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213 蹂躙③(地獄)
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「乗り込むぞ!」
「裏にも回り込め!」
「窓も封鎖しろ! 一人も逃がすな!」
全員で纏まって行動しては、罠や範囲攻撃のいい的に成り兼ねない上、屋内では真面に行動できない。
その為各々技能と能力を鑑み、事前に決めていた役目に従い行動する。
機動力が高い者は建物を取り囲み、威圧する様に展開し、他の者が到着するまでの時間を稼ぐ。身軽なものは壁を駆け上がり、窓から侵入、及び逃亡防止に動く。なにせこの教会は、ちょっとした砦並みの大きさがあり、入り口など選んでいられないのだ。
そして、純粋な戦闘力が高い者達は、そのまま正面の扉へと足を進め、他の者達の展開が終わるのを待つ。その間、正面入り口を前に、何処か遠い目をしながら建物を見上げる一同。
「今まで俺達から毟り取って来たもんで、造られてんだよな」
誰が呟いたか……その言葉通り、周囲の建物の倍の高さはあり、街のシンボルと言っても過言でない。だがその実、裏の顔を知っている者から見れば、欺瞞と詐取と差別と搾取の象徴でしかない。
「……中の様子は分かるか?」
今か今かと待ち構える者達を尻目に、通信の魔道具で、後方支援の者達と連絡を取ると、その通信に答える様に、僅かな風切り音と共に、夜の闇に紛れながら空中を飛び交っていた黒い球体がエッジの元へと飛来し、瞳の様な部分を向けつつ滞空する。
(ごめんなさい、中を見る事ができません。何かに妨害されているみたいで、建物内に入ると、ブラックアウト? して仕舞います。恐らく魔力が遮断されて居るんだと思います)
「旦那の魔道具でもダメか。やっぱ一筋縄ではいかねぇな」
黒い球体を見ながら、頭を掻くエッジ。
拳大のこの黒い球体は、分かりやすく言えば、小型のカメラ付きドローンだ。以前【世界樹の迷宮】を覗いていた冒険者達が使用していた、望遠の迷宮具の携帯版とも言える。
(ごめんなさい)
「いや、アンタらの問題じゃねぇからな? そもそも、安全な場所から遠くの様子を見られる魔道具とか、普通無いからな? 有利な状況が、普通の状況に戻っただけだから気にすんな」
(……分かりました。今は周囲の監視に努めます)
部外者である彼等は、中の構造を知っている者は居ない。更に、扉を開けた途端、迎撃される可能性だってある。その為、中の状況を知る事ができれば、かなりのアドバンテージを得ることができたかもしれないが、流石にそこまで都合よくはいかない様だ。
もともと、中は見られない可能性が高いと、ダンマスより話は出ていた為、予定には支障はない。安全に周囲の警戒を行えるだけ、恩の字である。
(あの)
「あん?」
(……私達の分まで、お願いします)
「……おう」
悲痛な思いが漏れ出す様な声に一言答えると、前を見据え歩き出す。
その後ろ姿を見送ると、魔道具は再度周囲の警戒に戻る為、暗闇の中へと紛れて行った。その頃になると、全ての者達が所定の位置に付き終わり、突入の合図を待って居た。
「さて、そんじゃぁ行きますかねぇ」
「これだけ御膳立てして貰って、失敗しましたとかシャレにならねぇぜ? エッジ」
「へーへー」
「頼むぜぇ、エッジさんよ」
「へーへー」
「今襲撃は、お前が中心なんだからな、エッジ殿」
「へーへー」
「全責任は、エッジ様に掛かっていますからね!」
「しつけぇなぁ!? なんか文句あんのか!?」
「「「いえいえまさか、リーダーに不満なんて、ありゃしません」」」
「めっちゃ不満そうじゃねぇか!」
扉の前で待機していた者達と合流すれば、好意的な言葉を投げかけながら、がんを飛ばされる。その大半が、商売敵であった傭兵団のリーダーたちだ。
前線を張る事となって居る彼等は、他の者とちがい特殊な装備が支給されている。選んだのは彼等自身なのでその種類はバラバラだが、支給された武具からすれば頭一つは飛び抜けた性能を誇る。
