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166 竜王とダンマス⑩(帰宅)

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「では、フワフワさん、プルさん、ゲッコーさん、後のことをお願いしますね」
「はーい!」
(((行ってきま~す)))
「なぁ、主。俺で良いのか? 本当に良いのか!?」

準備も終わったのでお見送り。
フワフワさんは運搬用員。プルさん……達は、<群体>を利用しての、通信要員。
最後に喚いているゲッコーさんは、料理人としての参加です。なんせ、全部新種の食料ですからね。食べ方を教えないと、危ないモノもある。調味料を丸かじりとか、舌が死にます。

なので、料理担当も一緒に行って貰う事にしたのですが、往生際の悪い事に出発間際になってなお、自分で良いのかと聞いてくるゲッコーさん。満場一致で貴方に推薦が上がったんです、諦めなさい。実際、ゲッコーさんの作るモノは、何でも美味しいですからね。

「ダンマス」

エディさんが、片手をこちらに向けて伸ばしてくる……この手は、何でしょう?

「これからもよろしく頼む」

……あぁ、握手か! こっちにもそんな文化が有ったんですね~。獣人さん方には無かったので、てっきり無い文化なのかと思っていました。
なんせ、接触することで発動する、ヤバイスキルとか少なくありませんからね。

「はい、よろしくお願いします……取り敢えず、お互いに直接本体に会えることを目指しましょうか。手加減の練習、頑張ってくださいね? 今回みたいに、毎度手を潰されたら、叶いませんから」
「あ……あははは……善処するよ」

怒っていませんよと、潰れた手を揺らしながら穏やかに指摘すれば、ばつが悪そうに謝罪して来る。うちの子達も、頻繁に行き来することになりそうですし、本当に頑張って下さいね?

「では、さらばだ!」

竜族の方々が、次々に飛び立っていく、そんな中……

― ドン! -

「ヒャッハー!!」

始めからトップスピードで突っ走るゲッコーさん。おい<走り屋>、メインゲストを置いて行くな。

「はっや」
「あ~セスティア、追いかけなさい。君じゃないとあの速度に付いて行けない」
「承知いたしました! フン!」

猛スピードで、ゲッコーさんを追いかけるセスティアさん。う~ん、流石のゲッコーさんでも、逃げ切りは無理っぽいかな~。

そんな取り留めのない事を思いながら、その姿が見えなくなるまで見送り、領域内からも、視界内からも、その姿を捕らえることができなくなった。

― ぽて -

「ヒュー、ヒュー、ヒュー」

肩車状態で共に見送りをしていた、端然と振舞っていたルナさんが、俺の頭の上に頭を乗せる様にぶっ倒れる。

「そんなになるまで、無理すること無いでしょうに」
「他陣営に、弱み……を、見せる……訳に、は……いけませんわ」
「意地張っちゃって」
「意地も通せば、道理も引っ込みますわ! あ……あうあうぅあっあぁうあ~~~」

頭を抱えて、悶えだすルナさん。相当頭を酷使していましたからね、今は地獄の苦しみを味わっているのでしょう。

「頭が痛いんでしたら、大人しく寝てなさいな、自分の体調を管理できない者は、早死にしますよ?」
「クワァ……弱さを認めるのも、強くなる一歩と思う事に致しますわ~」

それが良いでしょうね。頑張った後は、ちゃんと休まないと、身も心も伸びなくなりますからね。メリハリが大事です。

―――

エディさんが去り、ルナさんを寝かしつけた後、後片付けなどこまごまとしたことを全部丸投げし、自室のベッドに直行した。

「うんぁ~疲れたよ~」
「お疲れさまなの」

緊張がほぐれたのか、一気に疲れが襲って来た。
余所の相手と会話するのもそうですが、人形へリンクするのも、思っていた以上に負荷がかかる様ですね。練習するなり、スキルと魔術の構成を見直すなりしないと。

「竜王はどうだったなの?」
「良い方でしたよ、良い関係で居られそうです」

思っていた以上に、エディさんが良い方で良かった。あれ程見ていて安心する方も珍しい、てか、純真すぎます。直視できない方なんて、初めての経験でしたよ。

向こうでは、あんな方を見る事はまずありませんからね。そんなのが居たら、すぐに食い物にされるか、ウザがられて除者にされるか……消えるか、歪むかして居なくなりますからね。
強いから、相手に合わせる必要が無いんでしょう、後は当人の性格次第と。

「なら、北は気にしなくても良くなったなの?」
「ですね~。それにこれからは、DP入手量が増えるでしょうし、金属の入手が容易になりましたから、色々できる様になりましたよ~」

今まで問題になっていた、金属資源の入手と、竜族の訪問によるDP回収量アップ。これは、かなりデカイ。
対価も、溢れる程有る食料ですからね。安い安い。

「くわぁ……」

 やれることはまだありますが、今日はもういいでしょうかね。メリハリ、大事。てかもう眠い。
竜族のDP回収量は多いですからね~、集計結果は明日。幾らぐらいになるでしょうね~楽しみにしておきましょう。
そんな事を思いながら、眠りについた……。

―――



こつ……こつ……と地面をける音が、静寂に染まった夜に鳴り響く。
その音から、二足歩行……それも、人に近い存在である事が想像できる。だが、それは有り得ないことだ。何故ならここは、数多の竜が住まう竜の谷の最深部、竜王であるエゼルディアが眠る間。唯の人如きが、一人で到達できる場では無い。

薄く目を開き、音の鳴る方向へとその瞳を向ける竜王。地上からの唯一の通り道である洞窟から、何者かが歩み寄り、月明かりに晒される事で、その姿が露になる。
その姿を捕らえると同時に、まるでその場にいるはずがない存在を見たかの様に、その目は驚きに染まる。それは、最近できたダンジョンへと放った、彼の分身の姿であったのだ。

少なくとも明日の朝まで掛かると思っていた竜王は、余りの帰還の早さに眉を顰める。もしや、接触に失敗したのか? とも思ったが、その目に映る分身の顔は晴れやかなものである。

何故と問いかける事はぜず、自身の分身が近づいてくるのをじっと持つ竜王。その分身は自身に触れると同時に、まるで幻だったかの様に消え去って仕舞った。

「ふふ……あぁそうか。確かに私は馬鹿だな」

そんな呟きと同時に、幾枚もの白銀に輝く鱗が、竜王の体から舞い上がり、その一つ一つが何十、何百もの竜や人の形を取った分身へと形を変えていく。
記憶と経験を共有できる分身によって、ダンジョンでの出来事を知った竜王は、早速とばかりに分身を使った、訓練を始める。

仲間をすべて失って200年。

今までの孤独と喪失感を埋める様に、新たに友となった者を思う。

記憶と経験を共有しても、感情までは共有できない。できたとしても、それは経験を元にした予想でしかなかない。故に、竜は羨望する。

「あぁ……早く本当の君に会いたいよ、ダンマス」
 
その夜、幾つもの硝子が割れる音が鳴り続いた。
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