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193 解放と契約①

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~ピピピ・ピピピ・ピピピ~
~おはようございます、マスター~
~領域より24,500 DPを回収しました~
~侵入者を撃退し、92,570 DPを取得しました~
~所持DPの端数を利用し、世界樹に対して<成長>を執行します~
~所持DPの超過分を利用し、<深化>を使用します~
~迷宮化が終了しております~
~テンプレート【大空洞】が完成しております~

「ん~~~……むふぅ。おはようございます」
「なのなの」

 体を伸ばし、ベッドから起き上がる。今日も一日頑張りましょうかね~。

「今日の飯~は、何じゃらほい、なの!」
「今日は、試したいのもが有るので、それを使いましょうか」

【倉庫】から、目的の物が入った小型の瓶を取り出す。密封してあるので、嗅覚の鋭い獣人クラスでも無ければ、中身を判断することは無理でしょう。

「なの? それは何なの?」
「焼き肉のたれ」
「肉なの!?」

これは、以前ゲッコーさんと一緒に、料理担当の方達と共に開発した調味料の一つである。タレ、ペースト、粉末と幾つか種類がありますが、その内の一つ、ペースト状のこれを~~~

「厚切り肉に塗りたくります!」
「!?」
「それをアツアツの鉄板で焼きます!」
「!!??」
「適度に焼き目が付いたら、ひっくり返して反対の面も焼きます!」
「にゅはう!?」

炊いたポロポロ草の実を御飯に見立てて、この上に焼いた肉を乗せる。

「ハイ! 焼肉丼、一丁!」
「なのぉう!? ウッマ!? ウッマウマなの!」

 うんうん、美味かろう、美味かろう。
材料さえ揃えば、量産も容易な万能調味料でありながら、味は秀逸ですからね。さてさて、俺は何味で食べましょうかね~。こってり甘辛か、さっぱり柑橘か……むむむ。

―――

「行ってきます」
「行ってらっしゃいなの! こっちは任せるなの!」

いや~、出勤だ何て何時ぶりでしょうね。着くのは一瞬ですが、世界樹さんから離れると、外に出たって感じがするんですよね。

<神出鬼没>も慣れたもので、意識することも無く、前日来た肉塊の執務室? に、落り立つ。処理は未だに、コアさん任せですがね!

「おはようございます、マイロード」
「おはようございます、ゴトーさん」

 出迎えてくれたゴトーさんに軽く挨拶を返しながら、近くのソファーに腰を掛け、手頃な台に足を置く。うむ、先ずこの部屋の整頓をしないといけませんね。ごてごてしていて、見ていると気分が悪くなります。

出勤と言えば、大体二ヵ月ぶりでしょうか。この世界に来てから、二か月程度しか経っていないんですね。以前でしたら考えられない体感速度です。<思考加速>とか多用しているのもそうですが、一日の濃度が濃いのでしょう。

さて、今日も今日とてお仕事お仕事。人族の国で活動するなら、俺が動いた方が見た目的にも、肉体的にも安全ですからね。皆さんも人形を動かせたらいいのですが、コアさんの支援を受けられないと、遠距離操作は無理の様ですし、自分の体と構造が違い過ぎるものを動かすのも、難しいらしい。感覚が全く違いますからね~、こればっかりは仕方がない。

慣れたら慣れたで、元の体に意識を戻すと感覚がズレて仕舞い、真面に動けなくなる可能性があるって、報告書に有りましたっけ。

「こちらが、この奴隷商に存在する奴隷になります」

ゴトーさんが纏めてくれた資料目を通す。
どれどれ……一貫性が無いですね。戦士、商人、性奴、子供に大人、何でも良いから掻っ攫って、売り飛ばすって感じでしょうか。これはこれで有り難いかな? どんな奴隷を買っても怪しまれない事になりますからね。

「では、この中で商売経験がある方を、ピックアップして下さい」
「第二フェイズ…資金確保用ですな」
「順番が逆になって仕舞いましたけどね~」

 本来は資金を確保した後に土地を購入し、領域をどんどん増やしていく予定でしたが、肉塊のお陰で、一足先に土地と外向き用の人材が手に入ってしまいましたからね。
 他も同様にやれば良いのでは? などの意見もありましたが、あれは周りを全部奴隷で固めていた肉塊が珍しいのであって、他はちゃんと自分で考えて行動する人間ケルドを周りに置いている。
 流石のゴトーさんも、一度に複数の人間ケルドの意識を誘導するのは大変らしいですし、予定通りに動きましょう。

「でしたら、こちらのお勧めをご覧ください」

ほうほう、お勧めときましたか。一晩のうちに、ここを完全に掌握した様ですね。流石はゴトーさん、手が速い。

ゴトーさんお勧めに目を通す、色々項目はありますが、奴隷契約時の条件は無視で、書類の情報は当てにならん。もし本当だとしても、この国では仕方がない状況が溢れかえって居そうですし、その点は本人を見て判断しましょう。

 見る項目は<鑑定>結果、純粋な能力ですね。<鑑定>では出ないユニークな能力もありますが、そうそうあるモノでも無いですし、もし持って居るのでしたら、それを元に何かしらの成果は上げているでしょう。そうでなければ、いちいち発掘などやっていられないので、配慮しない方向で。

「取り合えず、会って見ない事には判断が付きませんね」
「では、こちらに連れて参りましょう」
「そうですね……先ずはこの方達をお願いします」
「メルルル、承知いたしました」

目に付いた方をゴトーさんの連れて来てもらう。その間に、資料に目を通す。

「……パラン商会、ねぇ」

な~んで、商会のグループが丸々奴隷になっているんでしょうね?

