上 下
44 / 67

ダメ女神の後始末

しおりを挟む
ーー ダメ女神の後始末。

城壁の外のエデン王国軍の前に舞い降りた私は
「その兵らを扇動していた女神の使徒を名乗るブラックなる男は私が倒し、女神の手により元の世界に送り返された。
ここより引き上げないと言うのであれば、このセガール王国エストニア伯爵が相手になる。
その気が無ければ命あるうちの国に帰れ!」
と威圧を込めて命じると、逃げるように飢えた体に鞭打って引き上げ出した。

その後私はエデン王国の王城に飛行魔法で飛ぶと、王城に舞い降り
「国王に面会を要求する、我はエストニア。女神の使徒を名乗るブラックを倒した者である。」
と声を上げると、王城が火のついたような騒がしさに変わった。

100人ほどの兵が私を取り押さえようと出て来たのを、雷撃で打ち倒すと。
重鎮らしき者が現れた。
「その方が使徒様を倒したというのは真か?それならば証拠を見せよ。」
というのにブラックの持っていた剣を取り出し
「これにも覚えがあろう、あの男は既にこの世界にはいない。女神が直接送り返した。これから先は他国に攻め入ったお前達の処断のみだ。」
と答えると。
狼狽えるように引き返し、しばらくすると
「わしがエデン王国の国王である。お主の言葉が正しければ我が王国は処断に値する行いをしたことになる。」
と肩を下げた。

私は一冊の本を取り出すと
「これに今回の災害の復旧の方法が書かれてある、食料については幾らか持ってきたが後は、魔物を狩って飢えを凌ぐことだ。
エデン王国に派遣した王国軍は今帰る途中だが、その行い次第では処断が重くなると覚えとくように。」
と言うと魔法袋を3つ取り出して差し出した。
そして私は転移魔法でトーラル王国に戻ったのだ。

ーー トーラル王国にて。

突然の侵攻により、多くの食糧や領民達の住む家を失ったが、幸にして人の命は守られたトーラル王国に戻った私は、国王に対して同じように。
「これは復興のための方法が書かれた本です、これを元に復興するかは国王次第、食糧も僅かながら置いておくので使ってください。」
と言うと私は兵を連れてセガール王国に戻って行った。


私たちが立ち去った後、国王を交えた会議をしていたところに、戦果の報告と私の本と食料を確認していた側近が報告に来た。
「申し上げます。王国東にある大山脈の谷に築かれた城壁について、事実でありました。しかもどんな攻撃にもびくともしないほどの丈夫さでございます。」
と報告があると別の者が
「報告します、あの者が残していった魔法袋に中の食料は、今回の侵略で被害に遭った倍ほどの量がありました。さらにあの本に書かれてある方法でセガール王国の復興が行われていると、確認が取れました。」
と報告した者は部屋を出ていった。

この二つの報告を聞いた重鎮達は
「これであのエストニア伯爵が言ったことの確認が取れました。我が王国は危機を脱したのです。陛下。」
と言う宰相の言葉に国王は深く頷くと、
「セガール王国宛に親書を届けよ。そしてかの英雄を我が王国の救国の勇者として伯爵位を贈ろうぞ。」
と断言した。

ーー  その頃ミセール王国では、女神が後始末を。


「使徒様、これで完成にございます。」
と教会の建設を依頼された貴族が出来上がった一風変わった教会に、使徒の女性を案内した。

中に入ると不思議な空間が広がっていた、この世界での教会とは一神教の女神教。
尖った塔と光が特徴の教会であったが、これは丸く黒い建物で蝋燭の火が唯一の灯り、さかさ十時のクロスが飾られて祀ってあった。
これは悪魔崇拝の教会であった。

するとそこに天から雷がいく本も落ちてゆく。
「ズドーン、ズドーン。」
繰り返される、落雷。

光と音が静まった後に残ったのは、瓦礫に姿を変えた教会と使徒の女性の焼け焦げた死体だった。

「私の世界に事もあろうにあの悪魔を呼び寄せようとは・・・許しがたし!流石の私も我の浅慮に気付いた。これよりは神のルールに従おう。」
と反省した女神の声が聞こえたが、果たしてどこまで反省したのやら。


ーー 凱旋。

トーラル王国へのエデン王国軍の侵攻を防ぎ、復興の手助けをした私を待っていたのは、王国をあげての凱旋だった。

「大したこともしていないのに、これは気恥ずかしいな。」
と漏らす私の隣で、行軍の隊長が
「とんでもございません、エストニア伯爵様は胸を張っていらしてください。」
と声をかけてくれた。
王都中が沸き上がっていた、出店のような屋台が多く並びまるで祭りで神輿を見る人のようだった。

