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「あ~~~、まだピリピリしやがる」
「折角貰った装備も、全部取り上げられたしなぁ」
「あの杖、便利だったのだが」
「それを言ったら、あの盾だって!」

性能試験を兼ねて、試験的に渡していた装備も没収し、元々持って居た装備と道具のみとなっているレイモンドさん一行。回復してすぐに引っ張ってきたこともあって、ぐちぐちと文句が絶えませんが、素直に付いて来る。

これからして貰う事を考えたら、この時点で装備を渡す事は避けたいですし、装備に関しては少しの間我慢してもらいましょう。

「でっけぇ門」

 石畳で舗装された通路を進むと、ここ最近よく利用する様になった、門部屋に到着する。そこには、何もない広場と、壁に設置された<門>だけのシンプルな部屋です。

一度設置した<門>は、動かすことができない。
その代わり、出入り口を設置するのにDPが掛かるだけで、<門>同士の繋がりを自由に変更できるのは、想定外でしたが中々に便利ですね。お陰で、幾つも用意しなくともこれ一つで、他の<門>に自由に行き来できます。

(コアさん、西地下の<門>までお願いします)

~ 了解。迷宮【地下遺跡】の西<門>へ接続します ~

その特性を利用し、【世界樹の迷宮】の門を通って、目的地近くに設置した<門>まで移動する。

<門>が開いた先は、先ほど通ってきた通路と同じような石畳の通路。違う点を上げるのでしたら、光源が無く真っ暗な事と、少々埃っぽいことでしょうか。<門>の機能を知らなければ、ぱっと見は通路の延長か、外へと続く道に見える事でしょう。

「それで? とうとう俺達を追い出すのか?」
「ですね~、元の場所に帰れますよ、やったね!」
「「「「え~~~」」」」

 折角外に出られると言うのに、随分と不満そうですね?

「いや、ここ住み心地良いしよ~」
「風呂~」
「メシ!」
「訓練相手!」
「「「「帰りたくねぇ!!!」」」」

 ちょっと、染まり過ぎではありません? まぁ、それだけ、ここの環境が良かったという事なのでしょう。整えた側としては、悪い気はしませんがね。

 それに、一生戻って来るなと言う訳でもありません。依頼さえ完遂して頂ければ、いつ来ても構いませんよ。

「成る程、遠征って考えれば良いか」
「いや、ここは貴方達の家ではありませんからね?」
「じゃ、ここに家買うわ!」
「お、それ良いな!」

あぁ……うん。なら、それも報酬の一つにでもしましょうか。生活施設の近くに部屋を設ける位、別段手間でもありませんからね。

「よし! 何をすれば良い?」
「現金なんですから……やる気が上がる分には良いですがね。はい、到着です」

<門>を潜ってすぐに道はぷっつりと途切れ、その代わりに真っ暗、且つ広大な空間が目の前に広がっていた。

「ここがか?」
「暗いな」
「上下左右、奥行きも広い……穴、いや、剥き出しの谷?」

 俺が居る事と、周囲に生き物の気配が無いこともあって、穴を覗き込んだり、外側の壁面を触ったりと、油断していますね。

「こんな所に案内して、何させる心算だよ」
「なに、簡単な事ですよ」

― トン -

「「「「え?」」」」

穴を覗き込んでいた4人を、後ろから突き飛ばす。
警戒しておらず、突然のことで反応できなかったのか、こちらに振り向いた顔は呆気にとられていた。
地面を求めむなしく伸ばされる手足を余所に、ひらひらと手を振りながら彼等の出発を見送る。

「頑張って脱出してくださいね~」
「「「「ふっざけんなーーー あーーー ぁーーー!?」」」」

何もない空間に叫び声が木霊する中、四人は常闇の谷底へと落ちて行った。

「「「「へぶ」」」」

まぁ、すぐ下に足場はありますけどね。

―――

真っ暗闇の中、クッキーが発動した火の玉がボウっと浮かび上がり、周囲を照らし出す。

「あ、あの野郎……」
「たまにだが、ノリで行動するよな。あのダンジョンマスター」

余裕そうに振舞うが、その表情には緊張がありありと浮かんでいた。

「……広くて落ち着かねぇ」

 耳鳴りがするほどの静寂、灯は手元の火球のみ、身を隠す障害物も無い。奇襲されようものなら、一気に壊滅の危険性が出て来る。

「如何する? 俺なら明かりが無くても見えない事は無いが」
「やめとけ。もしここが、あの糞ったれなダンジョンマスターの領域なら、出て来るのが普通の魔物とは思えねぇ」
「一人になった途端、襲われるかもな」

