ブチ切れ世界樹さんと、のんびり迷宮主さん

月猫

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54 エスタール帝国②

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「その1、群れか個かです」
「群れは分かるけどよ、個って事は一匹って事か?」
「その通りです。一体の強大な魔物に引き起こされることもあるのです」

 ヴォウ防衛大臣が顔を顰める。強力な個体程、魔力の薄い場へは流れて来ない為、想像ができないのだ。

「群れのトップ争いに敗れ、流れて来ることはあるのぅ」
「あぁ、なるほど」
「他にも、幼体を攫い敵対国へ持っていくことで、幼体の親を先兵にする、人為的なスタンピードなんてものも在りましたね」
「はぁ!?」

 文部省の人間の一言に、周りからも動揺の声が上がる。約300年前、当時は周辺に今ほど大国は無く、小国が領土を拡大する為に、頻繁に戦争が発生していた。そして、ある国がその手法を用い、領土を拡大。対抗するために他の国も真似をし、何時しかそれが主流になっていた時期があったのだ。近くに魔の森があることも拍車をかけかけていた、強力な魔物に事欠かなかったのだ。

 しかし、敵国が滅んだあと、周辺諸国だけでなく自国にまで被害が拡散、戦争どころでは無くなることが頻発した為、使われなくなっていった。
 現在、この方法を用いた侵略行為は邪道と扱われ、一度でも用いれば周辺諸国の信用を失い、全ての国が敵対してもおかしくない状態になる。その為、200年以上に渡って用いられることは無く、今や長寿種の記憶と記録に残っているのみである。

「はいはい、次に行きますね。その2、魔物の種類が一種か多種かです」
「今回の場合は一種か?」
「はい、これは処理難易度に直結しますので、対処の際には重要度が高い項目です」
「……あー、成る程。今回の様に一種だと、確かに対処は楽だな」
「あれは、近距離攻撃しかできん奴らだ。耐性も同じ、足止めさえできてしまえば、後は後方からの広範囲魔法だけで済む」
「成る程な~。これが多種になると……魔法の相殺に、遠距離攻撃の追加、耐性の違いからの無効化、生き残りの発生、空を飛べる奴がいると対空戦闘……めんどくせー」
「今回のスタンピードは、処理するだけなら容易い部類に入る……規模が異常だがな」

 ヴォウ軍務大臣が、指折りに多種類の場合の可能性を上げていく。周りのものは、その内容とガルガンディア防衛大臣の言葉を理解する。これ程の被害を出しながら、対処が容易な分類だったことに。

「そしてその3、発生原因になります。これは、4つのタイプに分けられていまして、崩壊型、放流型、侵略型、突発型に分けられます。お手元の資料を参考にし、それぞれ説明しますと―――」

崩壊型
 魔力の発生源や環境が変化、消失することで発生する。
 変化・消失した環境下にいた全ての魔物が、住処や食料を求め周囲に広がる。
 大規模になり易い代わりに、再発の可能性が小さい。

放流型
 縄張り争いや、魔力や食料の許容量を超えて魔物が繁殖した場合に発生する。
 周囲に比べて強力な個体や、群れで行動する魔物が、周辺の魔物や町を襲撃する。
 比較的小規模であり、定期的に発生する。

侵略型
 知能の高い魔物や、環境を変化させる魔物が住み着くことで発生する。
 その場で繁殖し、周囲を荒らす。巨大な群れを造り、国や巣を形成する。
 発生までに時間が掛かり、兆しも確認しやすい為比較的発見が容易い。その為、初期段階で対処できれば、被害は最小限に抑えられるが、対処が遅れると、危険度が跳ね上がる。

突発型
 予兆無く発生する。
 遠方から移動してくる場合や、ダンジョンから魔物が溢れる場合、原因が不明な場合などがある。
 発見が困難な上、原因が判明しない場合もあり、被害が拡大しやすく、対処が困難。

共通内容
 魔力濃度の高い場から低い場へ移動することに成る為、魔力を食料の一部とする魔物は常に空腹状態になり、凶暴性が増す。食事の為に、他の魔物を狩る頻度が増す為、レベルの高い魔物が多くなる傾向がある。

「以上になります。何か質問はありますか?」
「スタンピードの種類は分かった。今回は群れの一種ってことだろ? じゃぁよ、発生原因は何だと考えてんだ?」
「崩壊型だと考えています。件の魔物【ベテルボロ・ラッチ】は、群れで行動せず、知能も高くなく、巣を作るタイプでもないので、侵略型、放流型共に違うでしょう」
「突発型は? 遠くから来たし、ダンジョンって可能性だってあるだろ?」
「突発型は、あまりにも遠方にある為、確認や対処ができない場合にも当てはめられるのですが、その場合も、発生原因は別にちゃんと在るのですよ、確認できないだけでね。ダンジョンの可能性はあります……が、刺激さえしなければ、ダンジョンから魔物が溢れる可能性は低いです。ダンジョンの許容量を超えて魔物が増殖したとしても、その場合は放流型、ここまでの規模には滅多になりません」
「誰かが、ダンジョンにちょっかい出したかもしれないぜ?」
「その場合は……分かり兼ねますね。今まで襲撃されたことが無かったダンジョンが、過剰に反応する可能性はあります。ですがダンジョンならば、一種で発生する可能性は極めて低いと思われます」
「……まとめると、今回のスタンピードは 群・一種・崩壊型 の可能性が高いと言うことだな」
「ちなみに、崩壊型だとしてどんなのがあるんだ?」
「竜族の死体や神樹等の高位存在、もしくは魔力濃度が高い龍脈等の類でしょう」
「竜……神樹……、あ……世界樹。あ~~……ちょいと耳寄りな情報が有んやけど」
「なんじゃ?」
「実は、市場に世界樹の素材が出回っている、っちゅう情報が有ってな」
「世界樹だと!?」

 技術大臣のドットン・カ・クリエ・バスターンが声を荒げる。
 技術省からしたら、世界樹は滅多に手に入らない最高の素材な為、この反応も過剰ではないのだ。
 興奮した様子で、元々大きな声を更に大にし、ドットン技術大臣はテト商務大臣へと問いただす。

「おい! 情報が上がってきていないぞ!?」
「なにぶん発信源が、森の反対側に在るアルベリオンな上、内容が二転三転してハッキリせんのですわ。最初は世界樹だと情報が出たと思ったら、ただの質の良い木材だったり、と思ったら、世界樹の葉が出回ったり、それを利用したニセモノが横行したり。商人からの又聞きなもんで、調査もこれからだったんですわ」
「チッ! あの国か……信憑性ねぇな」

 アルベリオン王国、信用なしである。

「距離もあるんで、重要度は低めだったんや、こんなんに引っ掛かる商人は、無能か初心者位やしな」
「……さっきの言い回しだと、葉の方は本物が市場に出ている様に聞こえたが?」
「せや、個人的な伝手で、複数の信用できる奴から情報が上がって来とる。鑑定でも間違いないみたいなんやけど、何せ出所がアルベリオンでっしゃろ? 念のため<偽装>されていないか、うちに居る<看破>持ちに、確認してもらう予定なんや」
「なに!? こっちにも回せないか!?」
「報酬として、幾つか分けてもらえる予定や、間違いなかったら技術省に回すで、問題ないでっしゃろ?」

 周りの者から肯定の声が上がる。


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