「ねぇ肉塊、そこの所どうなんですか?」
「ちゅらない……でしゅ」

ッチ、使えねぇ。

― コンコン ―

 おん? 随分早いお戻りですね。何かあったのでしょうか?

「どうぞ」
「失礼いたします、件の方々をお連れ致しました」

 早……これは、近くに待機させていましたね?

契約がそのままになっているのでしょう、一言も口を利くことなく部屋へと入り、壁際へと並ぶ人達。だがしかし、その目と感情は驚愕に見開かれていた。その視線の先を追うと、俺の足の下に向かっている

「ぶ…ぶひゅ」

 あぁ、足置きにしている、肉塊が気になるのですか。考えて見れば、此奴のせいで、奴隷になったのかもしれませんもんね。

何故足置きにしているかって? こいつも同じような事をやっていたみたいなので、試しにやってみました。こいつは椅子にしていたようですが、布越しとは言え、流石にこれに尻を乗せる気になれなかったので、足置きで妥協した。
ですが、うん、やっぱり楽でも楽しくもないですね。脚を下ろし、ちゃんと座り直した後に向き直る。

「こんにちは、この地の新しい持ち主です、よろしくお願いしますね。楽にして、口も利いてかまいませんよ」

 行動の制限を解くと、各々手足を動かし、契約による拘束が緩んだことを確認する中、代表としてなのか、列から一歩前へと前へ出る。

「お伺いしたいことは多々ありますが……先ずは、貴方様の名前をお尋ねしてよろしいですか?」

茶髪で小柄の初老、丘人ハーフリングでしょうか? 優しそうな目元に皺をよせって……おうっと、一瞬普通に話しているかと思った。これ、よそ行きの口調だ。
こんな状態なのに精神が安定していると思ったら、商売人スイッチを入れて、冷静さを保っているようですね。これは中々……

「私はゼニー、バラン・ゼニーと言います、以後お見知りおきを」
「これはご丁寧に、俺の事はダン・マスとお呼びください」
「ダン・マス様ですね」
「どうぞ、お座り下さい」

前のソファーに座る様に勧めると、少々戸惑いの感情を滲ませながらも、表に一切出さずに静かに座る。うん、感情が見られなかったら、まず気が付きませんね。やっぱり対人能力極振りの相手は、怖いですね~。

「先ずは……こちらをどうぞ」
「これは……私達の罪状ですか」

彼等が奴隷になった理由であり、奴隷契約を結んだ契約書でもある。

「物資の窃盗との事ですが……まぁ、聞くまでも無く冤罪ですよねぇ」
「だとしたら、どうだと言うのですか?」

静かに、されど確かな怒りを滲ませながら、優しい物言いと声色に微かにドスが利いた声で尋ねられる。
説明しても良いのですが……口で言うよりも実行したほうが手っ取り早いでしょうし、びりっと、彼等を縛り付けている契約書を破り捨てる。

「「「な!?」」」
「なぜ……」

その行動を前に、目を見開き驚愕の声を上げる一同。軽くパニックを起こしている様で、こちらの行動の意味を理解できていない様ですね。それだけこの行動が有り得ない事なのでしょう。

そんな中、一番に冷静さを取り戻したのはゼニーさん。自分の手に視線を落としながら軽く動かすと、こちらを一瞥し後に無言で立ち上がり、そのまま扉まで歩くと、ノブに手を掛け押し開ける。

「す~~~……はぁ」

 一呼吸置いた後に扉を閉め、改めて俺の前のソファーに座り直す。

「……確認は済みましたか?」
「えぇ、どうやら本物の様ですね。まさかこんな形で開放されるとは、思ってもみませんでした」

 俺は楽にしていいとは言いましたが、自由に行動して良いとは言っていませんからね。逃走可能な行動がとれたことで、先ほど破棄した契約書が、本物と判断したのでしょう。
 こちらに確認を取らなかったのは、それが理由。俺が許可を出して仕舞いますと、先ほどの行動が意味を成さなくなりますからね。

「さて、これでちゃんとお話することができますね」
「話なら、奴隷状態でも可能なのでは?」
「自分の言う事しか聞かない人形に、興味はありませんね。俺は、奴隷でも無く仕事でも無く、貴方個人とお話がしたいのです」

勘違いとか勝手な思い込みとか、冤罪とか大っ嫌いなんですよね。
 それに、行動を縛った状態じゃ、相手の事が解らないじゃないですか。印象も悪いですし、これから長い付き合いになるかも知れない相手、仲良くしたいですからね。

「口調も戻していいですよ。それ、商売口調でしょう? 元はもうちょっと軽い感じなのでは?」
「仕事でなく、個人として……分かった。恩人の願いだ、この程度聞き入れなければ、男が廃るってもんだ」

 さて、先ずは何から聞きましょうかね……あ、他の方も座っていいですよ~。もう自由に動けるでしょう?
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