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93 冒険者とダンジョン②

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視点:ランクD冒険者『スピール』 リーダー、ション

「「「…………………」」」

 岩陰に隠れながら、迷宮具を使い様子をうかがう。
 索敵で、自身の目の代わりになる球体を上空に飛ばし、そこに遠視を加え遠くの光景を見る。その映像を記録に残すの……だけど……

「なんだよ、これ……」

 ゴッコの呟きが聞こえるが……こっちが聞きたいわ!

 手前…西側は森や湿地が広がり、北は熱気が凄いのか、陽炎の様に歪んで見える。南には白……雪ってやつか? が降り積もっている。それぞれ小高い丘や谷があり、幾つもの枝分かれした川が流れているのが見て取れる。
 そして何より、その中心部。天に迄届く程の巨大な、それは巨大な大樹が聳え立っていた。頂上は……霧や雲で見えない。

「なんで見えなかったんだ? あれだけデカけりゃ、エンバーから見えててもおかしくないレベルだぞ?」
「ここ数日、粉塵が舞っていて、遠くまで見渡せなかったわ」
「って、数日だろ? その前はどうなんだよ」
「……この数日中に、成長した?」

 俺の発言に、二人ともこちらを向く。

「いやいや、流石にねぇだろ……」
「だけど、森の成長速度を見てると、あながち間違いじゃないと思うんだ」

 それに、今までの不毛の大地を考えると、この光景自体が異常過ぎる。そしてそんな森は、今も目に見える速度で広がっているんだ。あり得ない事なんて、今まで散々起きてきた。今回も、そんな状況なんだろうさ。

「結局、判断するのは上の人間よ、私達は少しでも正確な情報を持ち帰ることが仕事!」
「お、おぅ」
「ほら、ゴッコ! 魔力切れるよ、魔石追加、追加!」
「へーへー……」

 取り敢えず、ここから得られる情報を片っ端から撮る事とした。折角の迷宮具だ、利用しない手はない。
 魔石も大量に支給されている、こんな時にしか使う機会なんて無いんだから、遠慮なく使って行こう。実際、こんな質の良い魔石バンバン使うなんて無理。これ一個で、幾らする事か……
 森の内部は……“索敵”が遠くまで飛ばせれば良かったんだけど、流石に距離があって無理だな。

「スチーナ、ここから“遠視”を通して<鑑定>できるか?」
「……ダメね、流石に距離があり過ぎる。それに、私の<鑑定>じゃ、そこまでの情報は入らないわよ」
「リスクの方が高いか……」

 <鑑定>は、掛けた相手にバレるからな。それに、自身が知らないことは分からないし、一般人が思っている以上に使い勝手が悪かったりする。相手の大体の強さとかが分かるから、敵対した時とかには便利だし、一定レベルを超えると、いろんなものが見えるようになるらしいけど。

「じゃぁ、手前のあいつ等はどうだ?」
「う~ん、あそこならギリギリ……かな。あれって、ラッチかしら?」
「……違うな。虫っぽいけど、違う種類だろ」
「そもそもラッチって、集まることはあっても、群れで動いたりはし無いだろうしね」

 森の少し手前には、隊列をなすように黒い虫族の魔物が並び進んでいる。その後ろでは、同じタイプの魔物が列を成し、森から何かを運んでは、掘り返した後にばら撒いている。

「あれ、何やってんだ?」
「……土を掘り返しているように見えるけど」
「……ん? これ。こいつなんか持ってないか?」

 たまたま視界に入った個体が、地中から何か白いものを掘り出し、後ろへと投げ捨てていた。
 その白い物の行き先を見ていると、列を成していた魔物の一匹がついでとばかりに持ち上げ、森の中へと消えていく。

「あれを探してたのか?」
「みたいね……あれ、どっかで見たような?」

 う~ん、俺も見たことある様な気がする。それも凄く最近に…って!

「あれ、ラッチの卵か!?」
「!! そう、それよ!」

 今回のスタンピードの元凶! 調査団が掘り出していたのを、出発前に見たんだった。それと全く同じだ。

「じゃぁ、やっぱりあの森…てぇか、あの大樹が今回のスタンピードの原因か?」
「そうとも限らないわよ?」
「う~ん…なんで、森の外に卵が有るんだ? って、なるよな」
「じゃぁ、なんで卵を掘り返してるんだ?」
「…食料とか?」
「仲間とするなら、普通に孵化するのを待つのでも良いだろうしね……いや、仲間と認識させるために、敢えて巣迄運んでいるとも…」

 映像は後からでも確認できる為、一挙一動集中して見る必要が無いのは楽だ。こうやって思考に更ける事だってできる。

「!? 見て、あそこ!」

 スチーナが示す場所を見ると、地面から何かが這い出てくる瞬間が見て取れた。
 油を塗ったかのような特徴的な光沢、真っ黒な外殻、もぞもぞと動く足。

「ラッチか……」

 今回のスタンピードの元凶、ベテルボロ・ラッチ。
 恐らく、あの卵から孵ったのだろう。生まれたてで空腹なのか、明らかな敵意を持って黒い魔物の隊列に接近していくのが分かる。食料としてしか見ていないみたいだな。

「スチーナ、あのラッチを鑑定できないか?」
「いいの?」
「ラッチなら頭悪いし、大丈夫だと思う。それに、あの様子じゃ仲間にも見えないし。殺される前に、相手の魔物の強さの比較対象にしよう」
「了解……『鑑定』」

名称: ベビー・ベテルボロ・ラッチ
氏名: ―――
分類: 現体
種族: 虫族
LV:    1
HP: 290
SP: 290
MP:  50
筋力: 120 
耐久: 120 
体力: 130 
俊敏: 120 
器用: 120 
思考: 10 
魔力: 10 
スキル <牙LV1><酸LV1><―LV1><―――性LV1><猛――効LV5><過―LV1><――LV4>

 スキルは殆ど見られなかったかが、それを抜きにしても、生まれたての割に結構強い。能力だけでも単体でEランク、一般人が遭遇したら死を覚悟するレベルだ。

 当のラッチは<鑑定>されたことに苛立ったのか、更に速度を上げて、突っ込んで行く。その様子を見ていたが……

「あれ、反応なし?」

 襲われそうになって居る黒い虫族の魔物は、全く気にした様子も無く、同じ作業を続けていた。
 感知範囲が極端に狭いのか、意思のない完全な従属状態なのか、このままいけば食い付かれるのは間違いないだろう。

 ラッチはその速度のままに飛びつき、その牙が相手に届く……その前に、

「……え?」

 横から一回り大きい虫型魔物が高速で駆け抜け、ラッチの足と牙を、一瞬で切り落とした。
 未だもぞもぞと動くラッチ、攻撃手段と移動手段を同時に潰された様だ。
 襲われた虫族の魔物は、全く気にした様子も無く進み、動けないラッチに接触したかと思ったら、卵と同様に牙で掴み、後ろへと投げ捨てた。

「……眼中に無かっただけかよ」

 あいつ等にとって、生まれたてのラッチなど、脅威でもなんでもない事が見て取れた。









索敵……複数のドローン、画面付き。
遠視……スキル<遠視>を、使用者(魔道具含む)に付与する
記録……視界に捉えた光景を、魔道具に記憶する

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