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53 エスタール帝国①
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エスタール帝国、首都エスタール。その王城の大会議室にて、定期会議が開かれようとしている中、厳重な警備が引かれた長い廊下を、ツカツカと音を立てながら足早に進む一団が居た。
「こちらが今年の収支になります」
「うむ」
「そしてこちらが―――」
先頭を歩く二人、一人は資料を次々に見せ、もう一人はその資料を一瞥する。
二人の後ろには、資料の束を持った者が後を追い、さらにその後ろには、鎧を纏った護衛の騎士が追従する。重装備でありながら、足音どころか鎧がすれる音すらしない事からも、その実力の高さが伺える。
それもそのはず、先頭を歩く二人は―――
「エスタール帝国、皇帝、レウス・ロー・アルフレット・エスタールの入場!!」
―――この国の宰相と皇帝なのだから。
―――
「―――となり、技術省としては、魔術省からの情報提供を求めます」
「こちらは問題ない。情報と人員を回しましょう。経過報告はお願いしますよ?」
巨大な円卓を囲む様に各省の大臣が座り、その周りに各省の代表が控え、次々に必要な情報を開示、共有し議題を捌いていく。その際、沈黙も混乱も一切の淀みなく、会議は進んでいく。
円卓の外周では、帝国に所属している王国・貴族の重鎮やその代表たちも参列していた。本来なら彼等も発言を許されているのだが、そこに参戦する者はいない。なにせ議題の中には、自分たちの国の、自分たちが把握している以上に正確な情報が飛び交っているのだ、中には、物資や横流しや賄賂、裏金の情報まで、まるで世間話をするかの様な軽さで流される、非難も無く、裁かれることも無い。異様な光景が広がっていた。
簡単にバレる様なお粗末な隠蔽しかできない奴に、この国の人間は興味を持たない。
逆に、隠し通せる実力があるならば、彼らは平民、貧民、奴隷、はたまた犯罪者ですら利用し雇用する。その者を制御する自信と実力があるからだ。
ある者は、自分の悪事を晒され後悔し
ある者は、この場の在り方に恐怖し
ある者は、付いて行けず混乱し
ある者は、野心を滾らせ
ある者は、諦めを滲ませながら、話の流れを見守っていた。
実力が全て。これこそが、この国の在り方。実力者の国と言われる所以である。
「では最後の議題、件のスタンピードについてになります」
そして、今会議最大の問題が議題に上がった。
―――
「まず内務省より、被害報告を」
「始めに言っておく、これから報告することは、現時点で分かっている被害だ。これから更に増加する見込みであることを念頭に置いてくれ」
内務大臣のクロード・ローバン・ノーフェンスが説明を始める。
都市1、町12、村47…魔の森付近の全開拓村32村は全滅の見込み。細かい情報も合わせると、エンバーより先は全て消えたと思われる大災害に、周りから動揺の声が上がる。
「以上だ。唯一良い報告としては、防衛成功ラインより後ろで、残党を確認できていないこと程度だな。復興の目途も立っていない。資源が無いから、最悪しばらくはこのままかもしれない」
東へ開拓を進めていたのも、魔の森があった為だ。その森が無くなった今、無理をしてまで復興する理由がなくなってしまった。これは、住民のほぼ全てが亡くなっているからこその考え方である。避難民の住居や食事、住居の確保などを考える必要がない。
「商務省としては、無視できまへんな。森から入ってきていた上質な木材や薬草、魔物の素材と、無くなると大きな痛手やで?なぁ、財務省からも何か言ったってぇや、ゲルトはん」
「否定はしませんぞ。なにせ、魔の森から得られる収益は国家予算の10%を超えますからな」
商務大臣のテトがクロードの考えに異を唱え、財務大臣のゲルト・ルイス・マクシュートが肯定する
「魔力は豊富なんやろ? 土地もあるんやし、再生はできひんのか? そうす―――」
「否定はせん…が、それより先に確認することがあるじゃろ?」
「ん? なんやあったか?」
「…再発の可能性はあるか」
防衛大臣、ヴェーラ・ジェス・ガルガンティア。彼女の一言に、会場に動揺が走る。スタンピードは、原因を処理せねば再発する。それこそ数年、数か月…早ければ数日中に。
以前は場当たり的な対応しかできず、発生に対しその都度対応していたが、魔境省が設立されて以降研究が進み、原因を突き止めることに成功し、対策の仕方も確立している。その結果、ここ数十年大規模なスタンピードは発生していなかったのだ。
「では、私どもからご報告させていただきますね。この場には、スタンピードに詳しくない方もいらっしゃるでしょうから、その説明から致しましょう」
「助かる。俺が生まれてから今まで、スタンピードって起こった事なかったから、ぶっちゃけよくわかって無いんだわ」
魔境大臣のロロイラ・ロ・ベ・フェト・ファラモルテの言葉に、軍務大臣のヴォウが応える。
会場に居る若い年代の参列者も同様に、ロロイラ魔境大臣の説明に集中する。既に世間では、スタンピードは起こらないものと認識されていた。その為、スタンピードを経験したことがない者が、詳しく知らなくても不思議ではないのだ。
