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魔族の国と魔王

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ーー  魔族の国。


山脈を越えると深い谷がありその先に魔族領がある様だ。
谷の上は重力がかなり高くファーストなら通過できるが、ソーニャ達は難しそうなので下道をさがすことにした。
すると谷の下に抜けるトンネルが両方にあるのが見えた。

「これを通ってあいつらは来てたのか。」
と納得しながらファーストは、谷に降り谷を渡ると穴を通って魔族領へ。
その際、通ってきた穴は塞いでおいた。

長いトンネルを登り切ると、灰色に濁った空が出迎えた。
「魔族の国はこんな天気なのか?気鬱になりそうだな。」
とぼやきながらファースト達は道なりに進む。

向こうに街の様な建物が見えた頃、荒れ果てた畑に魔族の少女が座り込んでいた。
「どうしたの?」
ソーニャが思わず声をかけた。
声をかけられたことかそれとも、人族だったからか少女は驚きに目を見開いたが、
「一生懸命育てているのに作物が育たないの。」
と涙目で訴えた。

ファーストは、土の状態を確認する。
「全く栄養もなければ、魔力も薄い。これでは育つものも育たないはずだ。」
「魔族の国にも魔物はいるんだろう?」
と聞けば、頷く少女。

「取り敢えず、どのくらいの畑が欲しいのか?」
と聞けば
10m四方を指差すので、一気に土魔法で幅50m長さ100mを耕し、収納していたギドラの食べない魔物をすき込んでゆく。
「穀物は何だ?麦か?米か?それとも芋か?」
と聞けば
「た、食べられるものなら・・何でも。」
と言うので適当にタネや苗を植えて、周囲を囲い結界魔法で出入りを制限した。
「お前以外は許可を出さなければ入られない。」
と言うと回復属性の魔力を大量に注ぎ込んだ。」
「多分2・3日ほどで実り出すからそれまで待て。」
と言いその場を後にしようとすると、
「待ってください。貰うだけでは私の気持ちがすみません。何もないですが一晩だけでも泊まっていってください。」
とまっすぐな目で言う少女に、ソーニャが
「ファースト様どうしますか?」
と、心の中ではほぼ決めているくせに、
「分かった、案内しろ。」
と言って少女の後をついていった。

少女は向こうに見える街の建物を避ける様に、岩陰の様な場所に有る小屋に案内した。
「お母さんただいま。お客さんを連れてきたよ、お母さんはそのままでいいからね。」
と言うとファーストらを食堂兼台所に案内し、お茶を淹れようと火をつけ始めた。

「俺は舌が肥えている、飲むお茶も決まっているだからこれでお茶を淹れろ。」
「ついでに飯も美味くないと食べない、ソーニャに作らせろこれは素材だ。余れば取っとけよ。」
と無愛想にいながら、ソーニャに魔法袋を渡した。

ソーニャはニヤニヤしながら、少女のところに行くときれいな水でお湯を沸かし始めた。


 ◇   夕刻。


美味そうな匂いがし始めた頃にファーストは、少女を呼んで
「母親は病気か怪我か?」
と尋ねた
「えーと、皆んなは風土病というの。身体の力が入らなくなって・・。」
「わかった、それなら俺に診させろ。治してやる。」
と言って無理やり母親の寝室に入ると、ビックリしている母親を無視して
「センサー」「ポイズン・テイク」「ヒール」
と重ね掛けして治療を終えた。

「どうだ?身体の具合は。」
とファーストが声をかけると
「あら!身体の痛みと怠さがないわ。力も入るわ。・・・(涙)」
その場に母と娘を残して、台所に移動すると
「ソーニャ、美味しくできたか?4人と1匹分だぞ。」
と声をかけた、ソーニャはそれを聞いてニコリと笑った。
「ファースト様はやさしんだから。」
ソーニャの声はファーストには聞こえていなかった。


 ◇   次の日。


早朝畑の様子を見にいった少女は、驚きで声が出なかった。
畑には青々とした茎が70cmほど伸びた稲や麦に何かの蔓がたくさん茂る様に伸びていた。
「凄すぎ!あの人は神様なの?」
雑草も伸びていたので丁寧に草取りをして戻った少女は、ファーストを見つけると黙って頭を下げた。
そして
「黒き神様、この御恩は決して忘れません。」
と何かを決心した様に言うと、母親の部屋に戻っていった。

朝食後ファーストは
「魔族の街に行きたいが道案内はできるか?」
と少女に聞いた、すると
「私の名前はルシファー。ここでは皆な本名を名乗りません、それは魔法が全ての世界で名前は大切なものだからです。」
と教えてくれた。

