紋様皇子が私の毒を喰らったと訴えてきます

騒がしい日々

バージルside泉の中

オアシスの泉の方で何やら騒がしい。私と連れの者たちは大きくなる騒ぎに顔を見合わせて、急ぎ向かった。そこには着飾った女たちが数人、私の配下に取り押さえられていて、ルリに付けていた侍女長が泉の側で長い棒を持った従者たちに何か言い募っていた。

私はゾワリと肌が泡だった。まさか…！私たちが駆けつけると、侍女長が青褪めた顔で私の足元にひれ伏した。

「バージル様！申し訳ありません！ルリ様が！ルリ様が泉に落ちてしまわれました。一度は浮かんできたのですが、もう一度沈んで終われてからはお姿が…！」


私は慌てて泉を覗き込んだ。従者たちがルリを探そうと長い棒を差し込むせいか、普段気配を消している泉の主が身体を浮かべていた。大きな口を持ったその主はいつもの様に棒に飛び掛かりもせず、ふいに沈むと二度と姿を現さなかった。

泉の中に揺れる白っぽいものが見えた気がして、従者から奪った棒をそこに慎重に伸ばすと、それは棒に絡みついた。水面に出た棒の先端にはルリが身につけていたと思われる美しい生地が垂れ下がっていた。


私はワナワナと震えて出したことの無い声で叫ぶ様に言った。

「誰だ！誰がルリを！」

すると人々の視線が兵士に押さえられた若い女たちに集まった。彼女たちは口々に叫んだ。自分達は何もしていない。あの醜い女が勝手に落ちたのだと。私は冷たい怒りが全身に巡る様な感覚に陥って、酷く冷酷な響きを声に乗せて言った。

「醜い？ルリは柔らかで美しい。あの可愛いルリをお前たちが妬んだのだろう？兵士、彼女たちを牢へ。追って沙汰を下す。」


悲鳴を上げながら引き摺られていく女たちにはもう関心は無かった。私は諦めずに捜索を続ける従者たちにそのまま続ける様に言うと、泉の周囲を辿った。

この泉は測れないほど深いが、決して大きくは無い。私の連れの従者らが私とは反対周りに捜索を始めるのを目の端で捉えながら、祈る様な思いで脚を早めた。ふと侍女長のいる淵とは反対の淵に当たるこの場所に、草木を押しつぶした跡が出来ているのを見つけた。


私は胸がドキドキと期待で騒ぐのを感じながら、薮から外へと続くその踏まれた跡を辿って行った。目の前には農耕エリアが広がっていて、作業中の農夫たちが作業に勤しんでいた。私の姿を見ると一様に顔を見合わせて、同時に彼らの住まう居住区へと視線を投げかけた。

聞くまでもなく、彼女はここを通ってあそこに行ったのだ。私は連れに農夫たちに話を聞く様に命を下すと、居住区へと走りだしていた。