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【閑話】 仲間の増え方
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ゆらゆらと、ゆらゆらと……何かの中で漂い続ける。
心地よい何かの中、漂い続ける。
不安も、恐怖も、飢えも、疑問も……何もない。ただただ、ゆらゆら、ゆらゆらと……
………………………………
…………………………
……………………
………………
…………
……
―――
「…………」
気が付いたら、“俺”が居た。
何時、何処で生まれ、俺が何なのか、ここが何処なのかすら分からない。
……霞掛かった頭が晴れてくると、ようやく周りが見えてきた。
暗くだだっ広い空間に、頭上に空いた穴から差し込む、何筋もの光。
地面には、淡く光る水溜まりがあった。
俺の他にも、同じように周りを見回している奴がいる。細部が違うが、殆ど同じ奴だ。
自分の体を、見える範囲で確認してみる……特徴が同じだった、どうやら同種の様だ。
これからどうしようかと悩むも、何をしたら良いか分からない。差し当たってしないといけないことは……
― グ~~~…… -
食事だな。
早く何かを食べないと。そう思い周りを改めて見まわすが、何も見当たらない。飲み物は……この光る湖の水を飲んでも大丈夫なのか?
分からない事だらけだ。
期待はしないが、周りの奴が何か知っているかもしれない。近くに居た奴に近づき、声を掛けようとした、その時―――
― キシャーー!! -
唐突に上がる叫び声。その方向を見ると、自分よりも一回り大きな奴が、視界に入った。
そして理解する。俺たちが居る環境は、悠長に考え事をしている余裕がある程、生易しい環境ではないことを。
叫び声を上げていた奴は、近くに居た小さい奴を襲い、喰らったのだ。
このままここに居ると、アレに食われる……
まだ距離があるが、それ程離れている訳でもない。体格の差もあるから、狙われたらその瞬間終わり、戦うなんてもっての外だ。
早々に逃げることを決定し、道を探すために壁沿いを進む。
その道中、俺と同じ奴同士が争っている姿を何度も見かけた。
中には、一体に対して複数で襲っている奴もおり、無残に食われていく姿もだ。
だが、そんな中を生き残るやつがいた。何体も同時に相手をし、傷だらけになりながらも、なお且つ生き残っていた。
その様子を見ていたが……その変化は劇的だった。
骨が軋む音と共に、体が突然肥大化したのだ。どんどん存在感が増していき―――
― キシャーー!! -
あのデカい奴と同じ姿となったのだ。
一連の流れを見て理解する。
戦い、喰らい、生き残れば強くなる。
食うか、食われるか……死と殺しが日常の世界。それが、俺が生まれた世界だった。
―――
壁に空いた穴を見つけ、すぐに潜り込む。その穴は小さく、大きく成った奴では入ることはできないだろう。
更に奥へと進むと、その穴は上へと向かって伸びていることが分かった。
このまま進めば、明かりの下、外へと出られるかもしれない。逸る気持ちを抑え、慎重に進んでいく。
道中は何事も無く進み、辿り着いたのは、森の中だった。
少し開けた場所に、ぽっかりと空いた穴から顔を出す。周りには……何も居ない。警戒しながらも外へと這い出る。
取り敢えずの危険は無さそうだが、この開けた場所は落ち着かない。直ぐに逃げ込めるように、穴の近くで行動するか、視界が遮られる森の中へ駆け込むか……
― ガサ -
「!!??」
そんな事を考えていると、隣から音がした。
反射的にそちらを向くと、俺と同じ奴が顔を出し固まっていた。
襲われる可能性を考え、咄嗟に身構える。今の状態なら、顔だけ出している相手よりも。俺の方が有利に行動できる。
改めて、相手の様子をうかがう。襲われたのか、その姿は傷だらけで、息も絶え絶え。なお且つ……片足が無かった。
思い返すのは、無残に食われていく奴らの姿。
食うか、食われるか
生きるためには食わなければならない。
殺さなければ俺が食われる。
そして何よりも、殺せば強くなる。
俺は、片足が無いそいつを……食い殺した。
―――
自分より弱い奴を殺し、喰らう。
時には安全な場所を求め、殺し合う。
自分より圧倒的に強い奴が、更に強い奴に食われていく。
逃げて逃げて逃げて逃げて、戦って戦って戦って戦って、食って食って食って食って、殺して殺して殺して殺して……
そんな中生き抜いていき、気が付いたら俺は……強者になっていた。
弱かった頃に見た強者も、今の俺なら簡単に捻りつぶせる。
周りの奴は、俺の姿を見ただけで逃げていく。
俺を害する奴は居なくなり、全ては俺のエサと化した。
隠れることも、血を這いずる事も、飢えることも、ケガを負うことも無くなった。そこまで来て、漸く俺は安堵を得た。
そこでふと思った。あそこには、何があるんだと。
見上げるのは、頂上が見えない程に巨大な樹。何かしら、特別な場所なのは間違いない。
そうでなくとも、あそこからならここを一望できるだろう。
余裕ができたからか、今まで考えなかったことを考える様になっていた。
生まれたことに疑問を覚えるなんてことは無かったが、自分の出生には興味がある。
あそこに行けば、何かわかるだろうか?
