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82 竜と迷宮主③

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その後も、湯に浸かりながら話していたけど、本当にダンジョンマスターぽく無いわ、このダンマス。あ、ダンマスって言い方は、相手から教わった。ダンジョンマスターを縮めた言い方らしい。

ダンマスって、とにかく外から生き物を引き込んで、殺す事しか考えてない様な奴って聞いていたのだけど、認識を改めた方がいいかしらね? このダンマス、侵略とか殺しとか全く興味が無い、世界樹がやるなら手伝う程度の考えなのだ。人種ってこんなに無欲だったっけ?

ダンマスが上がるのに合わせ、私達も風呂から上がる。このままじゃ上がるタイミングを逃しそうだったし……特にシスタが。
火照った体を冷ます為、ダンマスの勧めで外へ出る。外は既に夜と成っており、光源は月明かりだけとなっていた。

「ん~~~!」

私達の目の前で体を伸ばすダンマス。本当に無防備だ、寝首を掛かれないかちょっと心配になって仕舞う……こんな相手に緊張するのも、馬鹿らしくなってきた。体の力を抜いて、ダンマスの真似をして体を伸ばす。いつも以上に体の調子が良い。お風呂の効果でしょうかね? 火照った体に、夜の冷えた風が心地よい。

「この後は、お休みになりますか?」
「そうですね、既に日も落ちていますし、明日に向けて休もうかと」
「寝るときは屋外で良いのでしたね? 飛ぶことになりますけど、お勧めの場所があります。如何致しますか?」
「えぇ、お願いしますわ」

お勧めがあるなら、断る理由は無い。適当な場所より、気兼ねなく休むことができる……飛ぶと言っていたが、このダンマスは飛べるのだろうか?

「……ん?」

世界樹の方から、一匹の魔物がこちらに飛んでくるのが見えた。その魔物は音も無く、ダンマスの目の前へ着地した。

「おはよう、主。移動ですかな?」
「おはようございます、ホロウさん。頂上までお願いします」
「任されましたぞ」

ダンマスとの挨拶を終え、此方を向く。
今にも闇の中へと溶けてしまいそうな、丸っこい体の鳥型の魔物。本気で隠れられたら、多分見つけられないわね。本当にここは、隠密性が高い魔物だらけね。

「吾輩の名はホロウ。此度は皆様を、仮の寝床へとご案内させていただきますぞ」

丸い体を縦に伸ばし、優雅に一礼して見せる。面白い体をしているわね。
ダンマスが、ホロウ殿に肩を掴まれながら飛んでいく。どうやら、目的地は世界樹の様だ。

―――

け、結構飛んだわね。後、思いの外ホロウ殿が速かった。
着いたのは世界樹の頂上付近。そこに広がる、まるで切り株の断面の様な半円形の広場だった。

「お~、高いですね~」
「森が一望できますわね……暗くて、殆ど見えませんが」

遠くから見た時は、頂上付近は霧や雲ではっきりと見られなかったのだが、今は両方とも晴れている為よく見える。その為、視界を遮るものが何もない。確かに、朝には絶景が拝めそうです。

「そろそろ……かな~?」
「何がでしょうか?」

その内分かりますよと、森の方を向いたまま答えるダンマス。まだ何かあるのでしょうか?
答える気が無いようなので、大人しく何かが起こるのを待つ。ダンマスの登場に気を取られていたが、世界樹にも挨拶した方がいいかしらね? 既に足場にしてしまっているけど……

「世界樹さんは、しゃべり過ぎて先に眠りました」
「そうでしたか、残念ですが又の機会に期待します」

世界樹の人格も知って置きたかったのですが、仕方がないですね。

十分程待ったか。ぽつり、ぽつりと、森のあちこちから淡い、弱々しい光が灯りだす。
小さなその光は、赤や青、様々な色に森を染め上げていき、数分と経たずに森全体にまで広がって行く。
色とりどりの光は混ざり合い、オーロラのごとく揺らめき、光の球が空へと昇り、儚く消えてゆく。

「これは……」
「綺麗です~」

私達の目の前で、光の海に沈む、幻想的な森の光景が繰り広げられていた。

―――

「「「………………」」」
「リラックスできました?」
「え?」

どれだけの時間眺めていただろうか。不意にダンマスが声を掛けてきた。

「初めて会った時から、緊張しっぱなしみたいでしたからね。気分は晴れましたか?」
「…………えぇ」
「それは良かった」

そんなに緊張が表に出ていたかしら? 他種族だって違うのに、良く分かるわね。
もしかしたら、今までの振る舞いは無防備なのではなく、警戒させない為のものだったのかもしれない。もしそうだとしたら……はは、敵わないわね。

「では、私は戻らせて頂きますね、帰還の為に長距離を飛ばれると思いますし、ゆっくり休んでください」
「はい…………また明日」

―――

「行って仕舞った」
「えぇ、見張りも無いですね」

まぁ、ダンマスなら縄張り内の出来事は把握できるでしょうし、必要ないとも取れる…………か。
…………あれ? さっきから、テレが一言もしゃべらないんだけど、どうしたのかしら?

「…………」(ボケ~)

今にも眠りそうな目で、光り輝く森の景色を眺めている。テレ、貴方リラックスしすぎ、一瞬死んでいるかと思ったわよ。

テレに倣い、全身の力を抜いて地面に突っ伏す。あ~、木の香りとスベスベとした肌触りが気持ちいい。シスタも隣に腰を下ろす。尻尾で地面を撫でている所を見るに、気に入ったみたいね。
しかし、はー疲れた。色んな意味で疲れた。肉体的には平気だけど、精神的にきっつい。今はこの景色で癒されよう。このまま寝てしまうのも良いわね。

「綺麗ね」
「そうですわね、まるで話に聞く妖精の園の様な光景です」

妖精の園……か、昔はこの地域にも妖精樹が在ったと聞きますが、私達が生まれる前に無くなってしまったと聞く。本物も、こんな光景なのでしょうか?

「…………」

他者の縄張りなのに、敵意も無い、外敵も居ない。美味しい食事に癒しまである。明日には谷へと帰還するが、もうすでに名残惜しい。
…………帰ったら、どう説明しましょうか。谷の馬鹿どもが何を言い出すか。

最後に憂鬱な気分になりながらも、眠気に全身を委ねる。うん、明日も沢山飛ぶことに…………なる…………頑張…………ろう…………。
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