっちに問題がなければ、話を通す心算の様っす」
「変わった考えをする人なんだねぇ」
「まぁ、うちの上司達は変わりもんっすからね~」
「なんの話してんだ? あ、おっちゃん、これ頂戴」
「毎度っす!」
商品を見終わった村人が、支払いの為に商人の元へ集まりだす。テキパキと支払い処理を捌いて行く脇で、村長が商人の提案を口にする。
思い詰める者、渋い顔を浮かべる者、期待を滲ませる者、反応は様々だが、頭ごなしに否定する雰囲気はない。
商人側からすれば、それなりの反発があって然るべきだと、意と機を決して提案したのだが、思いの他反応が悪くなかった事に少々困惑しながらも、顔に出さずに村人達の会話に聞き耳を立てる。
「村長は……良いんですか? それって、余所者が大量にくるって事じゃ」
「私はかまわないよ、どうせもう長くない村だ。私が死ねば、残った若い者達もここを離れるさ」
「村長、そんな寂しい事を言わないでください」
「お前達もお前達だ。私ら老人と違って、こんな寂れた村に思い入れ何て無いだろう? 若い者は都会に出るのも選択の一つだよ」
「都会は嫌! あんな奴らが居る場所なんてごめんよ!」
「何かあったんで?」
声を荒げる村人に合わせて、商人は小首をかしげながら、さも何事かと困った雰囲気を纏いつつ声を掛ける。
「あぁ、うん。俺達も聞いた話でしか無いけど、この村から出て都会を目指した奴らは、軒並み奴隷落ちしているらしいんだ」
「逃げ出した人から聞いた話だけどね。田舎者ってだけで爪弾き、それだけならまだ良いけど、根も葉もない言い掛かりで、犯罪者に仕立てられて、奴隷にされる奴が後を絶たないらしいわ」
「それは……なんとも」
その話を聞いた商人は、露骨に不快な顔を浮かべる。人としてもそうだが、商人としての矜持から来る、嘘偽りのない感情だった。
「領主様との話次第ですが……何なら、現地の働き手も探していますし、働く気が有るんなら、上と話してみるっすよ?」
―――
「……と、まぁ、アルベリオンの辺境の村々はそんな訳っす」
手が空いたので、貰い受けたアルベリオンの土地を見に来てみれば……随分と酷い有様ですね。バラン商会の従業員さんが居たので内情を聞いてみれば、その理由も納得です。
正に、カッターナでの出来事を再現しようとしているのでしょう。今はその初期段階と言ったところでしょうね。
「それで何っすけど……どう、っす? ここの、その、使い道とか、人とか?」
「良いんじゃないですか? 現地人が居た方が風土とか風習とか文化とか……面倒事が少なくなりそうですし、現地の知識がタダで手に入るとか、お得じゃ無いですか。管理も任せられて、一石二鳥ですしね」
「本当に、旦那様は話が早いっすね!?」
そもそも、俺が土地の所有権を求めるのは、エマさんの敵が潜める場所を徹底的に潰す為であって、支配することではないですからね。国家運営とか、一般人の俺にできる訳もない。てか面倒。そんな些事に構っている暇も無いです。
「しかし、国家の土地をよくも取れたモノです」
通常の国はカッターナと違い、個人で土地の所有権を持ってはいない。武力などで無理やり取られでもしない限り、所有権を奪えない筈なのですが……どうやったんでしょうね? 逆に取られたりしないのか心配なので、知って置きたいのですが。
「あぁ、それっすか? 領主に大金をチラつかせて、土地を譲る様に交渉したら、思いの外簡単に応じたらしいっすよ? 利用価値を見出せない、クズ土地って事らしいっすからねぇ。その後は、国の土地を私的に売買した事に気付いたところで、身元を誤魔化す隠蔽の魔道具を買わせつつ、破産させて逃げさせたっす。契約は領主なので、変更、更新など、領主が行わないとできないので、取り返される心配もなしっす」
「詐欺やん」
「それ位しないと、穏便に他国の土地なんて取れないっす。土地の使用権と所有権の確認をしなかった、当時の領主の責任っすよ。契約書はちゃんと読まないとっす」
防御結界やら探知などの魔術や魔道具に魔法、はたまたスキルなど、領域の支配者でなければ使えないモノも多い。緊急事態や日常に際し、いちいち国から許可を得なければ使えないのでは、無いのと変わらない。
国から責任者を置くなりする必要があって……って、その権限を持つのが領主か。国に任免された責任者がそれじゃダメやん。