―――
今まで足を踏み込んだことのない場所を、大樹へ向けて進んでいく。
途中、違和感の様なものを感じることがあったが、気にせずに進むと、そこそこ強い奴と遭遇することがあった。
そして、そいつを食い殺したら、その違和感が消える事が分かった。
そして、またその違和感を感じとった。どうせまた雑魚だろうと思い、構わず進む。
そして俺は、そいつに出会った。
「すー…すー…」
黒い頭に、白い体毛に覆われた体。
特徴的なのは、透明な深青色をした、渦巻き状の角。その角の中では、幾つもの色の輝きが煌めいている。
今までに見たことのない奴が、眠っていた。
そう、眠っていたのだ。俺を前にして、何ら警戒もせず、無防備な姿を晒していた。
これでは殺してくれと言っている様なものだ。
俺は、その阿呆に向かって進んでいく。それでも、そいつが起きる気配がない。
すぐにでも飛びかかれる距離になって、ようやく初めての反応が見られた。耳がぴくぴくと動き、緩慢な動きで瞳が開かれ、こちらを向く。
ようやく気付いたか。よく今まで生きて来れたものだと、呆れてしまう。
まぁ、気が付いたところで、死ぬ事に変わりは無い。どんな行動に出るか、どの様な抵抗をして来るかと身構えるが、そいつは予想だにしない行動をとった。
(……は?)
眠そうな目で俺を一瞥すると、興味を無くしたかの様に視線を逸らし、また眠りについたのだ。
一瞬、なにが起きたのか理解できなかったが、次第に怒りがわき上がってきた。
(俺を無視するだと!?)
逃げるでも立ち向かうでもなく、まるでどうでも良い事の様な対応をしたのだ。
雑魚が舐めた態度を取ると、どうなるか教えてやる。そう思い、そいつの目の前まで近づくと、前足を振り上げる。
後は、この足を振り下ろすだけ、それでこいつは簡単に死ぬのだ。だと言うのにこいつは、未だにこちらに興味を示さない。
(死ね!!)
苛立ちを込めた一撃が、頭へ振り下ろされ―――
「……? ……!? ゲボ! ゴホ!?」
突然襲う激痛。競り上がってくる吐き気。気が付いたら、目の前に居たと思った奴は、いつの間にか移動していた。
……いや、違う。あいつは、さっきと全く同じ体勢のまま、同じ場所にいた。
(吹き飛ばされ…た?)
そう、相手が移動したのではなく、俺が吹き飛ばされたのだ。
痛みは、腹と背。
後ろを見れば、中ほどで折れた木があった。腹への攻撃で吹き飛び、後ろの木に背中から激突したのだと思われる。
何をされたのか全く分からなかったのは、前後の記憶が無い事から、意識が飛びでもしたのか?
どれ程の時間、無防備だったのかは分からない。しかし、相手が俺を容易に殺せる状況であったことに、間違いは無いだろう。だと言うのに、相手はその素振りすら見せていない。
「~~~、ギ~~~…ガァーーーーー!!!」
歯を食いしばり、痛む体を引きずりながらも起き上がる。そんな俺の姿に対して、まるで煩わしいものを見る様な視線を向けてくる。
「……何用?」
「!?」
話しかけてきた!? 何故? 今なら簡単に殺れるだろう。
……そうか、先ほどの一撃は、何度も撃てるものでは無いのか! あの不動の体制も、無駄な力を使わない為。ならば、やり様はある!
「ガァ!!」
<自己回復>で傷を癒し、<身体強化>と<集中>を発動!