「スタンピードとは、簡単に言えば魔物の暴走を意味します。スタンピードと一言で表しても、その在り方は様々です。まずはその種類から入った方が分かりやすいでしょう」
ロロイラ魔境大臣が人差し指を上げながら、説明に入る。
「こちらが今年の収支になります」
「うむ」
「そしてこちらが―――」
先頭を歩く二人、一人は資料を次々に見せ、もう一人はその資料を一瞥する。
二人の後ろには、資料の束を持った者が後を追い、さらにその後ろには、鎧を纏った護衛の騎士が追従する。重装備でありながら、足音どころか鎧がすれる音すらしない事からも、その実力の高さが伺える。
それもそのはず、先頭を歩く二人は―――
「エスタール帝国、皇帝、レウス・ロー・アルフレット・エスタールの入場!!」
―――この国の宰相と皇帝なのだから。
―――
「―――となり、技術省としては、魔術省からの情報提供を求めます」
「こちらは問題ない。情報と人員を回しましょう。経過報告はお願いしますよ?」
巨大な円卓を囲む様に各省の大臣が座り、その周りに各省の代表が控え、次々に必要な情報を開示、共有し議題を捌いていく。その際、沈黙も混乱も一切の淀みなく、会議は進んでいく。
円卓の外周では、帝国に所属している王国・貴族の重鎮やその代表たちも参列していた。本来なら彼等も発言を許されているのだが、そこに参戦する者はいない。なにせ議題の中には、自分たちの国の、自分たちが把握している以上に正確な情報が飛び交っているのだ、中には、物資や横流しや賄賂、裏金の情報まで、まるで世間話をするかの様な軽さで流される、非難も無く、裁かれることも無い。異様な光景が広がっていた。
簡単にバレる様なお粗末な隠蔽しかできない奴に、この国の人間は興味を持たない。
逆に、隠し通せる実力があるならば、彼らは平民、貧民、奴隷、はたまた犯罪者ですら利用し雇用する。その者を制御する自信と実力があるからだ。
ある者は、自分の悪事を晒され後悔し
ある者は、この場の在り方に恐怖し
ある者は、付いて行けず混乱し
ある者は、野心を滾らせ
ある者は、諦めを滲ませながら、話の流れを見守っていた。
実力が全て。これこそが、この国の在り方。実力者の国と言われる所以である。
「では最後の議題、件のスタンピードについてになります」
そして、今会議最大の問題が議題に上がった。
―――
「まず内務省より、被害報告を」
「始めに言っておく、これから報告することは、現時点で分かっている被害だ。これから更に増加する見込みであることを念頭に置いてくれ」
内務大臣のクロード・ローバン・ノーフェンスが説明を始める。
都市1、町12、村47…魔の森付近の全開拓村32村は全滅の見込み。細かい情報も合わせると、エンバーより先は全て消えたと思われる大災害に、周りから動揺の声が上がる。
「以上だ。唯一良い報告としては、防衛成功ラインより後ろで、残党を確認できていないこと程度だな。復興の目途も立っていない。資源が無いから、最悪しばらくはこのままかもしれない」
東へ開拓を進めていたのも、魔の森があった為だ。その森が無くなった今、無理をしてまで復興する理由がなくなってしまった。これは、住民のほぼ全てが亡くなっているからこその考え方である。避難民の住居や食事、住居の確保などを考える必要がない。
「商務省としては、無視できまへんな。森から入ってきていた上質な木材や薬草、魔物の素材と、無くなると大きな痛手やで?なぁ、財務省からも何か言ったってぇや、ゲルトはん」
「否定はしませんぞ。なにせ、魔の森から得られる収益は国家予算の10%を超えますからな」
商務大臣のテトがクロードの考えに異を唱え、財務大臣のゲルト・ルイス・マクシュートが肯定する
「魔力は豊富なんやろ? 土地もあるんやし、再生はできひんのか? そうす―――」
「否定はせん…が、それより先に確認することがあるじゃろ?」
「ん? なんやあったか?」
「…再発の可能性はあるか」
防衛大臣、ヴェーラ・ジェス・ガルガンティア。彼女の一言に、会場に動揺が走る。スタンピードは、原因を処理せねば再発する。それこそ数年、数か月…早ければ数日中に。
以前は場当たり的な対応しかできず、発生に対しその都度対応していたが、魔境省が設立されて以降研究が進み、原因を突き止めることに成功し、対策の仕方も確立している。その結果、ここ数十年大規模なスタンピードは発生していなかったのだ。
「では、私どもからご報告させていただきますね。この場には、スタンピードに詳しくない方もいらっしゃるでしょうから、その説明から致しましょう」
「助かる。俺が生まれてから今まで、スタンピードって起こった事なかったから、ぶっちゃけよくわかって無いんだわ」
魔境大臣のロロイラ・ロ・ベ・フェト・ファラモルテの言葉に、軍務大臣のヴォウが応える。
会場に居る若い年代の参列者も同様に、ロロイラ魔境大臣の説明に集中する。既に世間では、スタンピードは起こらないものと認識されていた。その為、スタンピードを経験したことがない者が、詳しく知らなくても不思議ではないのだ。
「スタンピードとは、簡単に言えば魔物の暴走を意味します。スタンピードと一言で表しても、その在り方は様々です。まずはその種類から入った方が分かりやすいでしょう」
ロロイラ魔境大臣が人差し指を上げながら、説明に入る。
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