そして
「私たち親子は、村八分状態です。元天使長だった父が地に落ちてここに流れてきて住み着いたのです。そのため私たちは他所者と呼ばれて嫌われています。」
と言うと、一緒に行けば必ず絡まれるので迷惑をかけると断った。

「そうか、それならしょうがないが。お前に他所者の血が流れていると言う事で、嫌われているのなら俺たちと旅に出ないか?母親が食べるだけなら十分に食料はあるだろう。」
と声をかけると、ルシファーの母親がルシファーの背中を押しながら
「黒き神よ、我が娘をあるべきところに連れていってください。」
と頭を下げた。
「お母さん!」
「お前も決心ができていたのだろう、この槍を持って行きなさい。」
と一本の槍を持たせた。

「きっとお母さんを迎えに来るからね。まってて。」
と言いながら別れを済ませた母娘。
ルシファーは改めてファーストを見ると
「よろしくお願いします、何でもさせてもらいます。」
と力強く答えた。

ソーニャはルシファーに手を差し伸べ、ギドラの尻尾がそこに乗せられた。
「よし決まりだ。それじゃ行こうか。」
と言うファーストに続いて街の方に向かって歩き出した。



ーー  魔族王国東の街ダークナイト。


「しかし魔族領はいつもこんな天気なのか?」
と呟くファーストに
「天気?他では違うのですか?」
と聞き返すルシファー。
「お日様が照ったり、雨が降ったり、雪や風の日は無いのか?」
「え?そんなの聞いたこともありません。」
と答えた、偉く歪んだ世界だな。


「あれがダークナイトの街で、魔族のデーモンロード様が治める街です。」
と教えるルシファー、ここに人族がきたことは多分無いと思うと言われた。


門のところで、屈強な兵士が2人立っていた。
「何だ!他所者の娘と人族か?それにトカゲか?」
と嘲笑った途端、雷撃が2人に落ちた。
黒焦げになる2人にファーストは
「ギドラにその言葉は、死んでもしょうがないな。」
と呟く。

その騒ぎを聞きつけた兵士が10人ほど飛び出してきた。
「何事だ!ん!どうした、お前がやったのか?」
黒焦げになった男らを見ながら兵士がファーストに問う。
「俺では無いが、コイツら俺のドラゴンをトカゲ呼ばわりしたので、死んだだけだ気にするな。」
と言うと
「気にするなだと。貴様!おいコイツらをひっとらえろ!」
と騒ぎ出したが、すぐに誰も動けなくなった。
「グググ、コレハ・・オマエカ。」
「何だこの程度の威圧で動けないなど、弱すぎる。それで俺を捕まえるなど馬鹿なのか?」
と言い残すとファーストは兵士らを無視して歩き出した。
「えええ!大丈夫なの?」ルシファーがソーニャにそっと聞いた。
「ええいつもの事よ、人族の国でも国王を呼びつけて脅していたもの。」
と言う言葉にルシファーは
「やっぱり、黒き神ね。」
と呟いた。


そのまま街の中を歩くファースト達、街の住民が遠巻きで見る中、大勢の武装した兵士が現れた。
「そこの者待てい!我はデーモンロードのベッケン伯爵。お前は何者だ。」
と大きな身体の魔族が問うた。

「俺はファースト、女神の依頼でこの世界に来た者だ。俺の前に立ち塞がるな、消し炭になるぞ。」
と答えた。
「何!女神に・・・お前が「黒き神」とでも言うのか?」
と言う答えに
「黒き神、そんなのは知らん。そこを退け。」
と言いながら歩き出すファーストに、魔族が一斉に飛びかかろうとした。
「グラビティ」
と唱えたファーストの前に皆地面に貼り付けられた様に動けなくなった。
「俺はそこを退けと言ったんだ。地面にはいつくばるなら他所でやれよ。」
とわざと挑発した後、目を向けた兵士らに、威圧を叩き込む。

ほとんどの兵士が泡を吹いて気絶する中、デーモンロードの男が何とか立ち上がった。
「グラビティ」
もう一度の重ね掛けで、また地面に縫い付けられた魔族はとうとう気を失った。


そのままファーストは道を進む、ついて行く方がドキドキする。
「でも・・いつも私たちを馬鹿にしていた兵士がやられて、少しスッキリしたわ。」
小声でそう言うとルシファーは後をついて歩いた。


街を抜け、さらに先を進むファースト達のところに、前方から何かが飛んできた。
「ん!羽蟻たちか。」
とファーストが魔族が群れを成して飛んでくるのを見ていった。
「アリさんがかわいそうだよ。」
ソーニャが呟く。

