上 下
66 / 67

弟子ラルフ

しおりを挟む
ーー 白の休み(2年前からの回想)

久しぶりに自領に帰ってきた。
領主代行に私の居なかった間の変化を聞いたが問題ないようだった。

弟子にと付いてきたラルフを暫定的に家臣とし、騎士爵を与えた。
午前中は、早朝から訓練に汗を流し午後からは、エストニア侯爵領を見て回る日課を続けている。
ラルフは、地下街や移転陣に興味を持ったようで、作り方や使い方を聞いてきたので、隙を見ては教えると意外と出来ることに気づいた。

そに他温泉や屋敷の装備一式が大変感動的だったようで、収納袋をあげると作っては収納し始めた。
自国に帰ってから使えるようにするのだそうだ。

先日も魔物の鳥を討伐しては、羽をむしっていたので羽毛布団を作る気だろう。

そうこうしているうちに2年が経ち、ラルフがお願いに来た。
「一度ここで学んだ物を自国に持って帰って、使えるか試してみたいのですが。」
と言うことで、幾つか私からもプレゼントすることで、2人でトーラル王国に戻り、半年をかけて地下都市や鉄道網などを完成させた。
トーラル国王は大変喜んでおり、ラルフも家族に過ごしやすい家をプレゼントできたようだ。
するとラルフが
「今後もよろしくお願いします。」
とさらに修行を続けることを言って来た、私はその意志を受けセガール王国に戻ったのだった。

ラルフが弟子になって、3年の月日が流れ白の季節となった。
明日から中央大森林に向かい、魔物(ドラゴン)を狩に行こうと思う。
ラルフを呼び
「明日、中央大森林の火山で火竜を狩る、準備しておくように。」
と言うと緊張はしているが、ハッキリとした口調で
「分かりました、準備しておきます。」
と答えた。
以前の若い地竜と違い明日の火竜は、レベルも高い本当のドラゴンと言えよう。
力試しにはもってこいだろう。



ーー 真のドラゴンスレイヤー


次の朝早く準備を終えたラルフを連れて、転移魔法で中央大森林へ移動する。

「ここは今から行く火山、火を吹く山のことだが、そこに居る火竜の住処の北側1kmの所だ。ここから先は自分で向かい、ターゲットを決めたら自分で倒して来なさい。」
と言うと「はい」と答えて力強く歩いていった。

当然私は、離れた上空から様子を見る予定だ。
危なくても息さえあれば何とかなるので、健闘を祈ろう。

ラルフは、火竜を見つけたようだ。
数体の火竜がいたがその中で意外と大きな火竜を目標にしたようだ。

ドラゴンという生き物は、個で生活している。数体が一緒にいても戦うのはほぼ一体だけだ。
目標とされた火竜が意識をラルフに向けた、これから狩の始まりだ。


ラルフは、新調したミスリルの両手剣を抜くと、水の属性を纏い始める。
「ウリャー!」
掛け声一閃、火竜の前足に両手剣を叩きつける。
「ジューッ」
水が蒸発するような音がして、火竜の前足の鱗が飛び散る。
斬撃は効果あるようだ、火竜が嫌がり前足を高くあげると上からのしかかるようにラルフに前足を叩きつけて来た。
しかし既にラルフは、その場にいない。

ラルフは既に、火竜の左後脚に次に斬撃を叩きつけるところだった。
「ジューッ」
「ガガガーウ」
水が蒸発するような音と、ドラゴンの唸り声が響く。
火竜が身を翻しラルフを探すが既に場所を移動して、火竜の尾を次の目標に剣を叩きつけた。
「ゴーー!」
火竜が大きく声を上げる。
浅くはない傷が尾に出来ていた。

ラルフの姿を捉えた火竜がブレスを吐く事前の動作に入った。
その動きを見逃さずラルフは、素早く火竜の顎下に潜り込むと下から顎を両手剣で突き上げた。

顎下を貫通した両手剣が上顎まで達し、上手く口を開けられなくなった火竜は口の中でブレスを暴発させる。

結界魔法でブレスの飛び火を防ぐラルフ、怒り狂った火竜は口に剣を刺したまま、ラルフに躍りかかろうとする。
ラルフはもう一本剣を取り出すと軽いステップで、火竜に近づくと喉元から頭に向けて再度剣を突き刺す。

流石の火竜もこの攻撃は急所を突いたようで、のたうち回りながらやがて息絶えた。
ラルフが真のドラゴンスレイヤーとなった瞬間だ。

私は、ゆっくりとその場所に舞い降りると、火竜の死をを確認して
「よくやった、これで免許皆伝だな。」
と修行の終わりを宣言した。


ーー ラルフトーラル王国に帰還す。

セガール王国国王に弟子のラルフが、ドラゴンスレーヤーになったことを報告した後、メンバーで集まりお祝い兼送別会を開いた。
「しかしよく3年でそこまで力をつけたもんだな。」
マッケンジー君が感心したように声をかける。

私は今日の日のために倒した火竜で作り上げた防具を取り出すと
「これはあの時の下流の鱗で作った防具だ。これから先ラルフの身を守ってくれよう。」
と言いながら手渡した。
「ありがとうございます。ここでの修行と学んだことは私のこれからの糧となりました。皆さん本当にありがとうございました。」
と深々と頭を下げた。