「祭りはいいよな、また大きな祭りをしようかな。」
と独り言を言いながら、声援に答える私だった。


ーー 地球の神の呟き。

今回またあのバカがルールを破ったわ。本当ならあいつごと管理している世界をリサイクルしようとも思ったけど、私の子供がいるからしょうがないわ。
でもこの次はないからね。その時は私の子供を取り戻してアイツを再教育に回してやる。

ぷんぷんしていたら大神が私に声をかけてきた、どうやら大神もこの事は気付いていたようだ。
「あなたの怒りもわかるが、その埋め合わせはそのうちするから」
と言われれば、ハイとしか言えないわ。でも借りができただけでも十分よ。
また何かお礼をしておこうかしら。
ウフフフフ。


ーー 白の休み。今年の雪はさらに多そうだ。

実りの黄の季節を終えて、セガール王国は災害があったとは思えないほどの収穫量があった。
毎年厳しくなる季節に備えるべく、装備の改良に力を入れているので白の季節も問題なく乗り越えられるだろう。

私は、融雪機構をメインの道路に備え付けながら伯爵領を改良してゆく、家々の軒を丈夫で広くし、屋根の高配をキツく作り上げて雪を落とすようにしていった。
雪かきはとても重労働で、それを怠ると家などを破壊する恐れがある。
雪を一瞬で溶かす魔道具も作っているが、全ての家に備えるのは無理だ、そこで冒険者ギルドに依頼として雪かきや除雪を頼む準備もし始めた。
馬車が雪で通れなくなれば、流通も滞ることになる、流通手段も幾つか準備しておこう。

以前開発していた魔法陣を量産して、出荷場と市場、市場と商会、商会と商会とを結ぶ商品のネットワークを構築した。
動力は魔石だが今のうちに魔物を狩っておけば、使徒の季節の間ぐらい大丈夫だろう。

私は家臣団を連れて森に魔物狩りに向かう、訓練を兼ねて行う魔物狩りはとても都合がいい。
当然家臣団には臨時防ナスを支給するし、携行する装備も私持ちなので喜んで参加してくれる。

そんなことをしながら毎日を過ごしていたら、いつの間にか雪がちらつき始め、その雪は降り止むことなく根雪となった。


ーー 白の季節、雪国の生活。


予想通り今度の季節は、大雪のようだ。
事前に準備していた私の領地やメンバーや実家などは、私の忠告を素直に聞いてお金をかけて準備をすめせていたようだ。

このかけたお金以上の問題がしていない領地にのしかかる。
雪は歴史上記録にないほどの大雪で、さすがに雪下ろしが進まない田舎の古い建物などは、倒壊したりしたが。
事前に避難用の建物を建築しており、当座はそこで生活することで済んでいるようだ。

交通も雪で遮断されるところが多く出たが、私の物流魔法陣のおかげで食糧や薬の補充は問題ないようだ。

冒険者ギルドにも連日雪下ろしの依頼を出し、融雪用の穴に下ろした雪を捨ててもらっている。

白の季節は冒険者も仕事が少ない時期なので、身入りの良い雪かきは人気があった。


ーー  セガール王国の重鎮会議。


「この大雪で、多くの領地が困っているようだが何か手はないのか?」
国王が皆を見回すと
「手段については以前エストニア伯爵が皆に情報を回していたと思うが、それについて何も対策を取っていなかったのかね。」
ケンドール公爵が黙っている重鎮に問う

「私のところでも情報が来たから、ほとんどの手は打っていたよ、お陰でほとんど問題はないかな。しかし寄子の中には金を惜しんで準備をしていないとこもあったな。」
とサンドール侯爵が答えると、同意する者や言い訳をする者がで始めた。
それを聞いていた国王は、
「情報とそれに対する手段が教えられていたのであれば、王国としても手を出す必要はないな。この話はこれまでとしよう。」
と大雪対策は30分ほどで終了した。

「子爵のところはどうですか?うちはあまり余裕が無かったので・・・大した対策をしておらず・・困っております。」
「私のところも同じですよ、まさかここまでの雪が降るなど、誰も思いませんよ。」
などと危機感のない貴族連中が愚痴を言うのを聞きながら、サンドール侯爵宰相はため息をついた。

「このままでは我がセガール王国の貴族も若い者に取って代わられそうだ。」
と呟くと対策に奔走していた息子の姿を思い出していた。


ーー クロニアル伯爵   side


僕はサンドール侯爵家の嫡男クロニアル伯爵。
学園時代に親友のエストニア君らと色々な経験を積んだ際に、恩賞として伯爵位を頂いたのだ。

今お父様は、王国の宰相として忙しい毎日を送っているので、僕がその代わりに領地を管理しているのだ。
先日、エストニア君から新たな情報をもらった僕は、すぐに対応することにした。

