ブチ切れ世界樹さんと、のんびり迷宮主さん

月猫

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129 獣人さん、交渉しましょ?

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「旦那、ちょっと良いか?」
「なんだ?」
「こっちで、頼みたいことが出た」

離れて聞いていた獣人さん達から、声が上がる。
まぁ、粘液スライムさんを通じて、内容は既に把握していますけどね。

「何かあっただろうか?」
「北に行った連中も、ここに住めないだろうか?」

西へ直接移動した者達は、現在何処に居るか分からないが、北に向かった者達の位置ならば予測できる。彼等獣人達の移動速度と、分かれた場所を参考にすれば、早くとも竜の谷の麓辺りに居ると思われる。
その場にとどまっていればよし、移動しているのであれば、何もない荒野なので、上空から探せばすぐに見つかる事でしょう。

逆に、すぐに見つけないと、トカゲモドキ共に見つかる可能性が高い。迎え入れるなら、早めに行動するべきでしょう。

「さらに増える事になるが、大丈夫だろうか?」
(構いませんよ。今の規模が倍に成る位なら、支障は有りません。そうなると、先ほどと同じようなものですね……時間も無いですし、こちらで手配することにしましょうか。誰か迎えに行ける子居ませんか?)
(では、僭越ながらわたくしが向かいましょう! 同じ竜族ならば、遭遇したとしても、他種族より話になるかもしれませんわ)

立候補したのは、竜族であるルナさん。
確かに、俺から見てもそうですが、竜族から見たら、ルナさんはかなり可愛いようですし、少しは話になるかもしれないですね。
しかし、一体で行かす訳にもいかない。同行者と、獣人からもお仲間さんへの説明役に、何人か来て欲しいですし、その運搬係も必要ですね。

(同行者は、わたくしの配下を何頭か連れて行きますわ。ですが、他者を運ぶのには適していませんので、運搬係をどなたかお願いいたしますわ。噴竜、斬竜、付いてきなさい!)

おや、外で他の竜族と遊んでいると思ったら、配下なんかになっていたんですね。後で、ご挨拶しておかないと。
運搬の方は、移動速度と乗り心地を考えると~……

「フワフワさん、お願いできませんか?」
「僕? いいよー」

フワンフワンと、フワフワな翼を羽ばたかせるフワフワさん。
スキルを合わせれば、余裕で運べますからね。乗り心地は、見た目からお察しである。

モフモコフワ豪華三点セットが崩れますが、既に世界樹さんは夢の中。問題は無いでしょう。

(ってことで、問題ありませんか?)
「何から何まで、申し訳ない!」
(こちらも、打算があっての事ですよ。お互いに利益のある事です)

実際、人が増えるのはかなり有り難い。DPの回収量が増えますし、ダンジョン内で死亡するなら、それも直接DPになります。こちらが損することは無い。

何よりも、情報収集源が増えるのが有り難い。
今はゴトーさんを筆頭に、エスタール帝国に潜入していますが、取得できる情報も限られますしね。

東、アルベリオン王国(仮想敵国)
南東、イラ王国(排他的宗教国家)
南、カッターナ連合国(犯罪の温床)

……周りに面倒くさい国が多すぎる。エンバーには、獣人さん方に交流を持ってもらい、そのついでに情報を貰えればよし。その代わりに、ゴトーさん達にはカッターナ連合国の方を、お願いしましょうかね~。

「では、対価は如何なものを用意すればいい?」
(そうですね。一つ、獣人さん全員に結んでいただきたい契約があります)
「……内容は?」
(なに、簡単な事ですよ。世界樹さん…先ほどエルフ爺様が仰っていた、女神様の相手をお願いしたいのです)

これだけでは分からないでしょうから、ここで、これまでの経緯を説明する。

現在、世界樹さんはとても立派に成長しましたが、その姿に似合わず、精神面の成長が付いて行っておらず、未だに幼い。
その原因は、エルフモドキ共のせいで、初期の成長が阻害されたことから始まる。
仲間は殺され、歪に成長した状態では毒にも抵抗できず、自身も死にかける。幼い世界樹さんが、精神を病むには十分な経験でしょう。

世界樹さんが大きくなることに拘るのは、見栄だけでなく、未だ消えない恐怖心から来るものが大きい。少しでも大きく、頑丈に。領域を広げ、近づけないように。

そんな世界樹さんは、未だに精神的に不安定。そして、その精神安定の為、世界樹さんの趣味の為、獣人さん達にはその相手、正確にはモフり対象になって貰いたい事を話した。

(世界樹さんは、モフラーなんですよ)
「もふらー?」
(他者のモフモフな毛を愛でるのが好きな方のことです)
「「「あぁ、エルフ爺さんの同類か」」」

ビャクヤさんに乗った時に察していましたが、やはりですか。さては、モフモフの為に住み着きましたね。
やはり、世界樹さんと相性良いのでは? とも思ったが、同じ趣味って事で、咽び泣いているエルフ爺様の姿を見ると……うん、無いかな~。