臨戦態勢になった俺を見て、相手も動きを見せた。先端に毛玉が付いた、黒く細長いツタの様なものが、ゆらりと持ち上がる。あれは…尾か!
「……何用?」
また話しかけてくる。こちらの<集中>を乱すのが目的なのが見え見えだ、その手には乗らん! こちらの反応がない事を見て、先端の毛玉がこちらに向き……
来、早!? だが、見え、躱せる!!
咄嗟に体を横に移動っさせると、奴の攻撃は、元居た空間に突き刺さる様に通り抜けた。
これなら、何とかなる。二手は無い! いや、有ったとしても躱して見せる!
相手の攻撃を把握し、相手へ接近しようと歩を進めた瞬間、尾がたわむのが見えた。それが視界の外まで、避けて通り抜けた先端へ伝って行く。
― ゾク! ―
<危険感知>が警鐘を上げる。ヤバイヤバイヤバイ! <魔装―――
「ゴハ!?」
腹へと襲う衝撃。飛びそうになる意識に、回る視界。攻撃された? あの状態から!?
「……何用?」(ゴホ!?)
「……何用?」(オゲ!?)
「……何用?」(イギ!?)
痛みで動けない俺に対して、何度も何度も、打ち付け、吹き飛ばされ、立とうにも直ぐに転がされる。その一つ一つが無視できない威力な上、そんな攻撃を何の溜めも無く繰り出してくる。
だが、どれもこれも致命傷になるモノではない。このまま耐えれば、反撃の―――
― ズゴン! -
……目の前の地面に穴が開き、そこから奴の尾が引き抜かれる。
「…………何用?」
最終警告。
あの一撃は耐えられない、躱せもしない。俺の命はあいつが握っている。
体が震える、視界が狭まる。恐怖、あぁそうだ、これは恐怖だ。
何故俺は、あいつを殺そうなどと思ったんだ? 敵対しないならば、無視すればよかったのだ。
俺より強い奴が居ないと、高を括ったか? 馬鹿か俺は!?
言い訳も思いつかない、そもそも会話何てしたことも無い。如何したら如何したら如―――
「また苛めてる。ダメだよ~、モコモコ」
そんな中、場違いな声が響いた。
「……攻撃してきた」
「可哀想だよ。震えてるじゃん」
「……何も言わない、向こう悪い」
声の元を探すと、奴の頭の上に、白い何かが乗っているのを見つけた。
白く小さい体躯に長い耳。そこには何度も食った雑魚、エサが居た。
「大丈夫だよ~。怖くないよ? 用事を言ってみて?」
全く警戒せずに、顔の前までやって来た。こいつは、この状況を分かっているのか?
だがチャンスだ、この雑魚を喰らう!
<捕食回復>で傷を癒し、この場を離れる! 相手が動かないのならば、逃げ切れるはず!
残りの力を振り絞り、喰らい付く。味わっている余裕はない。直ぐにのみ込み、回復に回―――
「……何のつもり?」
目の前にまだ、エサが居た……躱されただと!?
「ア˝ァ?」
「ヒィ!!??」
モコモコと言われた奴から、怒気のこもった声が上がる。
「落ち着いてよ。僕が、あの程度の攻撃を避けられない訳無いじゃない」
あの程度、俺の全力があの程度?
「攻撃したこと、問題」
「もう……君も意地張らないで、大人しくしなよ」
俺は話した。一生分話したのではないかと思う程、生き残るために、必死に。
今じゃ、何を話したかすら覚えていない。だが……
「世界樹様の所に行きたかったの? なら一緒に行く?」
「え?」
「モコモコ~、僕、この子連れて行くね~」
「……ふん」
訳が分からないままに、エサに引き連れられ奥へ進む。
(助かったのか?)