その数1000人ほど、約100mほど先の上空30mほどで止まった魔族たちは
「お前がダークナイトの街を荒らした人族だな。ここで死ね。」
と言って攻撃をかけようとしたが
「グラビティ」「グラビティ」
とファーストが唱えると魔族らは、ものすごい勢いで地面に叩きつけられた。
「「「グッ、ハー。」」」
ほとんど一撃で抵抗することもなく、戦意と命を無くした魔族ら。
「お前らはバカばっかりだな。相手がどんな攻撃手段を使うかわからんのに、攻撃の時間を与えさらに皆で一所に集まるなど、殺してくれと言っているものでないか。」
と言うと無視して歩き出す。


さらに暫くすると、今度は無渡す限りに兵士が並んでいるのが見えた。
それを無視する様にファーストは歩き続ける。
すると1人の魔族が
「止まれ!これより先は魔王様の王都。向かわせるわけにはゆかぬ。」
と声をかけると、兵士に攻撃準備をさせた。

しかしファーストは、気にもしない
「俺の前に立ち塞がるな!」
と言うのみ。
「攻撃!」
男が兵士に号令する。
あらゆる魔法攻撃がファースト達に降り注ぐが、ファースト達の少して前で全て掻き消える。
一通り魔法が終わるとファーストが
「ライジン」
と唱える、どんよりとした空が真っ白い光で染められ、耳が破れる様な音が響き渡る。
それらが静まった後には、兵士の屍だけがあった。

かろうじて生き残った者に号令をした魔族がいたファーストは
「魔王にでも伝えな、手向かえばこの国は滅ぶぞと。」
と言うとそのまま歩き始める。

腹が減ったので、
「ここで一休みだ。」
と言いながら収納からテーブルや椅子を取り出すと、湯気を出した料理を次々に並べて
「さあ食うぞ。」
と言いながら食べ始めた。

食後にお茶を飲みゆっくりしていると、10騎ほどの空飛ぶ馬に乗った一団が向かってきて、すぐ近くに舞い降りた。
ファーストは椅子を一つ取り出すと、自分の前に置いた。
そこに男らが現れ、
「俺は魔王デアブロ、お前が黒き神か。」
と声をかけてきた。
ファーストは目の前に椅子を指示して。
「俺はファースト。黒き神など知らぬ。ところで俺のところに来た理由は何だ?」
と聞けば、椅子に座った魔王が
「それは俺が知りたいことだ、お前は何しにここに来たのだ?」
と魔王が聞き返す。
「俺は旅の途中だ、卵泥棒が谷の向こうに出てな。そいつらが俺に襲い掛かったから、その理由が知りたくてきたが。お前らはバカではないか?すぐに人を捕まえようとする。俺が「俺の前を立ち塞ぐな」「この世界に俺を止められるものはいない」と何度も言うのに。バカではないのか?」
と答えれば、何を言っているのだと言う顔の魔王が横にいたギドラに気づいた。

「お前は・・爆竜か?」
と言えばギドラが
「そうだ、今はギドラという名をもらった。主人の前に立ち塞がるな、本当にこの国が無くなるぞ。」
と念話で語った。
魔王は青い顔でファーストを見ると
「おまえ・・貴方の目的は・・観光なのか?」
と聞くと
「そうだ、旅の途中に立ち寄っただけだ。」
と答えた、すると魔王は
「それだけのために、精鋭15000が死んだのか?貴方は本当に黒き神に違いない。」
と言って地面に膝をつき
「数々の無礼、お許しくだされ。今宵は我が城でおもてなししたいと考えます、いかがですかな。」
と聞けばファーストは
「王都も見たいから一晩だけだぞ。」
と言って了承した。


ーー  魔王城。


魔王城に着いたファースト一行は、手厚くもてなされた。
しかしファーストは、
「料理がいけない。どうしてこうも不味いのだ?」
と魔王に聞いた
「不味いか。それはこの地が呪われているからであろう。水も不味く日も十分当たらぬ。」
と言う魔王にファーストは
「ならその呪いを俺が解いてやろう。」
と言うと空のみえるテラスに出ると、
「サーチ」・・「解呪」、「ハリケーン」
と唱えていった。
魔族領全体が眩しく光ると次に突風が噴き出し、雨が大地を叩いた。
1時間ほどするとどんよりとした雲が晴れ上がり、眩しい日が照りつけ出した。
遠くには川が現れた様だ。

「何と!これほどの力を。・・これで魔族も生きながらえる。」
と言うと魔王がファーストの目の前に再度、膝をついて
「黒き神よ、この御恩は決して忘れませぬ。」
と誓った。


その後は、王都の街に繰り出したファースト達、王都の住人らが青い空を見ながら笑い合っている。
特に珍しいものもなかったため、ファーストは魔王に多くの穀物の種を渡した。

「次来る時までには、良い国にしておけよ。」
と言うとファーストは仲間を連れて転移魔法で山脈の向こうに飛んだ。
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