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勇者ヒカルの挫折

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ーー 勇者ヒカルの活躍と挫折

西部大森林に向かう勇者ヒカリのパーティー、順調に魔物を倒してそのまま南大森林へと向かう計画だ。
今までの情報から西部、中央大森林と大砂漠の魔王軍は討伐されたようで、残るは南大森林の魔王率いる本体となる。

大型魔物やワイバーンなどの魔物を討伐し、パーティーの士気も爆上がりのまま、南大森林へと向かった。
「勇者様この調子なら魔王も恐れることはなさそうですね。」
盾役のドーリーと言う巨人種の男が言えば、
「問題ないですわ。私の魔法もまだ半分ほどの力しか出しておりませんから。」
と後方支援の魔法師ベルガーが自慢げに話す。

他には教会派遣の癒し手シスター・セリー、シーフの猫人族ミュヤーに槍使いのリザードマン種のコウライの6人のパーティーに、小間使いやメイドに御者など総勢20人ほど。

「ここからは南大森林だ、木を抜くなよ。」
ヒカルが皆に注意しながら、森を進む。

3日ほど侵攻し、そこそこの魔物と戦うも勇者パーティーにまともに打ち合えるような魔物は、存在せず見ながら楽勝気分を見せ始めていた。

そんな野宿の夜、やたら周りにコウモリが姿を見せ始めた。
「この森はコウモリが多いな」
誰かがそんな言葉を呟いた。

深夜見張り役の警護の聖騎士が音もなく殺された。
3人とも首に噛み跡があり、体内の血液を吸い取られていた。
次の日の朝それに気づいた残りの騎士3人が、周囲を探るも何の痕跡も見つけられなかったが、勇者ヒカルは
「ここにはドラキュラ・・吸血鬼は存在するのか?」
と聞いた。
「ドラキュラは存じませんが、吸血鬼は存在します。」
「同じ系統でアンデット系の魔物も・・ただあまり見かけることはないと聞いています。」
と言う答えに、黙り込む勇者。

次の夜、また聖騎士が犠牲になった。
「このままではいけない。何かてはないか?」
焦り出す勇者に魔道師ベルガーが
「私が結界の魔法で警戒するわ。」
と言うことでその夜からベルガーが結界を張ることになったが、持続時間が2時間ほどなので度々起きて張り直す作業は、ベルガーの疲労となった。

次に狙われたのは、食糧だった。
決壊は地上を覆うように張られているため、地下から結界内に侵入されたのである。
「これは酷いな、暫くは食糧になる魔物を狩るしかないようだ。」
と言う勇者に頷くメンバーであったがその日から、魔物を見かけることがなくなった。
「これは魔王軍の攻めなのか?」
勇者は、一旦戻ることを考え始めた。

そこに魔物が襲いかかって来た。毒を持つ蜘蛛や蛇に蜂だ。
「毒を持っているぞ、針や牙に気をつけろ!」
素早く指示を出す勇者、ただしそれぞれ数が多い。
「ここから離脱するぞ!ついて来い。」
と言いながら移動していった勇者一行であったが、攻撃が一段落する頃には勇者パーティーメンバーしか残っていなかった。

「これは不味いな。一旦森の外に出るぞ。」
と方針を決め森の外に出れたのはそれから4日後のことだった。
その間6人はほとんど寝ることもできず、かなり疲弊していた。

「これでは魔王に見える前に力尽きてします。どうしたらいいんだ。」
挫折と苦悩に苦労する勇者ヒカル。

「もう一度初めからやり直しましょう。おそぎすぎる必要はありません。」
教会のシスター・セリーがそう言うと皆聖皇国に向けて戻り始めたが、そこは魔王軍に滅ぼされたトラザール王国。
彼らは撤退の道を間違えたのだ。

その日から夜になると、アンデットが襲い掛かるようになる。
滅びた王国民や騎士団などがスケルトンやグールとなり、更には吸血鬼が絶え間なく攻撃をしてくるため、皆睡眠を取ることもまともに食事をすることもできなかった。
もう少しで西部大森林に辿り着くと言うとこで、勇者パーティーは勘違いしていた。
大した魔物もいない行きと同じ程度だと思い込みながら、森に入る。
そこには魔王軍配下のキマイラが率いる4本足の魔物軍が待ち受けようていた。