あるものは盾、あるものは靴、そしてエッジは、左腕に白く滑からな、右腕に黒く刺々しい籠手を装備しており、調子を確かめる様に頻繁に指を動かしている。
「はいはい、緊張してるのは分かるけど、リーダーに甘えない」
「「「っけ!」」」
今まで、散々苦汁を舐めさせられた相手であり、それでも尚、手を出せなかった相手である。気を紛らわす為に戯れてはみたが、緊張と恐怖が薄れる事は無く、震えが止まることも無い。まぁ、その事を指摘したとしても、意地を張って武者震いだ何だと言い訳するであろう事は分かっているので、指摘する者は居ない。
「は~……で、どう攻める?」
「当然。予定通り……正面から殴り込む」
「流石はリーダー! そう来なくっちゃ……な!」
ピンを抜いた魔道具が、扉に向け投げつけられる。棘が突き刺さることで扉に引っ付き、一拍置いて中の魔法が炸裂する。
衝撃と共に、木片や瓦礫が周囲に飛び散り、粉塵が巻き上がるも、追撃で投げ込んだ<風魔法>入りの魔道具で吹き飛ばし、視界を確保しながら一斉に室内への突入を開始する。
「待ち伏せは……無いな」
「意外だな。あんだけ一方的にやられて、何も対策無しか?」
エントランスと、正面には二階に上がる為の階段。
散々表で暴れていたため、既に相手も体制を整えていると思っていたが、その様子が一切見られない。それどころか、生き物の気配すらない。いっそ不気味ささえ覚える現状に警戒し、微かな気配すら逃さぬように押し黙る。
― ジャラリ -
そんな彼等に対し、上空から金属が擦れ合う音が降り注ぐ。
反射的に見上げれば、天井から幾本もの鎖が吊り下げられ、爆風に煽られたのか、ゆらゆらと揺れ動いていた。
「あん?」
「なんだ……ありゃ」
「ひ……と?」
それは……人。
皮を剥ぎ取り、肉を削ぎ、骨を削られ、無理やり人の形に成形したかのようなモノ。
どれ程時間が経っているのか、完全に干乾び崩れかけているモノ。
引き千切られ、ズタズタに欠損しているモノ。
原型を留めているモノですら贓物を引き抜かれ、ことごとく絶叫と苦痛に歪み、加工された肉の様に吊り下げられていた。
「うぉ…おぇ」
「人のする事じゃねぇ」
「後悔…覚悟。あぁ、あぁ分かったよ、漸く理解したよ旦那。確かにこりゃぁ、地獄だ」
その存在を認識したからなのか、空気が動いたからなのか……空間を死臭が支配する。
吐き気を催す不快感と嫌悪感に、耐え切れず嗚咽を漏らし、歯ぎしりを立てる。
「?」
「エッジ、どうした?」
「シ! ちょっと黙れ」
余りの惨状に嫌悪感に染まる中、何かを感じ取ったのか、エッジが階段の先を見据える。近くに居た者がその姿に気が付き声を掛けるも、それを制止し、そのまま意識を集中させる。
― ―
地の奥から響く様な小さな音。最早何の音か判断できない程小さなそれ聞き、焦燥感に駆られる様に走り出す。
後ろから掛けられる声を無視し、エントランスを駆け上がり二階へ。無駄に広い通路を進むにつれ、その音が大きく、ハッキリと耳へと届く。それを頼りに迷いなく、脇道を無視して突き進む。
― ぁ ―
後に続く者達も次第にその音の正体を察したのか、制止する声も無くなり、エッジと同様に進む速度が速くなる。
― ぁーーーーー! ―
突き当りに現れた扉を、躊躇することなく蹴破り、突入する。
二階に上がった為か、下階に降りる為の階段が左右に存在する踊り場に辿り着く。
「うぐ」
……最初に感じたのは、べたつく鉄錆の匂い。
視界に入るのは、一階から三階ほどの高さの、赤黒いシミがこびり付いた豪華絢爛な大聖堂と、肥え太った人間共。その足元に転がる様に蹲り、ゴミの様に踏まれ、跨らされ、許しを懇願する幾人もの亜人の女性。
― あ゛ーーーぁーーー!! ―
彼等の視線の先には、磔にされている亜人が、錆びついた刃欠けのナイフで皮を剥ぎ取られ、肉を切られ千切られ、素手で内臓を抉り出され、耳を劈く悲鳴を上げ……それを肴に人間共が酒を呷り、下種た笑い声を上げ……
