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第5章 高島さんから僕へ2回目の告白

第69話 高島さんからお誘いの電話<2221.08.某日>

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 2221年8月某日、高島さんから電話をもらった。
 高島さんと電話でお話したことは何度もあったとは思う。でも何かに誘われるために電話をもらったことは、これまでになかったと思う。空白の9カ月を経て、この時の電話自体に驚きはなかったはずなので、この間シンキロウの活動で継続的に会ってはいたのだろうと思う。
 8月16日に、高島さんと一緒にある人のお話を聞いて欲しいという。場所は僕の実家のすぐ近くだと言われた。この時の高島さんの説明は端から端まで曖昧で、はっきりとしない内容だった。曖昧なことを言わない高島さんにはめずらしいことだった。
 高島さんから”曖昧な”お誘いの電話をもらったことで、僕は完全におかしなことを考えるようになってしまっていた。
 誰かのお話をとは誰のことなのか、実家の近くでとは随分至近距離だけど、どんな所なのか、わからないこと、曖昧なことばかりだったことから、あらぬことを考えはじめてしまった。あらぬことを考えはじめたのは、高島さんとのイベントが久しぶりだったこともあったのかもしれない。
 この時の僕は、高島さんは嘘を言わないという基本的なことが完全に吹き飛んでしまっている。
 あまりに曖昧な誘い文句だったことから、そう言って僕を誘い出しておいて、高島さんが彼女の僕に対する気持ちを打ち明けてくれるのではないのだろうかと想像を膨れませていた。
 しかし、そんなことができる高島さんだったら、これまでにだって既にそうしているだろうし、これまでにそうしなかったということは、そんなことができないのだとは気づけなかった。
 ただ、この時の僕は気づいていないけど、こう考えたのは、何も高島さんの曖昧な誘い文句だけが問題だったのではなかった。僕がだいぶおかしくなっていたのだ。それを自分では気づけていなかった。
 純粋に高島さんと僕だけのことならいつまでも待てたのだと思う。実際そうしようと自分では決めていた。でも、戸塚氏との関係をいぶかしく思うようになっていたこと、商品の販売という違和感しかないことを始めようとしていたこと、結婚する噂は流れているもののそれが誰なのか分からないことが原因して、精神的に極限状態になっていた

(もう待てない)

 言葉にして認識できるほど限界だった。でも一方では待てるだけ待ちたいという願望もあった。その鬩《せめぎ》ぎ合いから、とても8月16日を過ぎて高島さんのことを待てる気がしなかった。
 この頃は、僕から高島さんに告白する気持ちは少しも無かった。そんな自信は完全に蒸発しきっていたし、心理的にもうどうにもならないところまできてしまっていた。だからこそ、高島さんから気持ちを打ち明けてもらうことを期待するしかなかった。
 結果論とはいえ、高島さんのことを想っているだけの、約3年間だったわけで、僕と高島さんの関係はただの知人のまま。友達ですらない。それなのに、高島さんは結婚するという。結婚する相手が僕だと理解できる事実はなにもない。何もないまま数カ月が経ってしまっていた。そうなると結婚する相手は僕ではない誰かなのだろうと考えるようになってしまっていた。不安しかない。不安でしかない。自信もない。確実なことは何ひとつない。約3年の時間を掛けて、僕には確かなものが何ひとつなかった。だからこそ”高島さんからの言葉”が欲しかった。どうしても。

(ようやく高島さんの気持ちが聞ける)

 そう思い込んでしまった希望をもう修正することもできなくなってしまった。

(高島さんの気持ちが聞きたい)

 もうお誘いの実際がどうなのかは考えられなくなってしまっていた。現実が見えていない。ただ、来る日も来る日も高島さんから打ち明けられる気持ちへの期待に胸を膨らませていっていた。
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