「勇者様、どやら我々は罠にかかったようです。勇者様だけでも必ず聖皇国にお戻りくださることを考えて行動してください。」
リザードマンのコウライがそう言うと、取り囲む魔物軍団に飛び込んでいった。

勇者は勘違いをしていた、レベルさえ高ければこの世界では問題ないと考えていたのだ。
しかしこの世界の者はレベルの話をしない、自分のレベルを知らないのだいや、レベル自体勇者やごく一部のものにしか適応されないスキルなのではないか。

盾のドーリーが襲い掛かる魔物を叩き伏せながら、勇者の道を作る。
いくら勇者が強かろうと、数の能力や睡眠食事の不足には勝てない。
昼は魔物夜はアンデット、このコンボで襲われれば勇者といえど立ち行かない。

必死の思いで森を抜け聖皇国に辿り着いた時に、勇者のそばにいたのは、シーフのミュヤーだけだった。
彼女は自分の存在をほとんど感じさせずに移動できるため、生還できたと思われる。
大敗退の勇者パーティーだった。


ーー 聖皇国からの依頼


勇者パーティーが大敗して逃げ帰った後、聖皇国では対魔王についての話が行われた。
「攻めるにも後退するにも速度と安全が大切ではないか。転移魔法を使える魔法師はいないのか?」
聖皇国の教皇が言い出せば、
「一人ではなくパーティー全員を転移させることができる魔法師など、おとぎ話のような話です。そのようなものはおりますまい。」
聖騎士団の魔法担当の隊長格がそう言うと
「いや、セガール王国に転移魔法の得意な貴族がいると聞いたことがある。しかも複数のものを一度に移転できると言う話だ。」
と宰相が言い出す。
「それは真か?魔王はこの世界の災悪、各国の協力が必要な問題だ。直ぐにセガール王国に協力要請を出せ!」
と言うことと、新たなパーティーメンバーの募集を発表した。


セガール王国の王宮にて。

「宰相よ、この様な依頼が聖皇国からの来た。」
と言いながら親書を見せる。
「・・・これはエストニア伯爵の事ですね。如何しますか?」
「エストニア伯爵は我がセガール王国にとっても失うわけにはいかない人材だ。それを考えてエストニア伯爵を呼んで検討しよう。」
と言う話になり、次の日には呼び出しを受けた私は王宮に。

「エストニア伯爵お呼びにより参上いたしました。」
と挨拶すると、宰相殿から
「すまぬが貴公に聖皇国に行ってもらいたいのだ。そこで勇者とそのパーティーを見て、魔王に対して戦力として成り立つならば、我が国代表として勇者パーティーに入ってもらいたい。それに叶わぬ実力ならば戻って来て構わぬ。」
と言う内容であった。
「分かりました取り敢えず、勇者にあって来ます。」
と私は答え、聖皇国に向かった。
馬車と馬車を引く精霊馬、各種ポーションに大量の食糧を収納し転移魔法で西部大森林へ。
そこで勇者を待ち受けていると思われる、キマイラ率いる4本足の魔物8000を殲滅しながら森を出ると、馬車を出し精霊馬を召喚して聖皇国に向かう。

3日ほどで王都にたどり着く。
セガール王国国王の親書を宰相に手渡し、王都の冒険者ギルドを訪れる。

聖皇国の王都の冒険者ギルドは、他国と同じような建物で冒険者が昼であるのに大勢が酒を飲みながら愚痴を漏らしていた。
「西部大森林にはキマイラや獰猛な魔物がかなりの数がいて、俺らの力じゃ全く森に入れねえぜ。」
「本当だよ、勇者様も大したことねえと言うことか、こりゃ魔王に勝てねえだろうな。」
などと言う勝手な噂や愚痴だ。

私は買取カンターに向かい暇そうにしていた職員に
「西部大森林で大物を狩ってきた、かなりの量があるどこで出せばいいか教えてくれ。」
とわざと周辺に聞こえるように声をかけた、驚いた職員が胡散臭そうに
「あんたね、今の状況がわかってそんなホラを吹いているのか。いい加減にしろよ。」
と言うと、話を聞いていた他の冒険者まで取り囲むように寄ってきて
「お前、いい加減な話をするんじゃねえよ。つらかせよ!おい。」
「そんなに狩ってきたのならどこにあるんだ?ここに持って来いよ。おら!」
と言うので私は、キマイラを取り出した。
魔王の配下のキマイラは巨体で、一頭だけでギルドの天井に届きそうなほどの大きさがあった。