「僕と一緒に居れば、大丈夫だからね」
その言葉に、俺は安堵した、して仕舞った。生き残りはしたが、助かったわけでは無かった。この時に引き返すべきだったのだ。
俺はそのまま、地獄へと足を踏み入れたのだから。
― ガサ -
奴の横を通る時、足元から音がした。その方向を見ると、奴の足元の穴から、小さな魔物が這い出てくるが見える。
それは、今まで何度も見て来た魔物。何度も喰らって来た魔物……生まれたばかりの頃の俺と同じ姿。
あぁ、そうか……俺は、ここから生まれたのか。
心地よい何かの中、漂い続ける。
不安も、恐怖も、飢えも、疑問も……何もない。ただただ、ゆらゆら、ゆらゆらと……
………………………………
…………………………
……………………
………………
…………
……
―――
「…………」
気が付いたら、“俺”が居た。
何時、何処で生まれ、俺が何なのか、ここが何処なのかすら分からない。
……霞掛かった頭が晴れてくると、ようやく周りが見えてきた。
暗くだだっ広い空間に、頭上に空いた穴から差し込む、何筋もの光。
地面には、淡く光る水溜まりがあった。
俺の他にも、同じように周りを見回している奴がいる。細部が違うが、殆ど同じ奴だ。
自分の体を、見える範囲で確認してみる……特徴が同じだった、どうやら同種の様だ。
これからどうしようかと悩むも、何をしたら良いか分からない。差し当たってしないといけないことは……
― グ~~~…… -
食事だな。
早く何かを食べないと。そう思い周りを改めて見まわすが、何も見当たらない。飲み物は……この光る湖の水を飲んでも大丈夫なのか?
分からない事だらけだ。
期待はしないが、周りの奴が何か知っているかもしれない。近くに居た奴に近づき、声を掛けようとした、その時―――
― キシャーー!! -
唐突に上がる叫び声。その方向を見ると、自分よりも一回り大きな奴が、視界に入った。
そして理解する。俺たちが居る環境は、悠長に考え事をしている余裕がある程、生易しい環境ではないことを。
叫び声を上げていた奴は、近くに居た小さい奴を襲い、喰らったのだ。
このままここに居ると、アレに食われる……
まだ距離があるが、それ程離れている訳でもない。体格の差もあるから、狙われたらその瞬間終わり、戦うなんてもっての外だ。
早々に逃げることを決定し、道を探すために壁沿いを進む。
その道中、俺と同じ奴同士が争っている姿を何度も見かけた。
中には、一体に対して複数で襲っている奴もおり、無残に食われていく姿もだ。
だが、そんな中を生き残るやつがいた。何体も同時に相手をし、傷だらけになりながらも、なお且つ生き残っていた。
その様子を見ていたが……その変化は劇的だった。
骨が軋む音と共に、体が突然肥大化したのだ。どんどん存在感が増していき―――
― キシャーー!! -
あのデカい奴と同じ姿となったのだ。
一連の流れを見て理解する。
戦い、喰らい、生き残れば強くなる。
食うか、食われるか……死と殺しが日常の世界。それが、俺が生まれた世界だった。
―――
壁に空いた穴を見つけ、すぐに潜り込む。その穴は小さく、大きく成った奴では入ることはできないだろう。
更に奥へと進むと、その穴は上へと向かって伸びていることが分かった。
このまま進めば、明かりの下、外へと出られるかもしれない。逸る気持ちを抑え、慎重に進んでいく。
道中は何事も無く進み、辿り着いたのは、森の中だった。
少し開けた場所に、ぽっかりと空いた穴から顔を出す。周りには……何も居ない。警戒しながらも外へと這い出る。
取り敢えずの危険は無さそうだが、この開けた場所は落ち着かない。直ぐに逃げ込めるように、穴の近くで行動するか、視界が遮られる森の中へ駆け込むか……
― ガサ -
「!!??」
そんな事を考えていると、隣から音がした。
反射的にそちらを向くと、俺と同じ奴が顔を出し固まっていた。
襲われる可能性を考え、咄嗟に身構える。今の状態なら、顔だけ出している相手よりも。俺の方が有利に行動できる。
改めて、相手の様子をうかがう。襲われたのか、その姿は傷だらけで、息も絶え絶え。なお且つ……片足が無かった。
思い返すのは、無残に食われていく奴らの姿。
食うか、食われるか
生きるためには食わなければならない。
殺さなければ俺が食われる。
そして何よりも、殺せば強くなる。
俺は、片足が無いそいつを……食い殺した。
―――
自分より弱い奴を殺し、喰らう。
時には安全な場所を求め、殺し合う。
自分より圧倒的に強い奴が、更に強い奴に食われていく。
逃げて逃げて逃げて逃げて、戦って戦って戦って戦って、食って食って食って食って、殺して殺して殺して殺して……
そんな中生き抜いていき、気が付いたら俺は……強者になっていた。
弱かった頃に見た強者も、今の俺なら簡単に捻りつぶせる。
周りの奴は、俺の姿を見ただけで逃げていく。
俺を害する奴は居なくなり、全ては俺のエサと化した。
隠れることも、血を這いずる事も、飢えることも、ケガを負うことも無くなった。そこまで来て、漸く俺は安堵を得た。
そこでふと思った。あそこには、何があるんだと。
見上げるのは、頂上が見えない程に巨大な樹。何かしら、特別な場所なのは間違いない。
そうでなくとも、あそこからならここを一望できるだろう。
余裕ができたからか、今まで考えなかったことを考える様になっていた。
生まれたことに疑問を覚えるなんてことは無かったが、自分の出生には興味がある。
あそこに行けば、何かわかるだろうか?