「何やってんだ! テメェらーーー!!」
エッジの怒号が響き渡った。
「裏にも回り込め!」
「窓も封鎖しろ! 一人も逃がすな!」
全員で纏まって行動しては、罠や範囲攻撃のいい的に成り兼ねない上、屋内では真面に行動できない。
その為各々技能と能力を鑑み、事前に決めていた役目に従い行動する。
機動力が高い者は建物を取り囲み、威圧する様に展開し、他の者が到着するまでの時間を稼ぐ。身軽なものは壁を駆け上がり、窓から侵入、及び逃亡防止に動く。なにせこの教会は、ちょっとした砦並みの大きさがあり、入り口など選んでいられないのだ。
そして、純粋な戦闘力が高い者達は、そのまま正面の扉へと足を進め、他の者達の展開が終わるのを待つ。その間、正面入り口を前に、何処か遠い目をしながら建物を見上げる一同。
「今まで俺達から毟り取って来たもんで、造られてんだよな」
誰が呟いたか……その言葉通り、周囲の建物の倍の高さはあり、街のシンボルと言っても過言でない。だがその実、裏の顔を知っている者から見れば、欺瞞と詐取と差別と搾取の象徴でしかない。
「……中の様子は分かるか?」
今か今かと待ち構える者達を尻目に、通信の魔道具で、後方支援の者達と連絡を取ると、その通信に答える様に、僅かな風切り音と共に、夜の闇に紛れながら空中を飛び交っていた黒い球体がエッジの元へと飛来し、瞳の様な部分を向けつつ滞空する。
(ごめんなさい、中を見る事ができません。何かに妨害されているみたいで、建物内に入ると、ブラックアウト? して仕舞います。恐らく魔力が遮断されて居るんだと思います)
「旦那の魔道具でもダメか。やっぱ一筋縄ではいかねぇな」
黒い球体を見ながら、頭を掻くエッジ。
拳大のこの黒い球体は、分かりやすく言えば、小型のカメラ付きドローンだ。以前【世界樹の迷宮】を覗いていた冒険者達が使用していた、望遠の迷宮具の携帯版とも言える。
(ごめんなさい)
「いや、アンタらの問題じゃねぇからな? そもそも、安全な場所から遠くの様子を見られる魔道具とか、普通無いからな? 有利な状況が、普通の状況に戻っただけだから気にすんな」
(……分かりました。今は周囲の監視に努めます)
部外者である彼等は、中の構造を知っている者は居ない。更に、扉を開けた途端、迎撃される可能性だってある。その為、中の状況を知る事ができれば、かなりのアドバンテージを得ることができたかもしれないが、流石にそこまで都合よくはいかない様だ。
もともと、中は見られない可能性が高いと、ダンマスより話は出ていた為、予定には支障はない。安全に周囲の警戒を行えるだけ、恩の字である。
(あの)
「あん?」
(……私達の分まで、お願いします)
「……おう」
悲痛な思いが漏れ出す様な声に一言答えると、前を見据え歩き出す。
その後ろ姿を見送ると、魔道具は再度周囲の警戒に戻る為、暗闇の中へと紛れて行った。その頃になると、全ての者達が所定の位置に付き終わり、突入の合図を待って居た。
「さて、そんじゃぁ行きますかねぇ」
「これだけ御膳立てして貰って、失敗しましたとかシャレにならねぇぜ? エッジ」
「へーへー」
「頼むぜぇ、エッジさんよ」
「へーへー」
「今襲撃は、お前が中心なんだからな、エッジ殿」
「へーへー」
「全責任は、エッジ様に掛かっていますからね!」
「しつけぇなぁ!? なんか文句あんのか!?」
「「「いえいえまさか、リーダーに不満なんて、ありゃしません」」」
「めっちゃ不満そうじゃねぇか!」
扉の前で待機していた者達と合流すれば、好意的な言葉を投げかけながら、がんを飛ばされる。その大半が、商売敵であった傭兵団のリーダーたちだ。
前線を張る事となって居る彼等は、他の者とちがい特殊な装備が支給されている。選んだのは彼等自身なのでその種類はバラバラだが、支給された武具からすれば頭一つは飛び抜けた性能を誇る。
あるものは盾、あるものは靴、そしてエッジは、左腕に白く滑からな、右腕に黒く刺々しい籠手を装備しており、調子を確かめる様に頻繁に指を動かしている。