その姿を見た職員や冒険者は、腰を抜かして
「これは・・キマイラなのか?これほど大きな魔物は・・見たこともねえ。」
と一人が言えば、気を取り戻した職員が
「疑って申し訳ありません、直ぐに対応します。裏にお越しください。」
と言うのでキマイラをそのままにして裏に回った。

私がいなくなったギルド内は蜂の巣をつついたような大騒ぎ、ギルマスもその騒ぎに気づき部屋から出てきて、巨大なキマイラを見て
「これはどうしたんだ?」
と叫び出した。

「先程、ここでは見かけない若い男性が現れて、西部大森林でかなりの魔物を狩ってきたと言われて、今裏の倉庫で確認中です。」
と受付嬢が言えば
「若い男性?冒険者だろそいつ?」
「いいえ、雰囲気から多分・・貴族かと。」
と答える受付嬢の言葉に先程絡んでいた冒険者らが、ギルドを慌てて飛び出して逃げ出した。
貴族にあまりにも不敬な態度の身の危険を感じたのだろう。

するとギルマスは、急に黙り込んで考え始めた。
「まさか・・セガール王国の・・しかし・・。」
と言いながら裏の倉庫に向かった。

ギルド裏の倉庫。

「ここに出してもらえますか?」
先ほどの買取職員が言う、私は収納から次々に魔物を取り出し始める。
その全てが普通の魔物より大きい。
「フォーハンドベアーにビッグボア・・どれも普通のものより1.5倍はある。」
と驚きながらも、次々に倉庫を埋める魔物に冷や汗を流し始めた。
「申し訳ありませんが後どれほど出していただけるのでしょうか?」
もう一杯一杯の職員だが相手の機嫌を損なわないように尋ねる。
「まだ50も出していないだろ、私が狩った魔物は約8000だ。後どれくらい大丈夫なんだ?」
と聞かれ
「もうこれで、はい。でもこの規模の魔物を8000ですか?ひょっとして西部大森林の魔王軍の魔物を討伐されたのですか?」
と軽く聞いた職員は
「ああそうだ、キマイラ率いる8000の魔王軍を片付けてきたんだ。」
と答える若者に職員は空いた口が塞がらなかった。
そこにギルマスが現れて、倉庫の魔物を見て
「後どのくらい持ってきているんだ?」
と職員に聞くと
「西部大森林の魔王軍8000を討伐して持ってきたそうです。」
と答える職員にギルマスは、驚くも私に顔を向けると
「貴方はセガール王国のエストニア様ではありませんか?」
と聞いてきた。
「おお、よく分かったな。確かに私はセガール王国エストニア伯爵だ。聖皇国に呼ばれて来たとこだ、その途中で西部大森林の魔王軍を片付けたのだ。」
とそこら辺を散歩して来たように言うと
「確かにエストニア伯爵様ならそうでしょう。しかしこれほどの魔物であれば、処理できる数が知れています。小分けに出していただけると助かります。」
と頭を下げた、その様子を見た職員は頭を下げるギルマスに違う意味で驚いていた。

その後ギルマスの部屋に呼ばれて
「では今、西部大森林には、魔王軍の魔物はいないと言うことでよろしいのでしょうか?」
「ああそうだ、他の魔物は普通の大きさであった。冒険者でも狩ることはできよう。」
「ありがとうございます。してここには勇者様のパーティーに参加されに来られたのでしょうか?」
「まだわからぬな、勇者殿の力や他のパーティーメンバーの力がわかねば、上手くいくものも上手く行かぬ。」
と答える私にギルマスはため息をつきながら
「一つだけ伝えておきます。勇者様は流石の勇者でありますが、まだ経験も少なくまだ魔王に対応するには早いと言えます。パーティーメンバーについても、以前のメンバーでのレベルではまた同じ結果でしょう。それならエストニア伯爵様単独の方がよっぽ可能性があります。」
と答えた。

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