ブチ切れ世界樹さんと、のんびり迷宮主さん

月猫

文字の大きさ
上 下
214 / 330

204 欲望の口

しおりを挟む

ゼニーさんも出掛けた、少ないですが拠点を中心に護衛も付けたので、遠方への護衛の質も上がった、土地の買い取りも任せて、資材も当分の量を屋敷の倉庫に置いてきた……うん、カッターナでやる事が無くなりましたね!

できる事が無い訳ではありませんが、無理してまでする事でもありません。定期的に様子を見るとして、その辺りの事は本職の方々にお任せです。
それに、余りこちらを疎かにする訳にもいきませんからね。

「しかし、本当に遠慮なしに伐採しますね、こいつ等」

 魔物と言う脅威がある世界なので、視界を広く取る意味でも、間違いでは無いとは思いますけどね? こんな事を続けていたら、ここら一帯更地になって仕舞うではありませんか。後先考えているのでしょうかねぇ……考えて無いだろうなぁ。

 まぁこの認識は、人間ケルドだけでなく、あらゆる知的生物に共通して居そうですがね。
なんせ、この世界に在るあらゆるモノの成長速度が、俺が居た世界の比では無い。それに地面が吹っ飛んだとしても、その分魔力が撒き上がるので、それを元に元の地形に戻る力もあるので、枯渇するなんて考えがそもそも無いのかもしれません。環境破壊などの考え方は、一般的ではないのでしょう。

(しかし、全く魔物が出て来ねぇな)
(楽で良いけどよ~、これじゃ稼ぎにならねぇよ)

 ダラダラと、緊張感の欠片も無く周囲の者と駄弁る人間ケルド共。
 森に潜む魔物達は、相手の数を見て警戒しているのか、積極的に襲うのを避けて遠巻きから様子を伺うに留めて居ますからね。大半の者は、魔物の影すら見ていない。2、3日程度ならいざ知らず、そんな日々が5日6日と続けば、緊張感も薄れると言うもの。

(そう言えば、モエーノの馬鹿連中は何処行ったんだ?)
(最近見ねぇな……帰ったか?)
(ここに居ても、飯は食えても、金にはならねぇからな~)
 
 それ故に、勝手に森の奥へと無警戒に足を踏み入れた獲物達は、暗殺紛いの襲撃に会い、一人残らず腹の中に納まっている。
 ときたま逃げ出すことに成功する者も居ますが……まぁ、逃がす訳も無く、隠密状態で監視している子達が綺麗に一匹残らず捕まえて、実験の被検体に成っていますので、情報漏れなし! 
 ……一部の者は、かなり警戒しているらしいですがね。流石に全部が全部、馬鹿では無いか。

(平和だね~)
(平和ねぇ……森の中で、警戒に当たってた奴らの一部が、勝手に奥まで行って帰って来ないとか有るらしいが?)
(魔物が居るとしたら、こっちに来ないとか有り得ねぇだろ。ここの方が多いんだからよ、もしこの森に居るなら、今頃、ワラワラ群がってきてるって)
(よしんば襲われたとしても、誰も気づかないとか有り得ないだろ)
(……それもそうか!)
(寧ろ、奥に何かあって、独占してんじゃねぇか?)

 そんな感じで、呑気に馬鹿な事を呟く人間ケルド共ですが……その時間も終わりなんですよね~。

~ 報告。【ケルド】が、迷宮【結晶峡谷】へ侵入しました ~

―――

 伐採を強制されている奴隷たちは、命令通り黙々と木々を切り倒し、一か所に積み上げていく。

 そんな彼等が作業する数メートル先の森の中、伐採作業を邪魔されない為に、雇われのハンター達が、森からの襲撃に備えて交代で巡回していたのだが、その内の一グループが、森の奥へと足を進めていた。死んでいった馬鹿共とは違い、明確な目的を持って。

「この先だ、間違いない」
「おぅ……やべぇな。俺でも感じられるぞ」

 彼等が感じ取ったのは、今まで感じたことも無い程に濃密な魔力。足を進めるごとに重く、纏わりつくように、濃厚なものへと変わって行く。
そして、日光さえ遮る深い森がぶつりと途切れ、急激に視界が開けると、彼等はその魔力の出所を目の当たりにする。

「な、なんだこりゃ」

 彼等の目の前に広がるのは、数十メートルはある断崖絶壁。その手前には、崖に沿う様に広がる大地が裂けたかの様な大穴。まるで外からの侵入者を拒む様に、何かを区切る様に……存在するだけで恐怖心を掻き立てる巨大な地割れが、南北に延々と続いていた。

 地割れを覗き込むも日の光が底まで届くことなく、全てを飲み込むような深淵から、今まで通って来た森とは比較にならない程の魔力が、湧水が湧くように滾々と溢れ出していた。

「やべぇよ…この穴、ぜってぇやべぇよ」

 地の底から溢れ出す魔力を感じ取り、彼等は即座に判断する。自分達が対処できるレベルを明らかに超えていると。

 魔力が濃い場所には、必然的にその濃度に見合った存在が生息する。強力な魔物が多数闊歩する危険地帯である。
 せめてもの救いは、周囲の魔力が薄い事だろう。これでは、強力な魔物は上がって来る可能性は低い。

「だが……低いだけだ。ゼロじゃねぇ」
「まさか、ここら一帯に魔物が居なかったのって、ここに生息する魔物を避けてたって事か?」
「もしくは、狩り尽くされた後……とかな」
「道中に在った何もない広場とか、骨の山とか……その名残か?」

 全くの偶然だが、決して的外れな考えでは無い。
そして、強力な魔物が存在する可能性が在るならば、幾ら数が揃おうとも、彼等だけではまず対処できない。撤退する理由としては十分だろう。

 だがここに来て、この地の支配者によって撒かれた仕掛け悪意が芽吹く。

「待て、なんだこれ?」

 穴を覗き込んでいた者が、崖の縁に、日の光を反射し輝く物体を発見する。そこにあったのは、透き通る小さな水晶体。よく見れば、地割れの壁面にもチラホラと散見できた

硝子クリスコウか?」
「いや、魔力を感じる、寧ろ流れ込んでくる?」

 その透明な見た目から、硝子クリスコウかと当たりを付けるも、拾い上げた者はそれを否定する。それは周囲から魔力を吸収し、しかし拾い上げた者へ流し込む、不思議な物体だった。
少なくとも、彼等はこのような物体が存在する事を知らない。存在したとしても、この近辺では流通していない、希少な物である可能性が高い。

 新種の物質の発見。そう何度もある訳では無いが、全く無いことでもない。今も尚、未開の地には人が知らない、未知の存在が溢れているのだ。
そしてそれらは、発見者に巨万の富をもたらす。その事に思い至った彼等の思考は、完全に欲望に染まっていた。命を懸けるだけの価値があると。

「集めろ、他の奴らに先を越されるな!」
「壁面にある奴の方がでけぇぞ!?」
「あそこ! 下の方に、色が付いたでけぇの見えねえか!?」

欲望を掻き立て引きずり込む、底なしの悪意と言う名の芽が今、開花した。
しおりを挟む
感想 482

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

処理中です...