「はいはい、緊張してるのは分かるけど、リーダーに甘えない」
「「「っけ!」」」
今まで、散々苦汁を舐めさせられた相手であり、それでも尚、手を出せなかった相手である。気を紛らわす為に戯れてはみたが、緊張と恐怖が薄れる事は無く、震えが止まることも無い。まぁ、その事を指摘したとしても、意地を張って武者震いだ何だと言い訳するであろう事は分かっているので、指摘する者は居ない。
「は~……で、どう攻める?」
「当然。予定通り……正面から殴り込む」
「流石はリーダー! そう来なくっちゃ……な!」
ピンを抜いた魔道具が、扉に向け投げつけられる。棘が突き刺さることで扉に引っ付き、一拍置いて中の魔法が炸裂する。
衝撃と共に、木片や瓦礫が周囲に飛び散り、粉塵が巻き上がるも、追撃で投げ込んだ<風魔法>入りの魔道具で吹き飛ばし、視界を確保しながら一斉に室内への突入を開始する。
「待ち伏せは……無いな」
「意外だな。あんだけ一方的にやられて、何も対策無しか?」
エントランスと、正面には二階に上がる為の階段。
散々表で暴れていたため、既に相手も体制を整えていると思っていたが、その様子が一切見られない。それどころか、生き物の気配すらない。いっそ不気味ささえ覚える現状に警戒し、微かな気配すら逃さぬように押し黙る。
― ジャラリ -
そんな彼等に対し、上空から金属が擦れ合う音が降り注ぐ。
反射的に見上げれば、天井から幾本もの鎖が吊り下げられ、爆風に煽られたのか、ゆらゆらと揺れ動いていた。
「あん?」
「なんだ……ありゃ」
「ひ……と?」
それは……人。
皮を剥ぎ取り、肉を削ぎ、骨を削られ、無理やり人の形に成形したかのようなモノ。
どれ程時間が経っているのか、完全に干乾び崩れかけているモノ。
引き千切られ、ズタズタに欠損しているモノ。
原型を留めているモノですら贓物を引き抜かれ、ことごとく絶叫と苦痛に歪み、加工された肉の様に吊り下げられていた。
「うぉ…おぇ」
「人のする事じゃねぇ」
「後悔…覚悟。あぁ、あぁ分かったよ、漸く理解したよ旦那。確かにこりゃぁ、地獄だ」
その存在を認識したからなのか、空気が動いたからなのか……空間を死臭が支配する。
吐き気を催す不快感と嫌悪感に、耐え切れず嗚咽を漏らし、歯ぎしりを立てる。
「?」
「エッジ、どうした?」
「シ! ちょっと黙れ」
余りの惨状に嫌悪感に染まる中、何かを感じ取ったのか、エッジが階段の先を見据える。近くに居た者がその姿に気が付き声を掛けるも、それを制止し、そのまま意識を集中させる。
― ―
地の奥から響く様な小さな音。最早何の音か判断できない程小さなそれ聞き、焦燥感に駆られる様に走り出す。
後ろから掛けられる声を無視し、エントランスを駆け上がり二階へ。無駄に広い通路を進むにつれ、その音が大きく、ハッキリと耳へと届く。それを頼りに迷いなく、脇道を無視して突き進む。
― ぁ ―
後に続く者達も次第にその音の正体を察したのか、制止する声も無くなり、エッジと同様に進む速度が速くなる。
― ぁーーーーー! ―
突き当りに現れた扉を、躊躇することなく蹴破り、突入する。
二階に上がった為か、下階に降りる為の階段が左右に存在する踊り場に辿り着く。
「うぐ」
……最初に感じたのは、べたつく鉄錆の匂い。
視界に入るのは、一階から三階ほどの高さの、赤黒いシミがこびり付いた豪華絢爛な大聖堂と、肥え太った人間共。その足元に転がる様に蹲り、ゴミの様に踏まれ、跨らされ、許しを懇願する幾人もの亜人の女性。
― あ゛ーーーぁーーー!! ―
彼等の視線の先には、磔にされている亜人が、錆びついた刃欠けのナイフで皮を剥ぎ取られ、肉を切られ千切られ、素手で内臓を抉り出され、耳を劈く悲鳴を上げ……それを肴に人間共が酒を呷り、下種た笑い声を上げ……
「何やってんだ! テメェらーーー!!」
エッジの怒号が響き渡った。
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