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71 竜の調査隊、迷宮に潜る②

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「到着だよ~、この先にリーダーが居るから~♪」

下へ下へと続く、筒状に掘られた下り坂を下って行く。現れたのは枝が渦を巻くように絡まってできた門だった。

「この先は……」
「世界樹様の中だよ~♪」

枝一本一本が生きているかのように動き、解き解すかのように開かれる。ここからは彼らの本拠地、この一歩を踏み出せば、引き返すことはもうできない。

「……エレン様」
「えぇ……、行くわよ、シスタ」

この先に居るのは、ダンジョンマスター本人ではない。だが、この油断ならないアルト種のリーダーだ。ダンジョンマスター自身が対応しようとしていた所を、任される程の存在でもある、相当の実力と信頼を寄せられる者だろう。

かなりの広さの空間、その中央に少し大きめのアルトと、また見たことのない魔物が視界に入る。あれが……
覚悟を決め、一歩を踏み出す。

(毒の水位―(領域外に―(ポイントAにて―(食料の―(被害の範囲―(素材の確保―(魔物の一時避難―(迷宮拡張再開―(領域拡張再開―(薬剤確保完了―(おい、クロス! このトカゲモドキ使えね~ぞ!!)-完了)-完了)―続行します)―回収します)―異常なし)

「「……え˝?」」

なに、なになになに!? なんなの、この異常な量の<念話>による情報のやり取りは!?

一歩迷宮内に入ると、襲ってきたのは縦横無尽に行きかう、大量の<念話>。
<念話>は、遠くの者と話すことができるだけでない。その本質は、純粋な情報のやり取りができる所にある。その為、言語が違っていても、お互いに会話が成立する便利なスキルなのだが、欠点もある。今の私達の様に、<念話>持ちには<念話>での情報のやり取りが漏れて仕舞うのだ。その為、密談には向かない。

だから、先ほどから私たちは<念話>を使っていない。相手がダンジョンな為、鳴き声の会話もしていない。ダンジョンマスター程になると、全ての情報を言語化できる<翻訳>を持っていても、何ら不思議でないからだ。

シスタを見るが、彼女は首を振るだけだ。彼女は<看破>のスキルを持っている。つまり、情報を隠す<隠蔽>や内容を偽る<偽装>や<錯乱>の類で、大量に見せている訳ではない事になる。
情報の出入りは、目の前に佇む魔物、大きめのアルトからのみ。彼が(彼女が?)彼らアルトが言うリーダーだろう。

「クロス~♪ 連れてきたぞ~♪」
「ん? おぉ、気付かず申し訳ない。(アリス、後は頼む)」
(……了解)

……あの量を代わりに受け持てる個体、又は組織があると。ははは……頭痛い。

「遠路はるばるよく参られた。我の名はクロス、この【世界樹の迷宮】にて、アルトをまとめるものだ。エレン様とシスタ様ですな。何もない所ですが、どうぞおくつろぎ下され」
「お招きいただき、感謝します」

改めて通された空間を見る、事前に聞いていたけど本当に何もないわね。
クロスと名乗った魔物の左右には、細長い虫型の魔物と、ズングリムックリとした虫型の魔物が控えている。
……この二匹、相当強い。<鑑定>が使えたらいいのに……使った瞬間バレて殺されるわね。

「大丈夫ですかな? 見るにお疲れの様ですが……」
「いえ、お気遣いなく。早速で申し訳ないですが、お話の方を」
「……分かりました。ではまず、そちらの所属から伺っても?」

しかし、もっと高圧的な対応を覚悟していたのだけれど、かなり丁寧な対応ね。何が目的?

―――

向こうが聞いてきたのは、竜の谷の場所やこの近辺での私達の立場、知識生物の存在や実力関係。本当に情報に飢えていたのね、一般常識まで聞いて来た。
怨みごとの一つぐらいは覚悟していたのだけれど、そんなことも無く、普通に対応してくれた。それと無く聞いてみたが、どうやら向こうは、私たちとあの糞虫共を、違う所属と見てくれている様だ。

「あれと貴方方を、同列に扱うのは失礼ではないか? と言う結論になりまして……」

と、いう事らしい。逆に慰めの声を掛けられて仕舞った。うん、今その言葉は不味い、ちょっと泣きそうになった。

私達が聞いたのは、このダンジョンの経緯と、今回発生したスタンピードとの因果関係だ。
エルフに、人間の軍隊に、毒。そのせいで増えた害虫によるスタンピードねぇ。聞いた限り、確かにこのダンジョンが直接の原因とは言えないわね。むしろスタンピードの原因のせいで、ダンジョンが新たに生まれたと言ったほうがいいか。

人間よ、なんてものを生み出しているのよ、取り返しのつかないことしてくれたわね……しかし、ここから東の国ねぇ。

「なにかご存じで?」
「エルフの方は知りませんが、人間の軍隊については思い当たる国があります」
「……お伺いしても?」

空気が変わる。当然ね、このダンジョンにとっての復讐対象だもの。

「おっと、お伺いする前に。クロカゲ」
「はいはい、情報遮断だね。お~い、結界張るよ~」
「……どういうことでしょうか?」
「いえ、内容によっては世界樹様が暴走しかねない為です。主様から、この手の情報が得られる場合、世界樹様に漏れないようにと」

あぁ、納得だ。一時期、根絶やしとかを考えていたらしいから、ぶり返すのは確かに不味いわね。ダンジョンマスターがケアしたらしいけど、まだ不安定らしいし。

……あれ? ダンジョンマスターは、どこからやって来たのかしら? 聞いた話だと辺り一面毒塗れだったらしいけど……元から居た魔物かエルフ? もしくは、毒を撒いた人間たちの中の一人? それとも空を飛べる魔物か何か? 聞いて良いか迷うところね。

「……うっし! もういいぜ~♪」
「うむ、改めてお話を伺っても?」
「はい、その国の名はアルべリオン。此処より東、山を一つ越えた先に存在する、人間至上主義国家です」
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