セガール王国を旅たったラルフは、大砂漠を超えて3年ぶりの故郷の土を踏みながら
「帰ってきた、やりきって。」
と呟きながら走り出した。

今のラルフの進路に立ち塞がれるような魔物は殆どいない。
そんなラルフの耳に女性の悲鳴が聞こえた。
「ん!誰かが襲われている。」
声のする方に走り出すと、馬車が横倒しになり周囲に人が倒れ盗賊が馬車の中の人を引き摺り出そうとしている。

「我が祖国でこのような暴挙見逃せるか!」
怒りの形相で駆けつけると、盗賊を次々に切り捨ててゆく。
それに気づいた盗賊は、相手が1人と気づくと舐めてかかった。
「こいつから先に殺せ!」
数人がラルフに斬りかかるが、盗賊が何人束になってもかすり傷すら付けられれず、ラルフに首を斬り飛ばされる。

最後の1人が命乞いを仕掛けたが最後まで喋ることすらできずに息絶えた。
「おい!馬車の中の人、大丈夫か?外の盗賊は倒した、怪我をしているものはいないか?」
と声をかけ、安心したところで、馬車から引き出して怪我のある者にはポーションを与えた。

数人がかりで馬車を起こしトーラル王国へラルフも同行することになった。
「ラルフ様本当にありがとうございます。」
とお礼を言うのは、トーラル王国の侯爵家の三女サンドラ15歳であった。

成人して初めてセガール王国に留学しての帰りに襲われたのだった。
「それではラルフ様はあのエストニア侯爵様のお弟子さんだったのですね。修行を無事終えられて晴れてトーラル王国に戻られることに、本当に私は運が良かったと思います。ぜひ我が屋敷にお立ち寄りくださいませ。」
と言われ、断ることもできずラルフは一先ず侯爵家に向かったのだった。

そのあと縁が繋がった、ラルフとサンドラが親しくなるのにそう時間はかからなかった。
侯爵もトーラル王国の英雄を婿にもらうのは、とても都合がよかったのだ。
侯爵領は、大砂漠に領地が接し常に魔物の脅威にさらされていたからだ。
その後ラルフは、「砂漠の英雄ラルフ」と呼ばれるようになり、トーラル王国内で開催される武術大会で10年間負け知らずであった。


王都に着いたラルフは、国王に修行終了の挨拶を行い、国王からドラゴンスレイヤーの称号を受けると騎士団隊長に就任したが3年後には、侯爵家に婿入りし騎士団を離れた。

これによりトーラル王国とセガール王国は、大砂漠を挟んで友好な関係を結び長く平和を共有する仲となった。
しおりを挟む
感想 241

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

現代の知識と科学で魔法を駆使する

モンド
ファンタジー
山奥に住む男は定年後、実家のあった田舎に移り住んだUターン者である。 古くなった母屋を取り壊し、自分で家を立て始めていたがその作業中に埋蔵金を掘り当てた、時価総額100億円以上。 そんな悠々自適な生活を送っていたところ、子供の頃から不思議に感じていた隧道が自宅裏山にあったことを思い出す、どこに通じているかと興味に惹かれ隧道に入ると、歩くほどに体が若返っていくのが分かる・・・、そのまま進むと突然、光に飲まれ気づくと石積みの部屋に立っていた。 その部屋には脇に机が一つ置かれてあり和紙の紙束と日本刀が一振り置いてあった。 紙束を開くとそこには自分の先祖と思われる人物の日記が書かれていた。 『この先はこの世でない世界が広がり、見たことも聞いたこともない人々や 動植物に恐ろしい魔物、手妻の様な技に仙人の様な者までいる、しかもその 世界において身に付いた技や力は現世に戻っても変わることがない。志ある ならひと旗あげるのも一興、ゆめゆめ疑うことなかれ。』 最後のページにはこの言葉と「後は子孫に託す」との言葉で締められていた。 男は刀を腰に下げると出口と思われる方に歩きだした、10歩も歩かぬうちに光に包まれ森の洞窟の出口あたりに立っていた。 立っていた場所から車一台分の幅で未舗装であるがしっかりとした道路がなだらかな地形に沿って続いているのが見える、そこで男は食料や水を持っていなかったことに気付き一旦洞窟の方に歩き出すと、いつのまにか石室に立っておりそのまま歩くと隧道の入り口に立っていた、違っているのは17・8歳の若々しい身体の自分と腰に下げた刀が不思議な体験を事実と肯定していた。 冒険の準備を済ませ、自衛隊仕様のジープに荷物を載せて隧道に車を走らせると、あの石室を通過して洞窟の前にたどり着いた。 ここから男の冒険の始まり、セカンドライフよろしく21世紀の科学と不思議な世界で得たスキルで成り上がる男の物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

勇者を否定されて追放されたため使いどころを失った、勇者の証しの無駄遣い

網野ホウ
ファンタジー
「勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした」から改題しました。 ※小説家になろうで先行連載してます。 何の取り柄もない凡人の三波新は、異世界に勇者として召喚された。 他の勇者たちと力を合わせないと魔王を討伐できず、それぞれの世界に帰ることもできない。 しかし召喚術を用いた大司祭とそれを命じた国王から、その能力故に新のみが疎まれ、追放された。 勇者であることも能力のことも、そして異世界のことも一切知らされていない新は、現実世界に戻る方法が見つかるまで、右も左も分からない異世界で生活していかなければならない。 そんな新が持っている能力とは? そんな新が見つけた仕事とは? 戻り方があるかどうか分からないこの異世界でのスローライフ、スタートです。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

処理中です...