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【閑話】アルベリオン王国

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「糞、糞、糞!」
(は~……)

 私は心の中で溜息をつく。全く嘆かわしい、これがこの国のトップの姿か。
 感情のままに動き、辺りに当たり散らす。まるで子供の癇癪だ、見るに堪えない。あ、それは先王が気に入っていた花瓶……。

(は~~……)

 私はドーン・アルベルク。ここアルべリオン王国に仕える侯爵家の次男だ。ここで私の家であるアルベルク家が、どのような立場かを説明するには建国当時まで遡る必要がある。
 アルべリオン王国は人間至上主義国家だ。
 建国時代、国とも呼べない部族がひしめき合っている中、ある二つの部族長が手を組んだ。

 二人はともに戦い、一世代で周辺部族を平定、亜人を駆逐し王国にまで伸し上った。ここで問題になったのが、どちらが王となるか。人望、功績共にどちらが王となってもおかしくなかった。一触即発の中、後のアルベリオンは王に、アルベルクは公爵の地位に就くことで忠誠を誓い、アルベリオン王国は誕生した。

 そのため、アルベルク公爵家はアルベリオン王家の相談役として、時には王の決定にすら異議を申し立てることのできる特別な家となったのだ。

 だが、それも昔の話。

 先王は病死、その後王位に就いたのが私の目の前にいる愚王だ。
 本来なら先王の長男が王位を継ぐはずだったが、三人いた息子たち共々先王亡き後全員が死ぬことになる。
 長男は暗殺され、次男は三男との勢力争いに、そして三男は先王と同じ症状の病にかかり死去した。

 そして、次代の王の候補に挙がったのがこれだった。本来であれば、血筋であるといっても遠縁も遠縁、しかもこの様な愚か者が王位に就くことなどありえない。だが、人間至上主義の貴族連中が担ぎ上げ、逆らう者は武力をもってねじ伏せ、力づくで王位についた。

 その者は、まさに愚王を体現するような男だった。自分を贔屓する者の言葉しか聞かず、思い通りにならなければ強権を振るい、従わないものは首を刎ねた。
 私の兄も例外なく……そして、建国当時から陰ながら支えてきたアルベルク公爵家は侯爵へ降格した。前代未聞である。

 そして今、定例国務会議の議題として、件の世界樹について上がっていた。

「何が世界樹だ! ただの枯れ木ではないか! 騙しおって!」

 他国から来た商人の話を鵜呑みにして、調査も出さなかったのは誰でしたかな? しかも、誰も世界樹だとは言っていませんでしたぞ、世界樹の様な巨木とは言っていましたが。

「軍の徴兵に、食料、いったいどれ程の損失が出たと思っている!」

 正確な数値は御見えになったのですかな? 見ていないでしょうね……。

「しかも、周囲に居たエルフを一匹も捕まえられなかったとはどういう事だ!!」

 行軍を急がせ、最短距離を真っ直ぐ進めば、相手も当然気が付くでしょうな。

「しかも、毒のせいであの付近には近づく事すら叶わんと言うではないか! 何をやっているのだ!」

 周りの意見を無視して、使用を決定したのは貴方では? そもそも、その毒のせいで木がダメになったのではと言う声も在りましたな。 

「まったく! どいつもこいつも無能ばかりだ!」

 ……それを貴方が言いますか。

「こんな状態で、我が領地を無断で占拠している、汚らわしい亜人どもを駆逐できるというのか! あぁ!?」

 先王が行っていた、獣人との和平へ向けた取り組みが気に食わなかったのでしょう。この愚王は獣人たちを必要以上に敵視している……いや、そう教育されたのだろう。

 北には、建国当時追い込む形で追いやった、獣人やエルフなどと言った通称亜人と言われる者たちの国、アルサーン王国。
 東には、先々代の王の政策によって伐採された元森の荒野、その先も砂漠が広がる不毛の大地。
 西には、南北を隔てるバルナック山脈、さらにその先には世界樹と思われていた巨木があった魔の森。
 そして南には―――

「焦る必要はありません。神は不浄なる亜人を浄化せんとする、貴方の善行を見ております。神は我々に、乗り越えられない試練は与えません。必ずや、やり遂げることが出来るでしょう」

 ―――人間至上主義を教義とする、神聖教を国教とする宗教国家、イラ王国。その使節団の一人が発言する。
 その言葉に、周りの者たちも賛同を示す。

 今や、我が国はこいつらの傀儡になり果てている。議員や貴族のほとんどは神聖教徒が占めている。
 こんな状態で異議を唱えようものなら、すぐさま首が飛ぶことだろう。
 私は死ぬわけにはいかないのです、そのためにもこの愚王の機嫌を害するわけにはいかない。
 私はアルベルク家として、最後までこの国を支えなければならない。……先王の忘れ形見である姫様を守るためにも。
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