ブチ切れ世界樹さんと、のんびり迷宮主さん

月猫

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264 露見②

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「死にてぇらしい……か。それは、脅迫と判断するぞ?」
「呑気な……死ねっつってんだよ」

 あ、<カメラ>から視線を外した隙に、囲んでいた武装集団の一人が剣を抜いて、ゼニーさんに向けて振り被っていた。行動早いな、おい。

「あ~あ~、こりゃ完全にアウトだわ」
「この……!? は、放しやがれ!!」

 振り下ろした抜身の剣を、エッジさんが片手で鷲掴む。うん、まぁ、止められますよね。その為の護衛ですし。

 ガッチリ掴まれた剣を振りほどこうとするケルドですが、手甲越しとは言え、斬れもしなければ微動だにしない。

 ケルドの長所は、その秘匿性だ。だが逆に言えば、それ以外何の役にも立たない。群れに紛れているからこそ効果を発揮するのだ、既に身バレしており、敵陣に潜入できないケルドなど、ゴミ以外の何ものでもない。

 そんなんだから、レベル上げとしてこれ程狩りやすい相手も居ない。エッジさんも今まで散々狩りまくっている。
 心、技、体、武具、成長率ポテンシャル、にレベル……全てにおいて、露骨なまでに実力差が出ていますね。

「黒竜、『ぶっ壊せ』」

 全く動かない剣を前に、ケルドがなりふり構わず力を込めている所に、エッジさんは手甲型の魔武具である【黒竜】を起動する。

 初めて使った時は、込める魔力量も指定範囲も無駄が多く、敵が張った光の壁一枚を無理やり壊す事しかできなかった。だが今では完璧に使いこなしているのか、魔力の漏れも無く、掴んだ剣の全体に魔力を行き渡らせ、瞬間的に物質化。物質の隙間に割り込む様に内側から押し広げられたことで、突如倍近く膨張した剣は、砂のように崩れ去った。

「うお!?」
「あ~、他も動くな動くな。これ以上面倒にすんなよ? ……抜いちまうだろ」

 いきなり崩れ去った剣にバランスを崩したケルドが、床に尻もちをつく。その脇でじりじり移動していた他7人だったが、エッジさんが【黒竜】とは反対の手で、腰に携えた剣を掴んでいるのを警戒してか、踏み込めないでいた。

 正式な使者を名乗るだけあって、ケルドの割に警戒心がある様で……いや? 正式な使者を名乗るだけあって、ケルドじゃない可能性も無きにしも非ず? 別種? 後で確認しましょうか。

「……」

 そんな一連の出来事を前にして、ゼニーさんは全く動じることなく、汚物を見る様な視線を枯れ木爺へ向け続けていた。斬りかかられても平然としているとは、うむうむ、美しき信頼関係かな。

 ………………睨み合って動かなくなっちゃいましたね。

 まぁいいや。もう十分ですし、迎いに行きましょうかね。次いでだから、お昼ランチにでも誘って、労いも兼ねて奢るか。

 って訳で、部屋の前まで移動してドアをノック。お邪魔しま~す。

「誰だ!」
「お話終わりました~? 終わりましたね! 時間も良いですし、昼にでも行きませんか? 奢りますよ~」
「マジか!? 食うぞ!」

 俺の言葉に反応し、ガバっとこちらに向くエッジさん。そして、エッジさんの注意がこっちに向いたとでも思ったのか、一斉に動く武装ケルドども……舐めすぎだろ、こいつ等。

「エッジ~」

― キィィィン ―

 室内に金属の衝突音が響く。それは、一度と聞き間違える程の連続した音。
目にも留まらぬ速さで抜き振るわれた剣が、一瞬の内にケルドが持つ武器を、全て弾き上げたものだ。

 木刀【旋風つむじかぜ】による抜刀速度上昇。前までは抜き放つのが精一杯だったのが、今では自在に振り回し納刀迄済ませている。いや~、<抜刀術>に磨きがかかっていますね。
 【白竜】を一瞬だけ発動させる事で各所関節を強化し、その反動を耐える事で、この神速の抜刀術を可能としているようですね。渡したこちらとしても、嬉しい限りです。

 あぁ、そうそう。

「こいつ等もういらないから、刎ねとけ」
「あ~いよっと」

 親指で首を掻っ切るジェスチャをすれば、武装ケルド共の首が飛び、血の噴水が吹き上がる。最初に攻撃してきたのはこいつ等ですからね。正当防衛、正当防衛。

「あらら、これは掃除が大変そうだ」
「だったら斬らせんなよ~」

 ごめんなさいね~。清掃係に特別給与出しますから……許して?