 暗闇の中でも、ある程度視界を確保できる<夜目>系スキル。狩人だけあり、さらに上の中位スキル<暗視>を持つメメントが斥候をかって出るが、引き留められる。

 此処が何処か分からない、どれ程深いか分からない、地上までの道が有るかもわからない、そして何よりも……何が出て来るか分からない。

 ない、無い、ナイ、の分からない尽くし。早急に対処したいが、不用意に動けない。最大限に警戒し、お互いにカバーしながらじりじりと移動する。

「お、壁に横穴があるぞ」
「でかしたメメント。先導頼む」

 はやる気持ちを抑え、ゆっくり、可能な限り気配を消しながら、メメントが見つけた横穴へ入る。
 
「は~~~、人心地着いた」
「取り敢えず…今度会った時、あのすまし顔に一発ぶち込む」
「「「異議なし」」」

 一息つき、結束を新たにする4人。
踏み込んだ横穴は洞窟などでは無く、先ほど通った通路と同じく、石畳で作られた人工の道だった。

「先ずは状況整理だ、悪いがメメント警戒頼む」
「あぁ」
「クッキーは灯と探知結界。土の中から襲われたら、堪ったもんじゃねぇ」
「おう」

入り口付近では、外から急襲される可能性がある。奥へと進み、警戒態勢を整える。
 メメントが入り口を警戒し、クッキーが火球を放つことで視界を確保しつつ、地面に両手をつくと、侵入者を感知する結界を張る。

そうして一段落付くと、頭を突き合わせる三人。メメントも、外を警戒しつつ耳を傾ける。

「それで? 俺らは何すればいいんだよ、説明も無く突き飛ばしやがって」
「そもそも突き落とす意味が無いだろ!?」

開口一番、不満を口にするブラウとクッキー。どうやら相当根に持っている様だ。
特にクッキーの苛立ちは相当なものの様で、警戒態勢を整えてあるとはいえ、未知のエリアで声を荒げている。

「落ち着け、突き落とすのは俺もどうかと思うが、理由はちゃんと有ったと思うぞ」
「どういう意味だ?」
「あれだ、説明とかをしたくなかったんだろう。【真偽看破】の魔道具とか有るだろ?」
「あ~、成る程。知らなけりゃ、嘘はつけねぇ」

レイモンドが荒れるクッキーを諫める様に同意の言葉を発しながらも、可能性を口にすると、それに対しブラウが納得したとばかりに頷き、補足する。

 この世界には、相手の嘘を見破る魔道具やスキルが存在する。だが、それはあくまで本人が嘘だと自覚した上で回答しない限り、偽りを言っていると判断できない。つまり、元から知らなければ、嘘など付けない。

「だが、ここを出てどうする? 迷宮の事を話してはならないと、契約していたはずだが?」
「それは勘違いだな、契約書には、「【世界樹の迷宮】について」だ。世界樹の事を話しても良し、【世界樹の迷宮】以外の迷宮は契約対象外だ……で、ここは何処だ?」
「少なくとも、木の中じゃねぇな」
「もしくは他の迷宮か、【世界樹の迷宮】の一部か……あくまで憶測・・だけどな?」

つまり、真偽は定かではない、あくまで憶測。これならば、帰還した後に問い詰められたとしても、嘘をつかずに回答することが可能だ。
世界樹に関する事を問われでもしない限り、問題にはならないだろう。

「兎に角、俺達がやるべきことは、ここから脱出することだ。それが、あいつの目的に繋がるんだろうよ」

これから脱出を試みるここについての情報は、別段規制されていない。今までいた場所の情報を話せないのであれば、ここの情報を外に放つことが、ダンマスの狙いなのだろうと、レイモンドが締めくくる。そしてその考えは、粗方当たって居た。

「うんじゃ行くか。メメントとクッキーは後から付いて来てくれ、余裕がある俺が先頭を行く。ブラウは二人を中心に防衛な」
「「「おう」」」

 そうして脱出を開始する4人。彼等が地上へと抜けるのは、まだ先の事である。
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