その前も彼からの情報で領地は被害が抑えられた経験があったからだ。
しかし彼はどうしてこれから起こる災害がわかるのだろう。
今回も今まで記録もないことなのに、被害の予想や対応についてどうして知ることや対処が分かるのか・・・。

そいう疑問は別にして、提示された手段をしない理由はない。
可能な限り準備を行うと、予想通り大雪が積もり出しインフラや交通網が大混乱し始めた。
しかし物の流通は物流用の魔法陣を要所要所に設置したおかげで、滞ることはなかった。
施設や住宅の積雪による倒壊も予想範囲内で、事前に用意していた避難所に移り住むことで、大きな混乱はなかった。
全てエストニア伯爵の予想通りであったのだ。

これらの結果を見てお父様から、「よくやった」と誉められたがそこまで自分が優秀だとは思っていない。

もっと勉強して領地を守れる実力を身につけたいと切に思った。


ーー エリーナ・セリーナ子爵   side

大雪で予想以外のことが多くあった季節だった。
ダンジョンを管理する私達にとって、冒険者らがダンジョンに潜れないことが1番の問題だ。
事前にエストニア伯爵から大雪が降るとの情報を得ていた私たちは、王都からダンジョンまでの道に、融雪溝を備え雪かきの依頼を常時出していたおかげで、冒険者がダンジョンに潜れないという状態は防ぐことができた。

領民の生活にも必要最低限の物資の運搬には、運搬用魔法陣を使うことで凌ぐことができた。
エストニア伯爵には学園の頃からお世話になっていたが、これからも大事にしておきたい友人であることに間違いない。


ーー 隣国の状況。

この世界の四季がはっきりし出し、大雨や大雪が降ったり、日照りや乾燥が顕著になる現象は、広範囲に渡った。

今まで雪が降らない地域でも雪がちらつき、永久凍土の地域が沼のようになったり、砂漠化が広がったりと大きな影響を及ぼしていたが、これから先もっと激しくなるということをこの時、この世界の住人は1人を除いて考えていなかった。

飢饉や水害という災害で、人口を失った地域や国力が大きく落ちた王国が殆どだった、セガール王国のような被害に少ない国は貴重な例なのである。

しおりを挟む
感想 241

あなたにおすすめの小説

現代の知識と科学で魔法を駆使する

モンド
ファンタジー
山奥に住む男は定年後、実家のあった田舎に移り住んだUターン者である。 古くなった母屋を取り壊し、自分で家を立て始めていたがその作業中に埋蔵金を掘り当てた、時価総額100億円以上。 そんな悠々自適な生活を送っていたところ、子供の頃から不思議に感じていた隧道が自宅裏山にあったことを思い出す、どこに通じているかと興味に惹かれ隧道に入ると、歩くほどに体が若返っていくのが分かる・・・、そのまま進むと突然、光に飲まれ気づくと石積みの部屋に立っていた。 その部屋には脇に机が一つ置かれてあり和紙の紙束と日本刀が一振り置いてあった。 紙束を開くとそこには自分の先祖と思われる人物の日記が書かれていた。 『この先はこの世でない世界が広がり、見たことも聞いたこともない人々や 動植物に恐ろしい魔物、手妻の様な技に仙人の様な者までいる、しかもその 世界において身に付いた技や力は現世に戻っても変わることがない。志ある ならひと旗あげるのも一興、ゆめゆめ疑うことなかれ。』 最後のページにはこの言葉と「後は子孫に託す」との言葉で締められていた。 男は刀を腰に下げると出口と思われる方に歩きだした、10歩も歩かぬうちに光に包まれ森の洞窟の出口あたりに立っていた。 立っていた場所から車一台分の幅で未舗装であるがしっかりとした道路がなだらかな地形に沿って続いているのが見える、そこで男は食料や水を持っていなかったことに気付き一旦洞窟の方に歩き出すと、いつのまにか石室に立っておりそのまま歩くと隧道の入り口に立っていた、違っているのは17・8歳の若々しい身体の自分と腰に下げた刀が不思議な体験を事実と肯定していた。 冒険の準備を済ませ、自衛隊仕様のジープに荷物を載せて隧道に車を走らせると、あの石室を通過して洞窟の前にたどり着いた。 ここから男の冒険の始まり、セカンドライフよろしく21世紀の科学と不思議な世界で得たスキルで成り上がる男の物語。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

病床の末期癌患者は、異世界で若さと健康を取り戻す。

モンド
ファンタジー
仕事だけが生きがいの男が突然、末期ガンの告知を受け生きる気力を失う。 病床のベッドの上で朦朧とした意識の中妙な夢を見始める。 その頃から体に変調が現れ、いつの間にか病床から消えてしまった男。 男はいつの間にか健康になって、森の中に立っていた、そこは異世界の森だった。 男は本当の生きがいを求めて旅を始めるのだった。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...