「ここまで大それたことを仕出かしやがって……貴様の、貴様らの責任だ」
 
 飯にしようと、部屋を出ようとしたら、枯れ木爺が口を開く。振り向けば、デブオヤジが部屋の隅で頭を抱えて震える横で、枯れ木爺が歯茎むき出しで、醜悪な笑みを浮かべて座って居た。

「貴様らが引き起こしたんだ……戦争だ。根絶やしだ。後悔してももう遅い。何もかも消える事となるのだ! いぃやぁ……消えるなど生温い。親戚親族、親友共々、使ってやる。唯一神イラ様の為に、死ぬまで貢献できる喜びと名誉をやろう。お前も、お前も、お前も、逃れることなどできんと知れ!」

 まるで正義を得たりと、俺達に指さしながら妄言を宣う枯れ木爺を前に、ゼニーさん共々、もうウンザリっと肩を落とす。

「はぁ……戦争って、ゼニーさんや、これは何を言っとっとです?」
「まったくだ。未だに気付いておらんとはな。ってなんだ、その喋り方は」
「なんか気が抜けました。近くで見るんじゃなかったですね~。あぁ、ケルド嫌だケルド」
「ワシ等には分からんのだろうが、お前さん見える者は辛いのだったな」

 俺等の反応に、困惑よりも苛立ちが際立ったのか。枯れ木爺の醜い顔が怒りで更に歪む。

「戦争、戦争だぞ! 分かってるのか!」
「そっちこそ、未だに戦争を吹っ掛けられている事に気付いてないとは……呆れて言葉も無いわい」
「まったくです。どれだけの土地を奪われているのか、分かっているのでしょうかね? あ、言葉あったわ、所詮ケルド共か」
「だなぁ……」
「な、に?」

 まぁ、経済戦争なんて、流通経路が限られる世界では、この手の攻撃は珍しいでしょうけどね。それでも、散々土地を買い奪われておきながら、中のケルドを駆除されておきながら、この反応は無いでしょう。

 …………もしかして、今のカッターナの現状を理解していない? 放つだけ放して、その後のケルドの動向を把握していないとか……無いですよね?

「余裕ぶりやがって……どうやら今の事態を分かっていないらしい」
「それはお前の方だろうが。もう少し危機感を持った方がいいぞ」
「……ふふふ、俺が死ぬ事を恐れると? 舐めるな、その様や幼稚な脅しが利くと思うか」
「思いますけど、何か?」
「は?」

 話にならないと思ったのか、ゴミを見る様な感情を抱き始めた枯れ木爺。ゼニーさんが指摘しても、馬鹿にする様に鼻で笑い、見当違いの返答を返してくる。

 バレていない・・・・・・と思っているのでしょう。だから、死とか脅しとかの言葉が出るのです。だったらと、相手の返答に合わせ肯定してやれば、意味が分からないとばかりに呆けた声を上げた。

 いや、だって、お前ってそう言う奴だろ?

「憶病で自尊心が高く傲慢。お前の本質ってそんなところだろ? この糞ガキ・・

 パッと相手の感情を見た感じ、そんな感じだったので指摘してやれば、ようやく理解したのか、怒りで顔を真っ赤にして震え出した。

「死ぬのが怖いんだろ? 貶されるのが怖いんだろ? 人の目が怖いんだろう? お前は何もできない。お前は何の役にも立たない。だってお前は何もしていないから。だってお前には何も無いから。有るのは根拠のないスッカスカなプライドだけ。それを指摘されたく無いんだろう? 自覚したく無いんだろう? だから表に出られない。だから引き籠る。だから他人を見下す事でしか自分の価値を実感できない。だから他人を貶めなければ、自分の地位を確立できない。不快で惨めで悔しくて、それでも自分に抗う事ができない。甘ったれで我が儘で憶病な糞ガキだよ」
「イィギゥィイ~~~!!!」

 ちょっと挑発してやれば、憤懣やるかたない表情で奇怪な奇声を上げ、怒りに任せて目の前のテーブルを蹴り飛ばした。どうやら図星だったらしい。

「バカにしやがって! いいだろう、分からせてやる! 不浄なる者共が、神の怒りを知りやがれ!」

 枯れ木爺は怒りに任せて、汚らわしい光を放って来た。うん、やっぱ見えた感情のままの人格か。

 こいつ、糞引きニートだ。

「うぃひゃひゃひゃひゃ! バカな下等生物共が……ん?」

 光が晴れると、予想外の光景だったのか、枯れ木爺が困惑の声を上げる。

 ……あぁ、これは、把握していませんわ。自分の今の状況も、カッターナの状況も何もかも。でなければ、ケルド化・・・・を誘発する魔法・・・・・・・を使っても意味がないことを把握していない訳が無い。
 だって、ここら一帯に生きているケルド混じりは、一体も居無いんですもん。あ、一体居たわ。こいつが連れて来たデブオヤジ。エッジさんに斬り潰されて、たった今肉塊になったけど。