―――
今まで足を踏み込んだことのない場所を、大樹へ向けて進んでいく。
途中、違和感の様なものを感じることがあったが、気にせずに進むと、そこそこ強い奴と遭遇することがあった。
そして、そいつを食い殺したら、その違和感が消える事が分かった。
そして、またその違和感を感じとった。どうせまた雑魚だろうと思い、構わず進む。
そして俺は、そいつに出会った。
「すー…すー…」
黒い頭に、白い体毛に覆われた体。
特徴的なのは、透明な深青色をした、渦巻き状の角。その角の中では、幾つもの色の輝きが煌めいている。
今までに見たことのない奴が、眠っていた。
そう、眠っていたのだ。俺を前にして、何ら警戒もせず、無防備な姿を晒していた。
これでは殺してくれと言っている様なものだ。
俺は、その阿呆に向かって進んでいく。それでも、そいつが起きる気配がない。
すぐにでも飛びかかれる距離になって、ようやく初めての反応が見られた。耳がぴくぴくと動き、緩慢な動きで瞳が開かれ、こちらを向く。
ようやく気付いたか。よく今まで生きて来れたものだと、呆れてしまう。
まぁ、気が付いたところで、死ぬ事に変わりは無い。どんな行動に出るか、どの様な抵抗をして来るかと身構えるが、そいつは予想だにしない行動をとった。
(……は?)
眠そうな目で俺を一瞥すると、興味を無くしたかの様に視線を逸らし、また眠りについたのだ。
一瞬、なにが起きたのか理解できなかったが、次第に怒りがわき上がってきた。
(俺を無視するだと!?)
逃げるでも立ち向かうでもなく、まるでどうでも良い事の様な対応をしたのだ。
雑魚が舐めた態度を取ると、どうなるか教えてやる。そう思い、そいつの目の前まで近づくと、前足を振り上げる。
後は、この足を振り下ろすだけ、それでこいつは簡単に死ぬのだ。だと言うのにこいつは、未だにこちらに興味を示さない。
(死ね!!)
苛立ちを込めた一撃が、頭へ振り下ろされ―――
「……? ……!? ゲボ! ゴホ!?」
突然襲う激痛。競り上がってくる吐き気。気が付いたら、目の前に居たと思った奴は、いつの間にか移動していた。
……いや、違う。あいつは、さっきと全く同じ体勢のまま、同じ場所にいた。
(吹き飛ばされ…た?)
そう、相手が移動したのではなく、俺が吹き飛ばされたのだ。
痛みは、腹と背。
後ろを見れば、中ほどで折れた木があった。腹への攻撃で吹き飛び、後ろの木に背中から激突したのだと思われる。
何をされたのか全く分からなかったのは、前後の記憶が無い事から、意識が飛びでもしたのか?
どれ程の時間、無防備だったのかは分からない。しかし、相手が俺を容易に殺せる状況であったことに、間違いは無いだろう。だと言うのに、相手はその素振りすら見せていない。
「~~~、ギ~~~…ガァーーーーー!!!」
歯を食いしばり、痛む体を引きずりながらも起き上がる。そんな俺の姿に対して、まるで煩わしいものを見る様な視線を向けてくる。
「……何用?」
「!?」
話しかけてきた!? 何故? 今なら簡単に殺れるだろう。
……そうか、先ほどの一撃は、何度も撃てるものでは無いのか! あの不動の体制も、無駄な力を使わない為。ならば、やり様はある!
「ガァ!!」
<自己回復>で傷を癒し、<身体強化>と<集中>を発動!
