上 下
129 / 330

121 トリマー

しおりを挟む
脇に設置した隠し通路を通り、犬っ子獣人を小脇に抱え、地下の風呂場まで落ちてきた。

「おぉーーー……すげぇ」

犬っ子獣人が感銘の声を上げる。
ふふん、そうだろう、そうだろう。美しさと機能美を併せ持つ、皆さんと一緒に考えた自慢の施設ですからね。恐怖心すら薄れる、芸術的なできでしょう! 

「服も洗っときますから、脱いだ脱いだ」
「え゛?」

今までの感動はとこに行ったのか、一気に怯えた出す犬ッ子獣人。一体俺が何を言ったと。

「わ、わたし、こ、子供だよ?」
「知っていますよ?」
「胸だって小さいよ?」
「見りゃ分かりますよ?」
「お、お父さんとお母さんが言ってた、そういう事は、大人にな―――」
「はいはい、寝言をほざく位眠いなら、これで目を覚ましましょうね~」
「ワッフゥ!? キャイン!?」
「キャー!? 水イヤー!?」

柱に取り付けたコックを捻ると、水がシャワーの如く降り注ぐ。ふふふ、この風呂も、地味に進化を続けているのですよ。
真っ平だった天井は、アーチを垂直に交差させた、半球にくり抜いた様な形状になり、天井で結露した液体を柱に誘導する形状になっている。
その水を溜めて、配管等を調整、シャワーとして利用している。意外と好評らしく、利用者も多いらしい。

今回は不評の様ですがね、どうやら水浴びは御嫌いなご様子。そしてビャクヤさん、貴方もですか……。

「目が覚めましたか? だったらさっさと脱ぐ。子供に欲情する趣味も、溜まってもいないわい。そもそも貴方、女だったんですね」
「えぇ、そこから!?」
「初めて獣人に会いましたからね、見分けが付かないんですよ」

仕方が無いじゃないですか、全身体毛に覆われて、顔だって犬面なんですもの。体型だって真っ平ですし、性別何て、俺じゃ見分けが付きませんって。

渋々と言った感じで脱ぎだす犬っ子獣人、改め犬っ娘獣人。
「私だって」とか、「これでも」とか、ぶつぶつ言っているが、気にせず観察する。
襲われたのは間違いなさそうですね。元気そうだったけど、意外と深い引っ掻き傷やら噛み傷が、体のあちこちにみられる。

「ぬ、脱いだよ!」
「あいあい、取り敢えず、その汚れ洗い流しちゃいましょう、ほい」
「キャー、また水~~~!?」
「傷に汚れが詰まったまま治すと、体の中に残る可能性が出てきますからね、そろそろ諦めなさい。顔は避けてあげますから」

傷の方は薬湯に浸かれば治るでしょうし、俺はこの子の毛並みを整えることに、全力を尽くしましょう。
石鹸よーし、トリートメント用のオイルよーし。磨くぜ~、磨き上げるぜ~。

―――

わしゃわしゃわしゃ……

「あ~~~、そこそこ~~~」

泡塗れで、羊の様になった犬っ娘獣人の体中を洗う。
ふむ、体の構造は殆ど人と同じかな? 専門家では無いので細部までは分かりませんが、違うのは体が体毛で覆われているのと、手足に肉球が付いている程度っと。
あ、あと頭が犬ね。その割には表情とか結構豊かだから、表情筋とかの構造も違いそうですね。
耳の後ろもわしゃわしゃ。そして、水だばー。排水は専用の穴が有るので、そちらに流れる。湯舟と洗い場は、ちゃんと分けていますとも。
粗方洗い終わったので、傷に効く薬湯に移動。

「ふへ~~~……」

うん、今日も良い湯加減です。俺は夜に入るので、今は足だけで。

「ビャクヤさんも入ったらどうです? 足とか、結構汚れているでしょ?」
「う~~~」
「気持ちいーよ?」

犬っ娘獣人も大分慣れたのか、すらすら言葉も出る様になった。
最初は、ビャクヤさんに怯え切って金縛り状態になっていたと言うのに、襲ってこないと分かったからか、今では普通に話しかけますからね。子供の適応能力は凄い。

ビャクヤさんは、未だに濡れるのがお嫌いのご様子。食わず嫌いならぬ試し嫌いじゃ無ければ、一度試してみればいいのに。雨で濡れるのとは別物ですよ?