「行く人、決まったよー」

鼠人のチェットさんを筆頭に、猫人に兎人と小柄な方が中心。あと、鳥人が何人か。そして……

(リリーさんも行くんですね?)
「リリーの言葉なら信用を得られるからな」
(族長の孫だから…では無いでしょうね。何故ですか?)
「……あれ? <鑑定>して無いの?」
(初対面の相手に<鑑定>を掛けるのは、失礼な行為だと記憶していましたが、獣人は違うので?)
「「「……」」」

なぜ皆さん、呆れたような視線をこちらに向けるのでしょうか?

「な! いい奴だろ?」
「リリーがそう言うって事は、本当に嘘言ってないんだな」
(……どういう意味で?)
「見て見ると良い、そうすれば分かる」
(おや、見ても良いのですか?)
「これから世話になるだろうからな、その程度問題ない」
「バッチ来い!」

そうゆう事なら、遠慮なく。

名称: 犬人
氏名: リリー
分類: 現体
種族: 獣人族
LV: 4
HP: 100 /100
SP: 100 /100
MP: 158 /158
筋力: 48 
耐久: 48 
体力: 40 
俊敏: 83 
器用: 43 
思考: 73 
魔力: 73 
適応率: 25(Max100)
変異率: 1(Max100)
スキル
・肉体: <状態異常耐性LV1><毛皮LV1><HP回復上昇LV2><MP回復上昇LV1>
     <魔眼(虚偽)>
・技術: <身体操作LV1><魔力操作LV2><土魔法LV1><風魔法LV1><感知LV2>
・技能: <身体強化LV1>
称号:  <巫女見習い>

ほうほう、ステータスは普通に子供の範囲内ですね。どちらかと言うと魔法使いタイプ、しかも<魔眼>持ちですか。

<魔眼(虚偽)>:他者の嘘を見抜くことができる。

あ~なるほど。確かに、これなら信用されるのも頷けますね。

「一度でも嘘を吐いた相手には、身内にすら警戒心を持つからな、こいつ」
「リリーがこれほど懐く奴は、見た事が無いんだ。十分、あんたを信用する理由になる」
(……確かに、リリーさんに嘘を吐いた覚えはないですね)

妙に懐いていると思ったら、このスキルのせいでしたか。
……気持ちは良く分かります。自分を騙そうとする相手と、一緒に居たいとは思わないですよね。
こんなスキルを持っている割には、随分と素直に育ったものです、周りの環境が良かったのでしょう。普通なら、人格が歪んでいたとしてもおかしくない。

しかし、このスキルはかなり危ういものですね。後で検証をしておいた方が、リリーさんの為になりそうです。それよりも、気になる称号が……

(……巫女?)
「ふっふ~ん! そう、私は審判の神、テミの巫女なの!」
(……へ~)
「……いま、似合わないとか思ったでしょ?」
(ソンナコトナイデスヨ?)
「あーーー! 嘘ついた、嘘ついた!?」
(ハッハッハ)

成る程、成る程。直接視界に入れなくても、効果が有るんですね。怖い能力だな~。

「ん?」
「なんだ……霧?」

リリーさんと戯れていると、獣人さん達の周りに、白い霧が立ち込める。フワフワさんが到着した様ですね。
フワフワさんはそんなに速くないので、到着に少し時間が掛かって仕舞った。獣人さん方と普通に会話していますけど、世界樹さん自体が大きいので、ここから皆さんが居る所まで意外と距離があったりしますからね。

(やっほー! こんにちはーーー!)
「うぉ!? どこだ?」
「ふむ、この霧自体……かのぅ?」

あ、エルフ爺様が復活した。
しかし、そこに気が付くとは、伊達に長生きしてないですね。同行予定の方たちの周りに、霧状のフワフワさんが集まって行く。

(運ぶのは、君達?)
「う、うん」
「私達は、飛んで付いて行くね~」

あ、鳥人さんが同行者に居ると思ったら、自力で飛んで行くつもりでしたか。しかし、う~ん……

(申し訳ないですが、多分付いて行けないと思いますよ?)
「何ー!? 私達を舐めるなよー!」
「そうだそうだー! 外敵を気にしなければ、速いんだぞー!!」
(そうですか?)

……まぁ、ダメなら、フワフワさんに運んでもらえばいいか。

挨拶もそこそこに、移動を開始してもらいましょう。話なら移動中でもできますし、今回は少しでも早い方が良いですからね。
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