「な、なぜ、何故魔物化しないぃ!」
「うるせぇなぁ」
「へぶ!?」

 もう面倒になったので、枯れ木爺に近づいて、顔面を踏みつけ物理的に黙らせる。

 今まで、こんな能力・・を持ったケルドはいなかった筈です。コアさんの警戒網を抜けるとは、通常の手段ではないですね。まぁ、感情が見えて仕舞えば、それまでだがな。

「ケルド使って敵情視察か? そんな事にも使えたんだなぁ……えぇ? おい」
「うぅ!?」

 顔面を踏み付け、ソファーに押し付け、分かりやすく、明確な意思の元、枯れ木爺の奥に居る・・・・・・・・・引きニート・・・・・に向け意識視線を送ってやる。

「テメェだよ……裏でコソコソコソコソと、バレて無いとでも思ってんのか? 死を恐れないだぁ? 安全圏から魔物を遠隔操作して話しているだけだろうが。自分に危害が加えられないと高を括っているだけなのに、何を威張ってんだ」
「な、な!?」
「なんで今まで使わなかった? この個体が特殊なのか? 数が揃えられない? 有効距離は? コストは? 条件は? まぁ、でも、この個体枯れ木爺調べれば解剖すれば何か分かんだろ」
「い、い、い゛!?」

 脚に力を込めれば、ミシミシと、頭蓋骨が軋む音が室内に響く。

 力が有っても、それを使いこなす能力が無ければ、宝の持ち腐れだ。こいつが持っているを考えれば、数か月とは言わずとも、数年あれば国の一つや二つ、容易に落とせただろう。

「動きがトロ過ぎるんだよ。もう少し必死になれ。高々国一つ落とすのに、何十年かけてんだよ、この無能が」
「な、なにぉ?」
「あぁ、そうそう。戦争だっけ? 俺にもさっき吹っ掛けていたよな? ……良いぜ~、お前の俺に対する宣戦布告、正式に受取ろぉう。俺は忙しいからな。来るならそっちから来い」

 ケルドを通してこちらを見ている相手に向けて、合意の意を示してやる。

「待ってるぜぇ……イラ国の迷宮主ダンジョンマスターさんよぉ」
「!!??」

 そう言って、通信の役目をしていた枯れ木爺型のケルドの頭を、踏みつぶした。

「……よし、飯にしましょう!」
「「ダンジョンマスターって、何だ!?」」
「え~? 聞いちゃいます~?」

 ゼニーさん達に振り返って、何事も無かったかのように振舞ったのですが……突っ込んで来るか~……しゃぁねぇ、この件も巻き込むか。

 にこやかににんまり微笑めば、二人揃って後退る。やっちまったって顔をしてももう遅い。逃 が さ ん! 巻き込み決定です!

 ……あ、コレの回収もしなくては。<倉庫>に入れるのも嫌なので、誰かに頼んで運んでもらいましょうか。






昼飯中ーーー



ダンマス
「ほら、穴人さんの所に作られた、イラ国とのトンネルがあるじゃないですか。あれ、壊せないって事で、ちょっと横道掘って貰って外から叩いて貰ったんですがね? 反応がまんま、ダンジョンの壁だったのですよ」(もぐもぐ)

ゼニー
魔物ケルドを放てるのも、ダンジョン故か」(はむはむ)

エッジ
「それで、ダンジョンマスターね~」(がつがつ)

ダンマス
「魔力の質とか~、領域の質とか~、他にも理由は有りますがね~。イラ教かイラ国の中核はダンジョンマスターが握っているでしょう。でなければ、軍事的に重要な要所の支配権を与えたままにしておくとか、無いでしょう? いつ裏切られるか、分かったもんじゃない」

エッジ
「それな~」(ゴックン)

ダンマス
「あ、エスタール帝国の方にも、イラ教が宣戦布告してきた情報、こっそり流さなきゃ。次いでに要人暗殺を企てて、あっさり返り討ちに遭ったことも」(ずずず~)

エッジ、ゼニー
「「容赦ねぇな」」
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