ブチ切れ世界樹さんと、のんびり迷宮主さん

月猫

文字の大きさ
上 下
77 / 330

73 竜の調査隊、迷宮に潜る④

しおりを挟む
「えっさ! ほいさ!」
「これ、何に使う?」
「残り十周!!」

歩く事数分、辺りに様々な魔物が見られる様になった。道端で会話する者、荷物を背負って進む者、横道へと消えていく者、虫型以外の魔物も、チラホラ確認できる。虫型以外は生まれて間もない感じの、小型の魔物が多い。

「ここら辺は、【世界樹の迷宮】の生活空間エリアになっててね~♪ この大通りを中心に、いろんなエリアに繋がってるんよ」
「え!? そんな重要な場所に連れて来ていただいて、大丈夫なのですか?」
「と言ってもね~。お姉さん方の大きさだと、ここくらいしか通れないし、結構深い場所にあるから、問題ないない……と、ここだよ~♪」

目的の場所へと到着した様だ、ここにあの糞虫共が居るのね。

「コクガ~、来たぞ~♪」
「お? 早かったな!」
「どんな感じなん?」
「だ~めだ、使い物になんねぇ! 無駄に頑丈だから、今は的に使ってるぐらいだ」

先ほど通された部屋よりも、圧倒的に広い空間。これなら、私たち程の体格でも自由に動けるわね。作りもかなりシンプルで、円形の広場に、4本の支柱、外周は高台になっており、そこから魔物たちが中心部を見ている様だ。
……人共が造る、闘技場ってやつに似ているかしら? 先ほどの荷物を運んでいた一団は、ここから出入りしていたらしい。今も忙しなく行き来している。

「お~! こっちが、お客さんの方の竜か! ……強いな!!」
「あ、ありがとうございます」
「こいつはコクガ、見ての通りの脳筋だから、言動は気にしないでね~♪」
「あぁん?」
「おぉ?」

お互いにらみ合いを始めてしまった……仲いいわね、この二匹。

「……すみません。彼等がここに居ると聞いていたのですが」
「おぉ! そうだった! と言っても、目の前だぞ?」

目の前と言われ、辺りを見回してみる。視界に入るのは、中央にある球状の塊と、端の方で地面に磔にされた“なにか”しか見当たらない。

「……もしかして、あれですか?」
「ヒィ!?」

磔にされて居るのを良く見れば、形が尾の無い竜に見えなくもない。
……運び出していたのは、どうやら彼らの鱗や牙、尾の肉だったらしい。

……確かに物扱いね、木に実る果実を収穫するが如くむしり取られている。
この惨状、確かに種族によっては、卒倒するかもしれない。私は平気だけど、シスタはダメか。賢竜は仲間思いだから。

そんな扱いを受けている彼らの周りには、様々な魔物が集まっていた。

「……素材に成る位には、役に立ってるのかしら?」
「おう、特にタラントの奴らの食いつきが良いな! 嬉々として剥ぎ取って行ってるぞ!」
「あの、宝石の様なものから出ている物を掛けているようですが、あれは?」
「あれか? 宝石みたいのはスライムで、出してるあれは薬だな! 剥ぎ取った後に掛けて、治してるんだ」
「……細長い魔物がしているのは?」
「マンティアの奴だな、どれだけ肉体に傷を付けないで、鱗を剥げるか挑戦してるみたいだぞ。細かい動作の訓練には丁度いいだろ、鱗の品質も上がるしな!」
「…………頭の上に居る、羽のついた魔物は?」
「バタリーっていってな、暴れないように、麻痺とか、幻覚とか掛けて貰ってる! ギャーギャー煩かったからな!」

相当良い薬を使っているわね。掛かった端から、牙も鱗も……尾まで生えて来てる。薬の方が高価なんじゃないかと思ってしまうほどだ。

「何度か剥ぎ取ってると、形が歪なものが出て来てたんだけどな? 主様に相談したら傷跡と、ストレスが原因じゃないかって事になってな? バタリーに幻覚と、マンティアに剥ぎ取りを任せてから、品質が戻ったんだよ」

やっぱ主様はすげーな! と嬉々として話してくれた。

……死ぬことすら許されず、永遠と剥ぎ取られる

生き地獄

まさに、その表現がしっくりくる状況だ。死が安いとはこういう事だったのね。

「最初は威勢が良かったんだぜ? 何度か叩き伏せたら、縮こまっちまってな。訓練相手にもならないから、今の扱いに落ち着いたんだわ」
「最初は抵抗したんですか?」
「したした! 下等生物とか喚いてたな! 今じゃ、あんな感じだ」

呆れたように、中央に在る球体を指す……あぁ、あれか。

急所を隠し、全ての能力を防御に回す、竜族の防御形態。幼竜が姿を隠す為にする体勢でもあり、成竜がするような姿でない。

恥さらし

確かにこんな姿なら見ないほうが良かったかもしれない。聞かれたらなんて答えたらいいのよ……。

「行動がワンパターンすぎる。戦闘の度に傷も治して、死なない様にしてやったんだから、もう少し工夫して欲しかったな。向こうだって、戦闘訓練を積めるんだからよ」
「貴方から見て、彼らの評価はどれ程か伺っても?」
「スペックが高いだけの木偶の坊。あれじゃ使うんでなくて、体に使われてるだけだな。スキルのレベルも使い方も、ましてや戦い方もガキレベル、下級兵でも倒せちまったぞ!」
「か、下級兵レベル……」
「ブレスの間隔、攻撃の軌道、戦い方を散々観察した後だったけどな。しかも終盤はへっぴり腰で隙だらけだ、あれじゃ負けるのも難しいぞ?」

竜族の恥を、散々晒してくれた訳ね。いっそさっさと死んでくれた方が、竜族の為だわ。
ゴミを見ている様な気分になって居ると、コクガ殿が、熱のこもった視線を向けているのに気が付いた。

「俺的には、あんたの方が興味あるな!」
「私ですか? ……私の戦闘能力なんて知れてますよ」
「いや、あんたは強いよ。強い奴は、その実力を隠すのがうめぇからな……違うか?」
「……」
「俺、いや、俺らとしては、竜族の本当の実力ってもんを知っておきてぇんだ。どうだ、一勝負!」
「お~い、コクガ。相手はお客さんだぞ~」

一勝負……ですか。安全面は信用しても良さそうですね、あの回復力ならば、即死でもしない限り大丈夫でしょう。殺すなら、勝負の形を取らなくてもできますしね。
なりよりも、こんな機会そうそうない……

「……分かりました、その勝負、お受けします」
「エレン様!?」
「まじ?」
「そー来なくっちゃな!」

おら! その肉塊退けろ! と、先に中央に向かていくコクガ殿の後に続いていく。

「ちょっと待ったー、ですわ!」

そんな中、高台の上から魔物がこちらに飛んで来た。

「その勝負、私が受けますわ!」

光の加減で白とも黒とも見える鱗
すらりと伸びる手足と尾
向こう側が見えそうなほどに、薄く美しい皮膜の翼

「竜……族?」

そこには、とても美しい幼竜の姿があった。

わたくしの名前はルナ! 偉大なるダンジョンマスターの娘にて、最強の竜になる者ですわ!」
しおりを挟む
感想 482

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

処理中です...