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第5章 高島さんから僕へ2回目の告白

第65話 長谷川さんに<2220.11.26>

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 そもそも何故高島さんがこの商品を扱うことになったのか。
 以前半井氏から、戸塚氏がこうした商行為をやっていると聞いたことがあった。それをいつ聞いたのか覚えてはない。
 8月のコンサートから目に見えて高島さんと戸塚氏の接点が多くなっていると見受けられたことと関係していると思った。経緯《いきさつ》まではわからないけど、戸塚氏が高島さんに紹介したことは間違いないと思う。点と点が繋がって線になった時点から、戸塚氏に対する僕の感情は嫌悪感しかなくなってしまった。

              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              

 僕のトラウマからどうしても高島さんを直接説得するのは躊躇してしまう。でも今にして思うと「こういうのは嫌だな」と言ってあげるだけでも良かったのだと思う。この頃の僕に対する高島さんの尋常じゃない気の使いようを考えると、それだけで良かったのだと思う。
 植木代表夫妻から高島さんを説得してもらうことができなくまってしまって、それでいて直接説得することを避けるためには、新たに高島さんを説得できる人にお願いするしかない。
 誰にお願いするのか。
 シンキロウの男性スタッフにしても、女性スタッフにしても、そもそも高島さんが副業をはじめる準備をしていることを知っているのかがわからないので、藪蛇にしからない可能性がある。仮に知っていたとしても、僕から何故言わないのかという話になってしまうだろうし、言ってもらうことに成功したとしても、どうして僕がそんなお願いをするのかという問題が残ってしまう。

(シンキロウスタッフは無理かな……)

 高島さんのお母さんとお話してみるのもひとつの方法だと思った。電話でお話する方法も考えられるけど、勤務先が分かっているので行って直接お話するのもいいかと思った。お土産をいただいたときに、直接お話できなかったので、どうせなら後者が好ましいと思った。

(ほかに選択肢はないだろうか……あるとすると、高島さんの同級生の長谷川さんだな)

 長谷川さんはシンキロウスタッフとなってはいたものの、まだ日が浅く、それほどお話をしたこともなかった。ただ親しみやすい性格の方だったことと、大学が法学部だったと聞いたことがあったので、お母さんにお話する前に、長谷川さんとお話するのが好ましいと考えた。どうしても法律の話を避けては通れないことを踏まえると尚更だった。
 意を決して長谷川さんに連絡した結果、長谷川さんの職場近くのファミレスで会ってもらえることになった。
 当時の僕は心理的に切羽詰まっていた。高島さんの友人とはいえ、独身の長谷川さんを誘ってファミレスでお会いするのは流石に躊躇する気持ちはあった。ただ、そうすることに抵抗があるとか、そんなことを言っている場合でもなかった。危機感が僕の背中を押してしまっていた。
 長谷川さんにはどうあっても協力していただけるようにしなくては、後がない。お会いする日までに、説明する手順や、理解を深めるための資料の整理と準備を繰り返した。

              ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆              

 長谷川さんとお会いする日がやってきた。約束した時刻より早くお店に入った。長谷川さんは少しだけ遅れて来たと思う。
 高島さんが商品の販売を始めるための準備をしていることは知っているようだった。この商品を取り扱う商行為についての法律上の危険性について資料や条文を提示して説明していった。

(長谷川さん……ちょっと……)

 僕からの説明していることについて突っ込んでくることはなかったので、理解はできていたと思う。ただ今ひとつ浮かない表情をしていることを訝《いぶか》しく感じていた。

(どういう意味の表情なんだろうか……)

 高島さんへの説得や説明をお願いした記憶はない。お願いしてしまうと、それは長谷川さんからするとご自身で説明されたらと思われるのではと思ったからだ。ただ、そうして欲しいとにおわせる程度の言い様にとどめておいた。ただ、最初から最後まで困惑しているかのような表情を浮かべていたのが気になって仕方がなかった。
 僕からの説明が悪かったのだろうかと思いながら、長谷川さんへの説明を終えた。
 この後、高島さんから問題の商品の販売についての話を持ち掛けられることはなくなったので、長谷川さんから説明してもらったのだと思う。とすれば、この日長谷川さんが困惑したかのような表情を浮かべていたのは、僕の説明の問題ではなく、どのように高島さんのお話をするのかについて考え込んでいたのだろうと思う。間接的とはいえ、お願いしておいてアレだけど、その気持ちは現実のものとして理解できるので、実際そうだったのだろうと思う。
 結局、この商品の販売をやめさせる努力は実を結んだ…………はずだった。
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