兎に角、契約者である領主が居なければ契約の更新は出来ず、そして土地の権利を既に俺に売却しているので、バラン商会側に所有権は無く、アルベリオン領主と行った契約の内容を弄れない。更に俺は、アルベリオンの責任者と直接対峙する気は無いので、土地の所有権の変更はほぼ不可能となる。
「それに、土地が枯れて使い道が無いからとは言え、その地にあるモノを全部……それこそ現地人の皆さん迄対象になっているのを分かっていて、【契約書】にサインしたんっすよ? 実質、国民を人身売買に掛けたんっす、金が無いからって自業自得っす」
「…………擁護の言葉が消えました」
ダメやん、領主として以前に、人としてダメやん……いや、カッターナと同じことをしょうと考えていたのであれば、あえて息のかかった無能をスケープゴートとして設置していた可能性も? ……まぁ、いいや。どうせ関わることも無いでしょうし、それよりもこれからの事ですね。
「それで、旦那様はここをどう使うんで? 必要なもんとか有ります?」
あぁ、そうでした。改めて村の周囲を見ますが……本当に何も無いですね。ちょっと前までの家の近所みたいです。まぁ、使い道は既に決まっているんですがね。
「避難所っすか?」
「ですです」
カッターナは大体終わったのも有りますが……そろそろアルベリオンを如何にかしないと不味い。その為の事前準備をしなければ、エマさんが決めた目標を達成できないですからね。
とりあえずは、人が住める環境の基盤を安定させなければなりませんね。必要なのは、衣食住に産業、流通、防衛力、管理。管理と防衛は、この前アルサーンでとっ捕まえた、真面なアルベリオン兵さんが回復すれば丸投げできるし、流通は現に今回しているバラン商会で問題なし。産業は、土地はエマさんに頼んで、塞き止めていた地中の龍脈を開放してもらって土地を回復して貰えれば、植林もすぐに終わって伐採もすぐに出来るでしょう。既に拓かれているので開拓の必要も無いから、事前に魔物対策をさせつつ発展させれば、畑の類も行けるかな? 龍脈が再開通すれば、貴重な薬草当たりの安定供給とかができるかも……実験と称して行えば、給料も出せますし、失敗しても問題ない。成功すれば、薬草類の一大産地にもなる。バラン商会が流通させれば、事業拡大にもつながりますし……うん、物は試しですし提案してみましょう。ダメでも、ちょっと高価な野菜類とかでも良いですしね。後は衣食住の安定ですが、これは森が復活するまではバラン商会に頼って、避難民が増えるに合わせて随時発展させるとして……持っている土地の範囲で間に合うかな? 最悪、現禿山の土地も森林に戻すんじゃなくて、居住区として利用することも視野に入れて……いや、アルベリオン側の土地手に入れられないかな? う~ん、殲滅する為の準備をするのに殲滅するって、本末転倒ですね~って、あ、土地と言えばアルサーンの土地が余っていますね。獣人の治療よりも、土地の浄化作業の方が速く終わりそうですし、溢れたら一時的に借りましょうかね? 有りだな。そっち方面で調整してみましょうか。カッターナに頼ると、後々飛び火しかねないので、そっちはなしですね。予定外とは言え、折角現地付近の土地が手に入ったんですから、利用しない手は無いでしょう。カッターナは安定した状態を維持しておきたいですしね。後は偽装工作だな~、避難所が完成する前にちょっかいを掛けられるのは面倒だ。見た目魔物な子はなるべく使わない方向で、誤魔化しが効く子を中心に派遣して、迅速に場を整え……
「ストップ、ストップ、ストップっす!? 付いて行けないっす!? てかそれ、私が聞いても良い話っすか!?」
「おん?」
おっと、思考に没頭していて周りが見えていなかった。ま、まぁいいや。別に聞かれて困る事は、言っていない、はず? ……うん、大丈夫!
「旦那さまって、いっつもそんなこと考えてるんっすか?」
「まぁ……これが俺の仕事ですし? それ以外やれることも無いですし」
実行するのは別ですからね~。これ位しかできる事が無いので、そこに残る力を注いでいるのですよ。
とりあえず、さっきの方針で進めましょうか。
既にクロスさんが動いて皆さんと精査に入っているので、すぐに動けるでしょう。新しい案やら粗探しやら必要物資の洗い出し、実行員の選定にかかる時間などを考えれば……明日には動けますかね。
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