「ふむ……せっかく、ビャクヤさん用の大型ブラシ、用意したのに……」
「ワッフゥ!? 入る~~~!」

うん、チョロいわ。後で犬ッ娘獣人共々、盛大に梳いてやりましょう。

さてさて、そろそろ話を聞きましょうかね? 
先ほどは、洗うのに熱中しすぎて、話を聞くのを失念していましたし、その前は警戒しっぱなしというか、やけくそ感が半端なかったですからね。仕方がない、うん!

「そろそろ、お話しできますか?」
「うん!」
「まずはお名前から」
「リリーだよ」

ほうほう、リリーさんですか。

「リリーさんは、何であんなところに居たんですか?」
「えっとね~―――」

子供の話すことな為、何度も脱線するが、その内容だって立派な情報である。獣人の生活も伺えますし、本人も楽しそうに話すので、聞く方も精神的に楽です。聞き返したことにも、はっきり答えてくれますしね。

狩りをしたり、親の手伝いで料理したり
時々、他の集落を巡っている人、多分商人ポジションでしょうね、その人と物々交換で、野菜とか薬、道具なんかを交換して貰ったり
同年代の子と遊んだり……

そんな穏やかな日常の中、突然ケガをした大人たちが、沢山運ばれてきたらしい。
何故ケガをしていたとか、規模とかは知りませんでしたけど、その後に直ぐに荷物をまとめて、移動を開始したのだとか。

相当急いでいたんでしょうね、狩りやら採取やらで、食料や道具を集め、一か月近くサバイバルしながら移動していたらしい、完全に強行軍ですわ。
二十日間位を東から西へ移動し、森が途切れたら南に移動。そして、ここに辿り着いたと。南下する時に、幾つかのグループに分かれたみたいですけど、大丈夫ですかね?

特に西の荒野へ移動したグループ。
何もない荒野で、方角とかどうやって判断するのかと思ったら、リリーさん曰く、そんなの何となく分かるんだとか。獣人半端ないですわ。

今までの話を聞くに、リリーさんが居た集落は、ここから東北東の位置みたいですね。
しかも、その集落の北には一帯の森を統べる獣人の国が有り、川を挟んだ南には人間の国があるとの事。

人間の国について本人は、詳しい事情は知らなかったですが、大体予想はできる。
つまり人間の国が、リリーさんが住んでいた森の中の集落にまで、進出してきたってところでしょうね。まぁ、そこら辺の事情は、大人の獣人にも聞きましょうか。

……東北東の南、つまり、ここから東にある人間の国……ねぇ。こちらとしても、無関係な話では無さそうですね~~~……

そんでもって、最初に俺と会った時、何故怯えていたか聞いたら、親に散々言われていたらしい。
殺される、攫われる、犯される……叱りつける時の常套句ってやつですね、いい子にしないと~~~って感じです。かなり内容は過激でしたけど。
つ ま り は、そいつら…その国のせいで、俺ってか、人間が恐怖と嫌悪の対象になっていると。

ほうほう、ほうほうほうほうほう……やってくれましたね、ただでさえ少ない交渉要員(迷宮主)が、使えなくなったじゃないですか。事と次第によっては、容赦する理由が消えますね~。
……ちょっと、本気で国落としでも考えてみますか。元々、滅ぶのは確定事項でしたし……ねぇ? 
しおりを挟む
感想 482

あなたにおすすめの小説

スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
 15歳ですべての者に授けられる【スキル】、それはこの世界で生活する為に必要なものであった。  世界は魔物が多く闊歩しており、それによって多くの命が奪われていたのだ。  ある者は強力な剣技を。またある者は有用な生産スキルを得て、生活のためにそれらを使いこなしていたのだった。  エメル村で生まれた少年『セン』もまた、15歳になり、スキルを授かった。  冒険者を夢見つつも、まだ村を出るには早いかと、センは村の周囲で採取依頼をこなしていた。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...