臨戦態勢になった俺を見て、相手も動きを見せた。先端に毛玉が付いた、黒く細長いツタの様なものが、ゆらりと持ち上がる。あれは…尾か!
「……何用?」
また話しかけてくる。こちらの<集中>を乱すのが目的なのが見え見えだ、その手には乗らん! こちらの反応がない事を見て、先端の毛玉がこちらに向き……
来、早!? だが、見え、躱せる!!
咄嗟に体を横に移動っさせると、奴の攻撃は、元居た空間に突き刺さる様に通り抜けた。
これなら、何とかなる。二手は無い! いや、有ったとしても躱して見せる!
相手の攻撃を把握し、相手へ接近しようと歩を進めた瞬間、尾がたわむのが見えた。それが視界の外まで、避けて通り抜けた先端へ伝って行く。
― ゾク! ―
<危険感知>が警鐘を上げる。ヤバイヤバイヤバイ! <魔装―――
「ゴハ!?」
腹へと襲う衝撃。飛びそうになる意識に、回る視界。攻撃された? あの状態から!?
「……何用?」(ゴホ!?)
「……何用?」(オゲ!?)
「……何用?」(イギ!?)
痛みで動けない俺に対して、何度も何度も、打ち付け、吹き飛ばされ、立とうにも直ぐに転がされる。その一つ一つが無視できない威力な上、そんな攻撃を何の溜めも無く繰り出してくる。
だが、どれもこれも致命傷になるモノではない。このまま耐えれば、反撃の―――
― ズゴン! -
……目の前の地面に穴が開き、そこから奴の尾が引き抜かれる。
「…………何用?」
最終警告。
あの一撃は耐えられない、躱せもしない。俺の命はあいつが握っている。
体が震える、視界が狭まる。恐怖、あぁそうだ、これは恐怖だ。
何故俺は、あいつを殺そうなどと思ったんだ? 敵対しないならば、無視すればよかったのだ。
俺より強い奴が居ないと、高を括ったか? 馬鹿か俺は!?
言い訳も思いつかない、そもそも会話何てしたことも無い。如何したら如何したら如―――
「また苛めてる。ダメだよ~、モコモコ」
そんな中、場違いな声が響いた。
「……攻撃してきた」
「可哀想だよ。震えてるじゃん」
「……何も言わない、向こう悪い」
声の元を探すと、奴の頭の上に、白い何かが乗っているのを見つけた。
白く小さい体躯に長い耳。そこには何度も食った雑魚、エサが居た。
「大丈夫だよ~。怖くないよ? 用事を言ってみて?」
全く警戒せずに、顔の前までやって来た。こいつは、この状況を分かっているのか?
だがチャンスだ、この雑魚を喰らう!
<捕食回復>で傷を癒し、この場を離れる! 相手が動かないのならば、逃げ切れるはず!
残りの力を振り絞り、喰らい付く。味わっている余裕はない。直ぐにのみ込み、回復に回―――
「……何のつもり?」
目の前にまだ、エサが居た……躱されただと!?
「ア˝ァ?」
「ヒィ!!??」
モコモコと言われた奴から、怒気のこもった声が上がる。
「落ち着いてよ。僕が、あの程度の攻撃を避けられない訳無いじゃない」
あの程度、俺の全力があの程度?
「攻撃したこと、問題」
「もう……君も意地張らないで、大人しくしなよ」
俺は話した。一生分話したのではないかと思う程、生き残るために、必死に。
今じゃ、何を話したかすら覚えていない。だが……
「世界樹様の所に行きたかったの? なら一緒に行く?」
「え?」
「モコモコ~、僕、この子連れて行くね~」
「……ふん」
訳が分からないままに、エサに引き連れられ奥へ進む。
(助かったのか?)
「僕と一緒に居れば、大丈夫だからね」
その言葉に、俺は安堵した、して仕舞った。生き残りはしたが、助かったわけでは無かった。この時に引き返すべきだったのだ。
俺はそのまま、地獄へと足を踏み入れたのだから。
― ガサ -
奴の横を通る時、足元から音がした。その方向を見ると、奴の足元の穴から、小さな魔物が這い出てくるが見える。
それは、今まで何度も見て来た魔物。何度も喰らって来た魔物……生まれたばかりの頃の俺と同じ姿。
あぁ、そうか……俺は、ここから生まれたのか。
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突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
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俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

日本列島、時震により転移す!
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2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
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